雪の結晶が降る夜

近江結衣

第1話 聖女の予知1

 粉雪が風に舞っている。


 さらさら、さらさらと地面から舞い上がり、青空に消えていく。


 昨夜降った雪は本当に粉のようだった。軽く大気に乗り、辺りに散らばっていく。


 リリッシェは雪にすっかり隠れた道を、仕事場に向かっていた。


「おはよう。リリッシェ」


「今日はいい雪だよね」


 街の人がリリッシェに声をかける。皆、笑顔にだ。清い粉雪がうれしいのだ。


 リリッシェが住む国にとって、雪は尊いものだ。


 ここは雪の妖精と縁深い国だからだ。古くから雪の妖精に愛されている。


「そうだ、リリッシェ。聞いたわよ、あなたの予知」


「すごい、いい知らせだよね。リリッシェローズ聖女さま、すごいじゃないか」


 みな、心底うれしそうだ。


「ああ、王子さまの婚約の予知よね」


「お手柄よね。リリッシェ」

「もう、王子さまって勉強ばっかりで。今まで一度も恋したことがないというんだから」


「でも、それもやっと終わりなのね」


 そうでしょそうでしょ、お手柄でしょ?


 持ち上げられてうれしくて、リリッシェは口走りそうになる。

 

 ひたすら誠実で、いつも国に尽くすライファン王子。王都を護り、自然を護り、雪の妖精の森を護り。全てをうまく治めている。


 雪の妖精にも愛され、何度も奇跡を受けていた。

 

「本当に禁欲的で。そこが素敵だけと。でも恋して幸せになって欲しいわよね」


 そこかしこから、感嘆のため息が漏れた。

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