8/26【月】曇りのち雨―18日目―

ボクは今ある場所に向かっている。


先週、クラスメイトの水谷さんを見かけた川辺だ。


今日も居るかはわからないけど、とりあえず信じて行ってみる。


家から歩いて7〜8分、小川に到着した。


前回見かけた場所に行くと、人影は見かけなかった。


ハァと深いため息を吐いて、辺りを見渡した。


すると川上のほうになにかが動くものが見える。


確認のためなにかがいるところへ移動した。


目的地に向かって歩いていると、段々と正体が見えてきた。


それは水谷さんだった。


手に持った小石を川に淡々と投げていた。


表情はよくわからない。


無感情だけど、石を投げるときなにか少し怒りのようなものを感じた。


話しかけづらい雰囲気だったけど、ボクはググッとお腹に力を入れて声を出した。


「水谷さん、こんにちわ」


なるべく気さくな感じを出して話しかけた。


水谷さんは一瞬、ビクッと体を硬直させてから恐る恐るボクのほうに顔を向けた。


「若木くん?」


クラスでよく聞くか細い声だった。


ボクは水谷さんの1mぐらい離れた川辺の砂利の上で足を止めた。


「たまたまココ通りかかったら水谷さん見かけてさ。邪魔しちゃったかな?」

「ううん、大丈夫。なんか久しぶりだね」

「だねー」


ちょっとだけ水谷さんの顔に笑顔が見えて、ボクの心が軽くなる。


暑いねーとか宿題ダルいねとかなんてことない会話をして5分後、話すことがなくなりシーンと静かになる。


2人で黙って川を見つめていた。


沈黙に耐えきれず横目で水谷さんをチラ見する。


しゃがみこんで両手を組み、うつろな顔をしてた。


「……なんかあった?」

 

気づいたらそんな言葉が出ていた。


自分でもビックリするぐらいに自然としゃべっていた。


その言葉に水谷さんはボクがさっき話しかけたみたいに、体をビクッとさせた。


「別に……ないよ」


かすかに震えて、手をぎゅっと握っていた。


「ほんと?」

「……うん」


なにか喉に詰まったような声にボクは確信した。


水谷さんは人に言えない問題を抱えてるんだ。


たぶんボクにはなにも出来ないだろう。


だけどならもしかしたら……


「水谷さんにあげるよ」


ボクは右ポケットから2粒のタネを出し、手のひらに乗せ水谷さんの顔の前に差し出す。


「なにこれ?」

「これはね……」


ボクはタネについて説明した。

でもやっぱり水谷さんは、半信半疑って感じだった。


「若木くんは変な冗談言わないって知ってるけど、願いが叶うとかちょっとなぁ」

「まあ信じられないよね、ボクも最初そうだったよ。だけど実際叶えてくれたんだ、騙されたと思って育ててみてよ」


なにかを考えて水谷さんはボクの目をまっすぐに見てきた。


「なんで私にここまでしてくれるの?私たちって別に友達っていうほど仲いいわけじゃないし」

「……ごめん言葉にするの難しいや。ただボクがこうしたいって思っただけなんだ。こんな変な答えでごめんね」


飾らず思ったことを伝えた。


すると、「そっか、ありがと」と水谷さんはそっと微笑んだ。


水谷さんはボクの手のひらに乗せられた2粒のタネを、人差し指と親指でつまんだ。


「わかった、騙されたと思って育ててみるね」

「……うん!がんばって!」


受け取ってもらえたことが嬉しくてつい大きな声が出てしまう。


水谷さんはクルッとボクに背を向けて、顔だけコッチを見てきた。


「ちゃんと願いが叶ったら、学校で報告するね。それじゃ今日はありがとね、バイバイ」

「うん、また学校でね。バイバイ」


お互い手を振り、ボクたちは川辺で解散した。


ボクは水谷さんの背中を見送りながら、水谷さんのお願いが叶うことを願った。

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