はじめてのダンジョン
「さすがですね、お嬢様」
「セキラ様、すごい」
わたしが山頂に戻ると、アミナとクァザフの二人がわたしを称賛してくれた。それはうれしいんだけど、まだ最初の段階が成功しただけだ。
あの正四面体の宝石は、いわゆるダンジョンコアである。あれが周囲のマナや瘴気を吸収することで成長し、それに伴ってダンジョンが作られていくのだ。ひとまずダンジョンを生み出すことには成功したけど、次は十分に成長させなければならない。失敗すると、ダンジョンコアが消えちゃったり、壊れちゃったりする。
火山のゆれがおさまると、火口のあった場所の近くに階段が現れた。同時に火口からゆっくりとマグマが流れ出し、洞窟の周りに魔法陣を形作っていく。なかなかにきれいな光景だけど、ふつうの人間には見られないだろう。ちょっぴり優越感がある。
階段の先は、小さな洞窟に繋がっていて、そこがダンジョンの入り口だと容易に分かった。
「それじゃあ、行くよ」
わたしはこの先にどんな光景が広がっているのか、期待を膨らませながら階段を降りていく。あっ、しまった。わたしが生み出しちゃった魔物たちをそのままにはしておけないよね。
「魔物さんたちも、ダンジョンに入ってね」
わたしが命令すると、この山にいた魔物たちすべてが、ぞろぞろとわたしの後に続いて階段を降りてくる。その先頭はあの炎禍の竜だ。わたしの命令は瘴気を伝っていきわたるようで、瘴気の影響のある範囲全体に命令が届いたようだ。これであの村がはぐれ魔物に滅ぼされるなんて事態は防げるはずだ。
階段を降りて洞窟を進んでいくと、開放的な広場にたどり着いた。
「うわぁ、すごい!」
ダンジョンの第一階層は、この火口に入りきらないくらいの広い空間だった。たぶん、わたしの力の影響で空間が歪んでいるのだと思う。
その広場の大半は溶岩の池であり、陸地はわずかほどしかない。しかし、溶岩による浸食により陸地は削られ、また溶岩が固まって新たな陸地が生まれることにより、絶えずその姿は変化し続けていた。
溶岩の池の中には、とても大きなウナギのような魔物や、トビウオのように水面をはねる魔物など、たくさんの魔物がいて、それぞれ悠々自適に過ごしていた。
「ほんとにダンジョンだ」
クァザフも喜びの声を上げる。彼女はそのままウナギの魔物のほうへと飛んでいくと、その爪でウナギの魔物の首を裂いた。人間の姿だというのに、その爪の切れ味はすさまじい。
「あっ、ちょっと!」
わたしがあわててクァザフのところにいくと、ウナギの魔物の肉体は瘴気となって霧散していき、その図体の四分の一ほどの大きさの肉だけが残った。
「これ、おいしそう。セキラ様、食べて」
なるほど、クァザフはわたしにウナギの肉をプレゼントしようとしたわけか。たしかにかわいらしい行動だけど、いきなりだとびっくりしちゃった。
「ありがとう。でも、あんまり狩りすぎないでね。アミナ、料理して」
わたしはアミナにウナギの肉を渡すと、クァザフにダンジョンのことについて説明を始めた。
「ダンジョンの魔物って、ダンジョンコアにため込まれたマナを消費して作られるの。だから魔物を倒しすぎちゃうと、コアが成長できなくなっちゃう。わかった?」
「戦っちゃ、ダメ?」
そうやってお願いされると弱い。どうしようかと悩んでいると、いいアイデアが思いついた。
「これからダンジョンコアのある場所まで降りていくつもりだけど、一階層につき十匹くらいなら、戦ってもいいよ。何も起きないのも暇だもんね。アミナも、魔物を倒していいからね」
実際、そんなにかつかつなわけではない。ダンジョンに入ってからは、ドレスから自動的にあふれ出す瘴気のほかにも、わたしは意識的に瘴気を放出している。ダンジョンの中では瘴気はすぐに吸収されてしまうから、見た目にはまったくわからないけど。だから、魔物を倒してもその分ゆっくり目に進めばむしろ収支はプラスになるはずだ。
二人がうなずいたところで、ウナギの肉が焼きあがった。漆黒のソースがかかっているけど、色味としてはちょっと黒めのかば焼きだ。
「ふおお、おいしい!なにこれ、淡白な味なのに、いやだからこそ、手がとまらないよ!二人も食べて食べて!」
アミナとクァザフは辞退しようとしたが、わたしが命令して食べさせた。こんなのを独り占めにしたら、罪悪感で味が悪くなる。
「たしかに、想像以上のおいしさです。わたくしも、お嬢様にこの味を常にお出しできるように精進せねば!」
「すごくおいしい!セキラ様、分けてくれてありがとう!」
なんだかんだで喜んでくれたので、わたしもおいしくウナギを食べられた。
それから、わたしたちはのんびりとダンジョンを観光しながら下への階段を探し、どんどん地下へ向かっていた。途中、アミナやクァザフが何体か魔物を倒したけど、あまりに力の差がありすぎてただの素材回収になっていた。ちなみに、ダンジョンの魔物はわたしに攻撃できないので、わたしは戦闘に参加していない。そんなのは戦いじゃなくてただの処刑だ。
ダンジョン内で魔物などが死ぬと、すこしの素材を残してあとは瘴気となって霧散してしまう。これは、ダンジョンコアが魔物の瘴気を回収しているためだ。そのため、昔の魔王が作ったダンジョンのいくつかは、今でも冒険者たちの絶好の狩場となっている。魔物の死体を解体する手間がないので、時間効率が段違いなのだ。まあ、アミナは影のなかにいくらでも物を保管できるし、わたしも大きな物を持ち運ぶ手段はいくらでも持っているので、あまり重要じゃない話だ。
ただ、魔物から得られる素材が限定されているということで、アミナとクァザフはわたしにどれだけ価値のあるものを献上できるかという競争を始めてしまった。まあ実際のところ、このあたりの階層では魔王城に転がっているような素材しかないのだけど。最終的に、クァザフが溶岩の海の底から二枚貝の魔物を引っ張り出し、持っていた赤い真珠を手に入れたところで、競争はクァザフの勝利に終わった。
余談だが、火山の外にいた魔物たちには、自分の住みやすい階層を見つけてそこに定住するよう命令してある。半分くらいの魔物は最初のほうの階層にとどまったけど、残りはわたしからちょっと離れたところでついてきている。ついてこられるということは実力的に問題ないということなので、わたしは気にしないことにした。
そんなこんなで十階層分くらいを降りたところで、周囲の景色ががらりと変わった。ぱん、ぱんという音が響く。
「はへっ?」
その階層は、燃える竹がびっしりと植わった空間だった。火山の麓にあった竹林よりも広いこの竹藪は、突然ぱあんとはじける爆竹の生える場所なのだ。竹は爆発する瞬間にきれいな花火になるけれど、飛び散る破片は非常に危険である。
まあ、わたしにとっては、ただ極上の花火を楽しめるというだけの階層だ。アミナとクァザフも別に破片に当たったところで別に何ということはない。何なら、アミナはせっせと爆竹をいくつか回収している。わたしの観賞用だそうだ。
竹以外の植物もみんな燃えているけれど、そちらは別に破裂したりはしない。魔力的にはかなりよい素材みたいだ。でも、花火の階層で火のついた花があるのはちょっと面白かった。
それからも、燃える木の森だとか、溶岩に浮かぶハスの葉だとか、とにかく火属性っぽいものが特徴的な階層が次々に現れた。階層が進むにつれて、徐々に一階層あたりの大きさが広くなっていって、魔物もどんどん強くなっていった。といっても、アミナやクァザフは瞬殺しているし、ここまで強力な魔物の情報なんて誰も持っていないから、ぱっと見た感じの評価である。
そんな感じでさくさく進んでいると、とうとう五十階層にたどり着いた。そこに待ち受けていたものは、なんと、温泉旅館であった。
いや、なんで?
正確に言えば、この五十階層は、まるで千枚田のようにたくさんの温泉が湧き出ている場所だった。しかし、明らかに人工的な建物がひとつ、ぽつんと建っているのだ。不自然極まりない。
建物の扉をアミナが開けてくれると、赤い髪の女性がわたしに頭を下げた。
「ようこそいらっしゃいました、魔王セキラ様。どうかこの温泉で疲れを癒してくださいませ」
「えっと、いろいろ言いたいことはあるけど、とりあえず。あなた、何者なの?」
「わたしはダンジョンコアの意志により、魔王様をおもてなしするために生まれました。種族としては、ファイアゴーレム、といったところでしょうか」
えええ!?そんな種族、聞いたことがない。たしかに、ゴーレムは素材とするものによって種族が細分化するけど、炎を素材とするなんてできるのか。でも、彼女が体から火を発生させているところを見るに、本当なのだろう。
「じゃあ、ここに泊めてもらえるってことで、いい?」
「もちろんです。この旅館はご自由にお使いください」
そういうわけで、そろそろ地上も夜になる頃合いだし、今日は温泉に浸かって休むことにした。わたしの瘴気によってダンジョンコアの成長にも役に立つから一石二鳥だ。
わたしはこのダンジョン一階層分の広々とした温泉の中でも、かなり見晴らしのいい場所を見つけて、そこで肩までしっかり浸かった。わたしのために準備されたというのは嘘ではないらしく、湯面の高さもちょうどいい。
「お嬢様、お気に召したのでしたら、毎日この温泉を利用なさいますか?」
「うーん、たまにはいいかな。普段入るにはちょっと広すぎるよ」
そもそも、魔王城にはわたし専用のお風呂が数えきれないほどある。この温泉ほどではないけれどどれも非常に広く、しかも景色も堪能できるようになっているのだ。それでさえ使うのに気が引けるのに、こんな秘境の温泉を普段使いする気はない。今日は、一応クァザフが遠くでゆったりしているのが見えるから、まだマシなのである。
なんだかんだで温泉を堪能して、アミナのマッサージまで受けたわたしは、旅館に戻ると、ファイアゴーレムさんの料理でもてなされた。
献立は、火属性を意識しているのか、赤くて辛い料理だった。真っ赤なスープに、赤くて火が付いた葉っぱのサラダ、そして香辛料をたっぷりつけて焼かれた溶岩牛のステーキ。どれもとても辛かったけど、その辛さと食材のうまみが相乗効果をもたらして、とてもおいしかった。なんだか、新境地を開いた感覚だ。でも、さすがに明日の朝もこれを食べるのは勘弁である。
わたしの寝室は、リラックスする香りのキャンドルが焚かれた部屋で、広すぎず狭すぎず、とても落ち着いた部屋だった。黒ガラスの工芸品がいくつか飾られていたけれど、魔王城の寝室とくらべればよっぽど質素である。わたしは、落ち着いてゆっくり眠ることができた。
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