第22話 世界図書館
それからまず数日。移動と休みを繰り返し……。
「……アモルくん。見えた、あれが世界図書館」
エレテが指した先、指さなくてもわかるくらいの巨大な建物が見える。
アモルの感覚では学園の巨大さにも引けを取らない。
「あれが……世界図書館……」
アモルも噂では聞いたことがあった。
叡智の宝庫と言われる伝説の図書館。
その広い空間には、人が一生かけても読み切れない本があり、調べてわからないことはないという。
ただ……。
(世界図書館の場所は謎ですぐには見つからないって話だったけど……)
そう考えていたアモルの予想通りとなる出来事が起きる。
「なにっ!?」
「えっ!?」
アモルたちの目の前で巨大な図書館の建物が消えていく。
まだ少し距離があったとはいえ、目の前で見失うような小ささではない。
「消えた……?」
「と、とりあえず建物があった場所まで行こうよ!」
スイの言う通りに空飛ぶ絨毯を建物が見えた場所に近づけるアモル。
絨毯の上からも、降りてから周りを見渡しても、どこにも巨大な図書館が見つからない。
「エ、エレテ。エレテは図書館に来たことがあるって言ってたよね。何かわかる……?」
アモルはゆっくりエレテの方を向き聞くが、エレテは勢いよく首を横に振った。
「し、知らない。私もこんなこと……」
エレテもすごく動揺して、何が起きたかわからない。
「シオン……?」
シオンも首を横に振り。
「スイ先輩……フウ先輩……」
先輩二人もまるで知らないという様子であった。
アモルたちはしばらく近辺を探したが、世界図書館の行方はわからないまま時が過ぎていた。
「どうしよう……」
全員で困り果てる。
そんな中、スイが仕方なさそうに呟いた。
「図書館が見当たらなくてここで止まっててもしょうがないし……
先にヒノがいるリート火山に向かわない?」
「う~ん……」
アモルにも当然その考えはあった。ただ気になることもある。
「アモル……?」
「いや、エリスさんは、先にアス先輩に会えって言ってたからさ」
「それは位置関係のことじゃないの……?」
アモルも少しだけそう思った。ただその辺り詳しく聞かなかったなことを後悔する。
「……わかった。アス先輩には悪いけど、先にヒノ先輩の方へ向かおう」
そう言うとアモルたちは空飛ぶ絨毯に乗り直し、リート火山の方向へ移動を始める。
しかし少し進んだところで、エレテが声をあげた。
「アモルくん、あれ!」
エレテの声に皆が振り返る。そこには……。
「え、あ、あれ?」
少し離れた位置に巨大な図書館の建物は存在していた。
「い、行こう!」
動揺しつつも再度、絨毯で図書館の建物に向かっていく。が……。
「……あ!」
また少し図書館に近づいたところで、再び建物は幻のように消えてしまう。
「幻……か」
アモルは思いついたことがあった。
それを試すために、精神を集中しながら絨毯をゆっくりと移動させていく。
「……! ここだ」
「えっ、何が?」
皆がアモルに視線を向ける。
アモルは指で絨毯の一角を叩きながら言った。
「ここ。この辺りより向こうから微かに魔力反応が出てる。きっと結界か何かが張ってあるんだ」
アモルは思いついたことがあった。
それを試すために、精神を集中しながら絨毯をゆっくりと移動させていく。
「……! ここだ」
「えっ、何が?」
皆がアモルに視線を向ける。
アモルは指で絨毯の一角を叩きながら言った。
「ここ。この辺りより向こうから微かに魔力反応が出てる。きっと結界か何かが張ってあるんだ」
アモルはエレテのほうを向いて改めて質問する。
「エレテ。ほんとに何でもいいから、エレテが前に来た時と今での違いを言ってほしいんだ」
「え、えっと……。前は一人だった、とかでいいのかな?
あとは……空を飛んでないから歩いてきた、とか……かな」
(一人か……地上からか……あるいはその両方か)
アモルは絨毯を結界と思われる位置から離す。
予想通り、アモルが魔力を感じた位置から離れると、図書館の建物は見えるようになった。
「本当だ」
「アモルくんの予想通り……」
(となると……)
アモルは皆を見て直感で順番を決めた。
「よし。僕が最初に行って様子を見る。
その後から時間を空けて、エレテ、フウ先輩、スイ先輩、シオンの順番で図書館に向かってほしい」
そう言ってアモルは一番を歩き出す。
また消えないかと緊張が走るが、魔力を感じた地点を抜けても確かに図書館は残っていた。
(よし!)
アモルは後方を確認する。シオンたちも頷いているのが見える。
そして無事、アモルたちは順番に世界図書館に入ることに成功した。
「ふー。無事についた」
「アモル、どうやって分かったの?」
「予想でしかないけど……」
アモルの考えはこうだ。
エレテが言った違い。一人か複数人か、地上か空か。
そして世界図書館という重要な場所に外からの攻撃対策がしてないとは考えにくい。
「だから、一気に空から攻め込まれないよう地上を、
しかも大人数で一気に入れないようになっている、と考えたんだ」
「その通りデス」
図書館の受付から無感情な声が響く。
ゆっくりと受付の『それ』はアモルたちの方へ向かってきた。
「……人形?」
受付から来たそれは人間のような姿をしているものの、
動きが人間のそれではなかった。眼も生気がなく、
顔はアモルたちの方を向いているが、どちらに目がいっているかまるでわからない。
「受付さん。お久しぶりです」
エレテが挨拶すると、受付人形は顔を一回転させ思い出したかのように声を出す。
「ああ、貴女はエレテさん。でしたネ」
エレテが頷くと、受付人形も頷く。
そのままエレテが本題に入った。
「受付さん。ここにアス先輩……。じゃなくてアスっていう人が来ていませんか?」
「アスさんですネ。少々お待ちを……」
受付人形の顔がグルグルと回り続ける。
しばらく回った後ピタッと止まり、エレテに向き直った。
「アスさんの場所にご案内しまス」
受付人形が図書館の奥へ向かい始める。
アモルたちも慌ててその後ろについて行く。
移動しながら受付人形は呟いた。
「アナタたちはアスさんとはどのようなご関係デ?」
「あ、私たち姉妹なんです。私とそこのフウはアスと」
スイが受付人形に答えると、人形は再び顔を回転させながら言った。
「姉妹。姉妹デスか。ワタシも昔は同型の姉妹がココでたくさん働いていましタ。
しかし時が経ち、大半が動かなくなっていきましタ」
「受付さん……」
思いがけない返事に皆困惑する。
この受付は間違いなく人形のはず、なのにアモルが見た人形の横顔は少し寂しそうに見えた。
それからしばらく無言で皆歩き続ける。
数分……数十分……。
「……長い」
ついに小さくアモルの声が漏れた、
建物が広いのは外からでもわかっていた。
しかし広いだけでなく、受付人形は右へ左へ行くのでもはや今どこにいるかもわからない。
「あの……受付さん?」
アモルの声が聞こえたのか、エレテが受付人形に問いかける。
受付人形は無感情の声のまま
「もう少しデス」
とだけ言った。
それからさらに数分が経ち受付人形が止まる。
「こちらデス。今、開放しますネ」
受付人形の前にあるのは特に大きい扉だった。
その扉には『禁止区域』と大きく書いてある。
(『禁止区域』……? アス先輩はここにいるのか?)
どう見ても固く閉ざされている扉。
ここに本当にアスがいるのなら、前に来たエレテがアスと会わなかったのも無理はない。
「開きまス」
その言葉とともに扉が音を立てゆっくりと開いていく。
「ドウゾ」
受付人形は中を指すだけで動かない。
(案内はここまで、ってことかな)
アモルは恐る恐る中へと入る。その後ろに皆続いていく。
中は暗い。
巨大な本棚がわずかに見えるくらいの明かりしかついていない。
本当にこんな暗いところにアスはいるのかと、さすがのアモルも不安になった。
「アモル。あっち……」
暗い中シオンが指した先、他よりも明るい光が見える。
「アスせんぱーい?」
近づきながら小さくアスがいるかと呼びかける。
そこには……。
「スゥー……スゥー……」
本の山に囲まれ居眠りしているアスの姿があった。
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