8/15【木】雨のち曇り―7日目―

目が覚め体を起こすと、昨日までの重だるさが消えていた。


机に置いてあった体温計に手を伸ばし、スイッチを入れ脇に挟んだ。


ピピっと音が鳴り、脇から取り出す。


『36度5分』平温だ。


声をアーアーと出すも、喉にはなんにも違和感がなかった。


ハッとなって窓辺の鉢に目を向ける。


そこには、茶色に枯れ果てた花の姿があった。


……これは“お願い”で治ったってことなのか?


こういうのも叶うんだ。


改めてタネの力に驚かされる。


お腹がグゥグゥ~っと切なそうに鳴ったので、ボクはリビングに向かった。


ドアを開け中に入ると、キッチンにはお母さんじゃなくてお父さんがいた。


ボクに気づくと、「体は大丈夫か?」と聞かれ、「うん全然平気」と返した。


「お母さんは?」って聞いたら、「今度はお母さんが風邪ひいちゃって……今看病しているところだよ」って。


ボクは思わずギョッとした。


これってもしかして……。


「ご飯用意しておいたから、これ食べて。お父さん、お母さんに持っていくから」


そう言って、お粥を乗せたトレイをもってリビングからお父さんは出ていった。


テーブルには茶碗に盛られたお粥と、グラスに注がれた牛乳が置かれていた。


お腹がすいていた僕は、席についていただきますと小さくつぶやいた。


お粥を口に運びながら、昨夜のことを思い出す。


意識がぼんやりしてたけど、確かに花の色は灰色だった。


灰色は確か、負の感情?で咲く花だっけ。


それでお願いが叶う代わりにを払う……。


昨日はずっとお母さんに怒ってたから、まさかそれが影響したのか?


ボクの風邪が治る代わりにお母さんが風邪をひく……これが代償?


だとしたらボクのせいでお母さんが……。


リビングのドアがガチャッと開き、お父さんが帰ってくる。


ボクは「お母さんはどんな感じ?」ってソワソワしながら聞いた。


「そこまで大変な風邪じゃないよ。ちょっとだけ辛そうなだけだから」


その言葉を聞いてちょっとだけホッとした。


みのるは良くなったけど、一応のためもう少し部屋で休んでなよ。お父さん今日仕事休みにしてもらったから、なにかあったら声かけて」


お父さんに頭を撫でられながら、ボクはコクンと頷いた。


朝食を食べ終わったボクは部屋に戻り、ベッドにドサッと倒れ込む。


仰向けになって、天井を眺めながらボンヤリと考え込んだ。


今度からは気をつけなきゃだめだ。


誰かに怒りながら水をまいちゃうと、今回みたいにその誰かに悪いことが起きちゃう。


もしかしたら自分にも起きるかもしれない。


「……お母さんゴメン」


そう呟いてボクはそっと目を閉じた。




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