災いが起きる?
お告げとミサキ
割れたガラスに視線を向けて、俺はサチに尋ねる。
「窓ガラスこんなにして。後で怒られるよ?」
俺の言葉に、サチは意にも介さず、「だいじょーぶだいじょーぶ」と軽く言う。
「母さんだって昔、ダンベルしながらエクササイズして窓ガラス割ったことあるから、強く言えないって」
「親子そろって何してんの?」
「それよか、どーよ。あたしの踊りは」
サチが床の間に座る狐耳の子ども、もとい田の神に尋ねる。
田の神は湯呑みをおいて、こう言った。
「うむ。まあ、珍妙ではあるが、よい踊りであった」
田の神はそう言って、床の間から立ち上がり、くるり、と一回転する。
ふわりと、白く薄手の着物の袖が舞った。こっちの方が、よっぽど神様に捧げる踊りらしい。
「礼としてあることを教えてやろう。――この土地に、とある災いが起きる」
「……災い?」
なんだか、物騒な言葉が出てきた。
俺の疑問には気にもとめず、そのまま田の神はお告げを続けた。
「まずは最近起きる、事件を調べてみよ。そして、お前たちの周囲を疑ってみるといい」
そう言って、田の神は和室のに手をかけて、そのまま開け放った。
そしてそのまま、コンクリートで固められた地面に降りる。裸足で。
「暑っつい!!」
……やっぱり、神様でも暑いんだ。この異常気象。
箒で窓ガラスの破片を集めながら、俺は尋ねる。
「さっきの田の神って、どこから来たんだ? なんか、狐耳生えていたけど」
「んー、詳しいことは言わなかったけど、ミサキの類じゃね?」
ミサキ。……って、なんだっけ。
「ミサキっていうのは、予兆とかお告げとかしてくれる、小規模の神様? 稲荷神社の狐とかがそれよな。ホントは神じゃなくて神の使いなんだけど」
「え、そうなの?」
てっきり、稲荷神社の神様は狐なんだと思ってた。
「まあ、元々狐は田の神の化身だって考えられてて、そこに稲荷神社を勧誘したりして混ざったらしいから。あの田の神もそうなのかもな」
「なるほど……」
幸村家に来てから、妖怪の本を読むようになったけど、サチの知識と頭の回転には舌を巻く。
「でも災いって……一体何が起こるんだろ……」
「詳しく言わないで思わせぶりなポエム呟くのも神様らしいよな。あんまり突っ込むと祟られそうだから、質問しなかったけど」
一応、サチも神様に祟られないように気をつけていたらしい。祟られないようにしてこの態度なのがヤバいけど。
「そんなわけで、これ片付けたら調べようぜ」
「……やっぱり、首突っ込むの?」
俺、嫌なんだけど。
と言って、止まるサチじゃない。止まっていたらこの半年、俺の心労はもう少し軽かった。一人でも「キャッハー!」と笑いながら怪奇現象や事件に突っ込んで行く姿が目に浮かぶ。
はあ、と俺はため息を着く。
一体、この夏はどんなことになるのやら。
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