骸骨騎士、召喚しちゃいました!?

鍋敷

第1話 骸骨騎士召喚しちゃいました

 何処かにある現世とは切り離された世界。

 その中央にある岩に、骸と化した騎士の屍があった。

 その屍の首が動く。


「呼んでいる。」


 屍である筈の騎士の骸が呟いた。

 そして、顔を上げて宙を見る。


「誰だ?」


 その先には、一筋の光が見える。

 その光へと、屍の騎士が手を伸ばす。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「来てるっ。」


 森の中を学校の制服らしき物に身を包んだ一人の少女が駆ける。

 その後ろには、沢山のウルフが迫っている。


「くっ、土よ!」


 その女の子は、後ろを振り向くと同時に魔法を唱える。

 すると、地面からせり上がった岩が少女の身を隠す。

 当然、ウルフ達は衝突する。


「今のうちに隠れなきゃ。」


 止める事は出来た物の、一瞬の間の事だろう。

 身を隠す為に、近くの茂みへと飛び込む少女。

 そうしていると、森を抜けると共に一件の建物を見つける。


「やった、あそこに隠れればっ。でも、家の人に迷惑をかけるかも。」


 もし人が住んでいれば、この騒動に巻き込んでしまうかもしれない。

 それが少女の足を止めるが、考えている時間はない。

 後ろから、沢山の足音が近づいているのだ。


「来てる。仕方ないわっ。」


 迷惑をかけたくはないが、死ぬ方がもっと嫌だ。

 そう決断した少女は、小屋の中へと飛び込む。


「セーフ。何とか助かったかな。」


 閉じた扉に背を預けながる少女。

 迫る足音は、扉の前で止まっている。

 その事に安堵した少女は一息つく。

 そして、建物の中を見る。


「助かったのは良いけど、この建物は一体? なんか蔵っぽいけど。」


 そこにある光景は、壁に立て掛けられた棚と複数の壺。

 更には、前方の壁には机があり複数の本が山積みに置かれている。

 何処からどう見ても、人が住むような場所ではない。


「一体誰がこんな所に。」


 森の奥を抜けた場所にある不自然な蔵。

 その中を、見渡しながら歩いていく。

 そうして机の前に立った少女は、そこにある本から一冊を取る。


「見たところ魔道書かな。しかも、結構古い。」


 魔法を使う者なら、よく目にする本だ。

 魔法の知識が詰まった本だ。

 興味深そうにその本を見る少女。

 その時だった。


バン!


 激しい音と共に、何かが蔵の中に転がり込んでくる。

 それに気づいた少女は、慌てて振り返る。

 そして、そこにいるウルフの群れに気づく。


「しまったっ。」


 どうやら、ウルフに気づかれてしまったようだ。

 そのウルフは、少女へと唸りながらにじりよる。


「くっ。」


 下がろうにも、机に行く手を遮られてしまう。

 こんな蔵の中に、逃げ場などある筈もない。

 そんな少女へと、ウルフが飛びかかる。

  

「こ、来ないでっ!」


 慌てた少女は、ウルフへと机の本を投げつける。

 それにより、相手を怯ませる事が出来た。

 しかし、投げられる物が無くなってしまう。


「本がもう無い。お、終わった。……ん? あれって。」


 諦めそうになった時、投げた本が偶然にも開くのが見える。

 そして、そこに描かれてある物に目が映る。

 そこにあるのは、大きく書かれた魔方陣。


「あれは、召喚の魔法陣。どうして? いや、今はそんな事はどうでも良い。あるなら利用するまでっ。」


 せっかくあるのだから、利用しない訳にはいかない。

 そう決断した少女は、本へと飛び込む。

 それと同時に、ウルフも飛び込む。


「間に合って!」


 少女とウルフの距離が近づく。

 一触即発の状況だ。

 その中で、先に少女の手が本に触れる。


「やった!」


 喜びと共に、魔法陣を起動する。

 すると、激しい突風が本から吹き荒れる。

 それにより、ウルフの群れが飛ばされる。

 それと同時に、光が蔵の中へと広がる。


「何でも良いっ。私を助けて!」


 そう叫ぶと共に、視界が光に包まれる。

 そのまま、蔵全体へと光が広がる。

 そんな中、少女の耳に人の声が聞こえてくる。


「私を呼んだのは誰だ?」

「え?」


 その言葉と共に、光が消えていく。

 そして、少女の前に一人の鎧を着こんだ者が降り立つ。


「なるほど、私を呼んだのは君だな?」

「あ? え?」


 驚きのあまり、言葉を失う少女。

 そうなるのも無理はない。

 自身が呼んだ者は、人と呼べるような者では無いからだ。

 それを見て固まる少女へと、骸骨騎士は骨となった手を差し出す。


「助けに来た。安心なされよ。」


 怖がらせないように、優しく声をかける骸骨騎士。

 皮膚があったなら、微笑んでいただろう。

 そんな骸骨騎士へと、複数のウルフが噛みついた。


「た、食べられたーーーーーーっ!」


 それを見た少女は、驚きのあまりに叫んでしまう。

 すると、その叫びによって屍が自身の体を見下ろす。


「ん? ……の、のあーーーーーーーーっ!」


 どうやら気づいたようだ。

 慌てた骸骨騎士は、必死になってウルフと格闘する。

 それからしばらく、汗を拭う動作をしながら戻ってくる。


「全く、人がせっかく決めている所だと言うのに。」

「あ、あの、大丈夫なんですか?」

「ははっ。この程度、痛くも痒くも…。」


 次の瞬間、再びウルフが骸骨騎士へと噛みつく。

 それによる、一瞬の静寂。

 すると、骸骨騎士が怒り任せに叫ぶ。


「だから、決めている所だと言っているだろーーーーーーっ!」


 そうして再びウルフと格闘し始める骸骨騎士。

 今度もまた振り払うと、息を荒げながら戻ってくる。


「あの野郎共、好き勝手人の事をかじりやがって。」

「えーと、本当に大丈夫なんですか?」

「勿論だとも。ほら、この通り。」


 少女に見せつけるようにポーズを決める骸骨騎士。

 言葉通り、鎧から覗く骨には傷一つとして無い。

 その骨を、少女はまじまじと見つめる。


「ほ、本当だ。」

「だろ? それよりも君の方が心配だ。どうやら、あいつらに襲われていたようだが。」

「あ! そ、そうでした!」


 何かを思い出す少女。

 そもそも、何故追われていたかの話だ。

 それは、少し前に遡る。


「実は、馬車に乗っている時に襲われまして。その時に、友達とも離れてしまって。」

「それで、ここまで来たと。他の乗客は?」

「ばらばらに逃げたので分かりません。襲われてしばらくは馬車の荷物を漁っていたので、逃げられていると思いますが。」


 すぐに人を襲う事はなかったようだ。

 ならば、少女のように逃げられていると考える事が出来るだろう。


「ならば、助けないといけないか。」

「でも、沢山いましたよ?」

「大丈夫だよ。私はこう見えて強いのでね。」


 騎士の姿をしているだけあって強いのだろう。

 どんなに数が多くても、倒してしまえば問題ない。

 そうと決まった所で、二人がお互いの顔を見合う。


「私はイリアです。よろしくお願いします。」

「私は…そうだなぁ…ドッコイだ。ドッコイと呼んでくれ。」

「はい、ドッコイさん。」

「うむ。友達は必ず助けてやるからな。」


 自身満々に答えるドッコイ。

 自身の現れか、再びポーズを決める。

 そんなドッコイを、再びウルフが噛みつく。


「………いい加減に…しろーーーーっ!」


 ドッコイの叫び声が辺りに響く。

 そうして再び格闘し始めるドッコイを、イリアが呆れるような目で見る。


「大丈夫…なのかな?」


 強そうには見えない助っ人に、不安が広がるイリアだった。

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