第3話

先週の日曜日、二階の子供部屋で昼寝をしていた小学四年生の弟が、階段を転げ落ちるように下りて来た。

「お、お母さん!!」

「どうしたの? タツヤ」

「で、出た!」

「何が?」

「ゆ、幽霊!」

「そう」

 思いっきり慌てている弟と対照的に、動じない母は優雅にコーヒーなど飲んでいる。

 そのままでは、話が進まないので、私が代わりに訊ねた。

「何処に出たの?」

 差し出したコップの麦茶を一口飲むと、タツヤは、少し落ち着いた。

「僕の机の引き出しを、誰かが、開けようとしていた」

「誰かって、人の形していたの?」

「うん。寝ていて、何か音がしたの。目を開けたら、机の所に人影があって、でも透き通って向こう側が見えて……」

 思い出して怖かったのか、ブルッと身震いした。元々色白の顔が、蒼ざめている。

「何をしていたんだろうね」

「分からない。引き出しの中には、文房具しか入ってないし、後は、点数の悪かったテス……ごにょごにょ」

「まぁ、気にするな。大丈夫だよ」

 母は、タツヤの背中をポンポンと祓うように軽く叩いた。

「気付かない振りをして、やり過ごせば問題無いと思う」

「気付いた事に、気付かれたら?」

 タツヤの声は、若干震えている。

「それは、少し絡まれるでしょうね」

「どうしよう。大声上げて、逃げて来ちゃったよぉ」

 もう駄目だぁと、頭を抱える。

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