第20話 ヒノとアスの行方

「う……ん……」


エレメント家の屋敷の一室で、エレテは目を覚ました。


「エレテ」


その時はシオン、フウ、スイの三人ともいたが、シオンが一番最初に気がついた。


「……シオン。私……は……」


「ちょっと待ってて、アモルを呼んでくるから」


シオンが部屋から出ていく。

代わりにスイとフウがエレテに近づき見守りながら優しくエレテを撫でる。


「大丈夫。もう少し休んでれば怪我も落ち着くって」


「……話は、アモルが来てから」


エレテは小さく頷き、布団の上でアモルを待つ。

すぐに屋敷内を走る音がし、部屋の戸が勢いよく開いた。


「エレテ!」


現れたアモルの表情は嬉しさで溢れていた。

エレテは思う。シオンや先輩たち、ラヴがいても関係ない。

アモルは間違いなく自分のことも好いていてくれていることを。


それからエレテは今までのことを語った。

大災厄の後、自分は偶然か奇跡的にか数日で目覚めたこと。

パーティーの時の事を悔いて力を求めたこと。

いろいろ試したがなかなか力は手に入らず、偶然見つけた呪いに手を出したこと。


「でも呪い、解いちゃったんだ……」


エレテは感じていた。呪いの苦しみは確かに消えた。

しかしそれと同時に呪いで手に入れていた力も消えていることに。


「……ごめん」


「アモルくんが謝らなくていいよ。助けてくれたんでしょ?」


エレテは久しぶりに微笑んだ。

ずっと力を求め笑うことなど忘れていた。

だが、アモルの前で昔の微笑みを思い出すことができた。


「……でも、力なくなっちゃったから、戦闘は足手まといになるね」


「そんなことは……」


「そんなことない!」


何と声を掛けようか悩みつつ言おうとしたアモルの後ろから、スイが声をあげた。


「「……スイ先輩?」」


アモルとエレテが同時に呟く。


「エレテちゃんの呪いの力は確かに消えたかもしれないけど、

 力を求めていろいろ調べてきたんでしょ? それはきっと役に立つ」


スイは諭すようにエレテに告げた。

しかし自身は落ち込むように最後に呟く。


「私は、つい先日まで意識が戻ってなかったから……」


「あ……」


エレテは気が付いた。

そうだ、自分は偶然早く目覚めただけで目の前のスイ先輩は先日まで目覚めていなかった。

今ここにいない、ヒノ先輩、アス先輩もどうなっているかわからないと。


「……ごめんなさい」


「ううん。責めたわけじゃないの。ごめんね、こっちも嫌味っぽい言い方で」


二人はお互いに謝り合い、スイはいったん距離を取った。

エレテが再びアモルを向く。


「アモルくん。私の今まで調べてきたことを教える。

 だから……一緒にアーマを倒してほしいの」


「エレテ……もちろん!」


エレテが出した手をアーマは力強く握り頷いた。


「……アーマを倒すことも重要。それもだけどエレテ。ヒノとアスは見てない?」


フウが質問する。しかしエレテは首を横に振った。


「……そう」


「ごめんなさい、フウ先輩。今までは力を求めることしか考えてなかったから……」


力と聞いてスイが気づいたように顔を上げた。


「力! ヒノが目覚めているなら力を上げようとすると思うの!

 エレテちゃん何か力を上げるような場所、心当たりない?」


エレテは考える。

力を求めるために研究してきた場所。


「ヒノ先輩は火属性。ならリート火山かも……」


「リート火山って……」


「はい。火属性魔法の祖であり精霊でもあるイフリートの聖地です」


魔法の四大属性『地水火風』。その内の火を司る精霊イフリート。


「確かにスイ先輩の予想通りなら、ヒノ先輩はリート火山にいるかもしれません。けど……」


「……リート火山は遠い」


フウの言葉に一同、頭を抱えた。


「確実にいるなら飛ばしてでもいきますけど……」


アモルはそう言うもののシオンは。


「いなかったら……ねえ……」


考える一同。

その時、部屋の戸が勢いよく開いた。


「なんだ、皆して。考え事か?」


「ゴンノスケさん。実は――」


アモルは経緯を説明する。

するとゴンノスケは呆け顔で言った。


「む? ヒノとアスの居場所? そのことなら我が愛妻エリスが知っておるが」


「えっ」


「なにを今更。予言者エリスを忘れてどうする」


ゴンノスケ以外の皆、顔を合わせ「あ」となっていた。




予言の間ではエリスが佇んでいた。


「エリスさん。ヒノ先輩とアス先輩の行方を知ってるって聞いたんですが……」


「……」


部屋の奥を見つめるエリスの返事はない。


「エリスさん?」


「……私を」


「え?」


瞬時にアモルたちは恐怖した。部屋の奥を向いているエリスは……。


(怒っている!!)


皆、感じ取った。

ゴンノスケが言うまで予言のことを忘れていたことなど誰の口からも言っていない。

だが既にわかっているのだと。


「エ、エリスさん、落ち着いて……」


「そ、そう。お母さんらしくない……よ?」


アモルとスイがゆっくりエリスに近づく。

瞬間、エリスが素早く振り向いた。


「私らしくない……?」


エリスは急に下を向いた。


「私だって……」


「え?」


「私だってこんな子供っぽい拗ね方、娘たちの前で見せたくはない!

 けど……忘れてるって何! つい先日エレテさんの呪いのこと予言してあげたでしょう!」 


エリスは子供のように喚いた。

以前アモルが見た子供っぽい性格のエリス。悲しくて怒って素が出た感じだろうか。


一方、素を知らないシオン、エレテ、そして娘たちであるフウ、スイも驚きの表情でエリスを見る。


「おお! 我が愛妻エリス。落ち着きたまえ。娘たちも見ているぞ!」


ゴンノスケがエリスを慰める。しばらくエリスは子供のように拗ね続けた。


「びっくりした。お母さん。素が出るとあんな感じなんだ……」


「……わたしも初めて見た。ヒノやアスも知らないと思う……」


「あはは……」


アモルは自分は知っていたことは黙って、苦笑いするしかなかった。




「コホン。……見苦しいところを見せました」


数分後、エリスはいつもの冷静な様子でアモルたちに向き合う。


「い、いえ……」


ゴンノスケに慰められたとはいえ、エリスの変貌っぷりにアモルは改めて驚く。


「ヒノとアスの居場所ですね。もちろん予言済みです。

 ……大切な娘たちのことです。予言してないわけないでしょう」


「お母さん……」


「母様……」


スイとフウは嬉しかった。

今まで予言の間での仕事姿が主で、母親らしさを感じていなかった。

それがちゃんと自分たちを心配しているとわかったから。


「さて、ヒノですが……貴方たちの予想通りです」


「ということは……」


「はい。リート火山です。ですが先にアスを見つけた方がいいかもしれませんね」


「アス先輩を?」


アモルの問いに頷くと、エリスは地図を広げ一点を指した。


「この屋敷からリート火山への途中、世界図書館にアスはいます」


その言葉にエレテが反応する。


「世界図書館なら私も行きましたけど、アス先輩いたんですか……」


「エレテさんが探していたのは力関係だからでしょう。

 アスは別の棚で何か調べものをしているようです」


「調べもの……?」


「賢いアス先輩のことだから、何か重要な調べものかも」


皆で頷き合う。


「じゃあ、ヒノ先輩とアス先輩の行方もわかったし」


アモル、そして皆エリスの方を向いて頭を下げる。


「エリスさん、ありがとうございます! そして……忘れていてすみませんでした!」


「いえ。いいのですよ。ただ……」


エリスは皆を、特にフウとスイを見ながら小さく呟いた。


「ヒノとアスには先程の私の姿、内緒にしてもらいたい……」


そのエリスは顔が真っ赤であった。




「さて、じゃあ行こうか」


アモルが屋敷を出て一歩踏み出した時だった。


「これこれ、歩いていくつもりか?」


エリスが引き留める。


「え? 今までも学園跡にも徒歩でしたけど」


「その時は間に合わなかったからのう。ほれ」


エリスが大きな布を出す。


「こ、これ!」


「……母様。完成したの」


スイとフウが驚きの反応をする。


「うむ。我が夫ゴンノスケの協力もあり先程完成した」


エリスが勢いよく布を広げた。


「伝説の書に記されし移動用道具……『魔法の絨毯』!」


「魔法の絨毯!?」


アモルも驚いた。

てっきりおとぎ話の道具と思っていたからだ。


「きちんと乗れる人数も調整済み。さあ、アモル!」


「はい!」


アモルが先頭に、そして皆順番に絨毯に乗って行く。

皆が乗り終わるとアモルは高らかと宣言した。


「アス先輩と、ヒノ先輩の元へ、出発!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る