8/24【土】曇りのち晴れ―16日目―
ボクは今縁側で野菜畑を眺めている。
上で風鈴が風に揺られてチリンチリンと鳴っている。
周りは一面緑で、近くでセミの声がうるさいくらい聞こえてくる。
ここはおじいちゃんとおばあちゃんの家だ。
ボクの家から車で1時間かけて遊びに来ている。
お父さんは広間で昼寝、お母さんはおばあちゃんと夕飯の支度をしている。
おじいちゃんはボクの目の前の庭にある畑で手入れ中だ。
そしてボクは何をするわけでもなく、こうやってボンヤリしている。
昨日の水谷さんについてずっと考えている。
あのとき話しかけたらよかったのかって。
たぶん何か悩んでいる。
しかもかなり深刻な感じがした。
正直話しかけて悩みを打ち明けられたとしても、なにかできるか自信がない。
でもスルーしようにも心の奥にひっかかってしまう。
モヤモヤしていると、「おーい
ボクは縁側の前にある石に置かれたサンダルを履き、おじいちゃんの下に駆け寄る。
「なぁに?」と聞くと、「ちょっと食べてみ」とキュウリを差し出された。
受け取ったボクは恐る恐る口に入れ、ポキッとキュウリを折りボリボリキュウリを噛んだ。
「ん、美味しい」
「はは、そうかそうか」
ボクが味の感想を言うと、おじいちゃんは嬉しそうに目を細めた。
キュウリを食べながら周りを見渡すと、キュウリの他にトマトやトウモロコシ、スイカも美味しそうに実ってた。
まるでスーパーの野菜売り場みたいに1面野菜まみれだ。
「おじいちゃんとおばあちゃん2人で育てたの?」
「ああ、そうだよ。大事に丁寧に育てたんだ。稔みたいに大きくなれよーとか、病気せずに元気に育てよーって想いながら頑張ったのさ」
「へぇ」
自分は植物とか野菜とかまともに育てたことがないからホントすごいなぁって思った。
今は変な花を育てて(?)いるけど。
ちなみに今日は外でなにかあったときのために、念のためポケットに不思議なタネを1粒入れてきている。
……そうか“お願い”すれば、水谷さんの悩みももしかしたら解決できるかもしれない。
でも何について悩んでいるかわからないし、このタネでもどうにかできるかもわからない。
そもそも話しかけなきゃだし。
また頭の中でグルグルと悩み始めてしまった。
様子が変なことに気づかれたのか、「ん?どうかしたか?」とおじいちゃんがボクの顔を覗いてきた。
「まあ、ちょっとね。実は……」
今自分が何に悩んでいるか正直に話してみた。
なんにでもすがりつきたい気分だったし、おじいちゃんならなんかいい意見くれるかもって。
「へぇ友達が悩んでいるから力になりたいってことか?」
「友達ってわけじゃないんだけど……まあ力になれたらいいなとは思う。だけどボクにできるか不安なんだ」
「そうか、助けたいって結論が出てるならとりあえず動けばいいさ。頭で悩んでるときは心に従えばええ」
「大丈夫かな……」
「一緒に悩んであげるのも相手にとっては力になるもんさ。ダメそうなら信頼できる大人の力を借りてもいい。どうせ悩むなら行動してからでもいいんじゃないかの」
「うん、そっか……」
2人で話をしていると、「そろそろご飯よ~」と遠くからお母さんの声が聞こえてきた。
気が付けば日は傾いて、空は夕焼けもようになっていた。
「それじゃあ食べに行くか」
「うん」
心が少し軽くなったボクは、軽い足取りで家のほうへ小走りした。
だが途中なにかに足を引っかけて、畑で盛大に転んでしまった。
「おやおや大丈夫かい?」
「いてて……土が柔らかいから怪我はしなかったよ」
「はは、普段から稔がケガしないようにおじいちゃんが仏様にお願いしてるおかげかな」
パンパンとボクの足に付いた土をおじいちゃんが取ってくれた。
おじいちゃん色々ありがとう。
とりあえず頑張ってみるよ。
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