王命で敵対する公爵家の令息と結婚させられたのだけど……。あなた、無事に初夜を迎えられるようにって、惚れ薬を飲まされたの?
新 星緒
《王命で敵対する公爵家の令息と結婚させられたのだけど……。あなた、無事に初夜を迎えられるようにって、惚れ薬を飲まされたの?》
1・国王命令
「いい加減にしろーーっ!!」
国王の怒声が轟き、誰もがビクリとして体を竦めた。かくいう私も。
恐るおそる玉座に目を向けると、立ち上がった彼が、怒りで顔を真っ赤にしてフルフルと震えている。
今は第一王子の誕生を祝う会の真っ最中。そんなめでたい席だというのに、突然の国王の激怒に王宮の広間は緊迫感に包まれた。
即位してまだ一年弱の若い国王レイルズは温厚で寛容。声を荒らげたことなんて一度もない。その彼が激昂しているのだもの。血の気は引くというものよ。ましてや怒りを向けられているのが自分の親ならば――。
「ヒュブナーにカーマン」
と、国王が目前に立つふたりの名前を呼び捨てにする。いつもは爵位をつけるのに。
「即位してから私は何度も何度も頼んできたよな。我が国のたったふたつの公爵家がいがみ合うのは、やめてほしい、と」
「はい……」
国王の父親世代のふたりの公爵が、うなだれる。
小国である我が国に、公爵家はふたつしかない。『東のヒュブナー家』と『西のカーマン家』。歴史書によると、両家は建国のときからの犬猿の仲だそうだ。
でもレイルズ国王は、それをよしとしなかった。即位して最初にしたことが、両家の仲を取り持つことだった。とはいえ長年の軋轢や憎しみや慣習は、そう簡単には変えられない。
ということで両家の仲は今でも最悪だし、常に反目しあっている。
だけどどうやら、生まれたばかりの御子の前で嫌味の応酬をするふたりの公爵に、国王は限界に達してしまったみたい。
「いくら言ってもわからないのならば!」国王がふたりの公爵を順ににらみつける。「私も強硬手段に出る」
強硬手段!
まさか両家とも取り潰し!
そんなことになったら……
……まあ私は庶民として頑張ればいいわ。なんとかなるでしょう、命さえあれば。幸い先月に成人になったところだしね。
来月は挙式予定だけど所詮は政略、グイドには新しい花嫁を探してもらえばいい。むしろ、彼は心に秘めた想い人がいるみたいだから、ちょうどいいかもしれないわ。
なにも問題無し!
落ち着いて国王を見る。と、バチリと視線があった。
なぜ今私と?
首をかしげる。
けれど国王はすぐに目前のふたりを見て低い声で言った。
「両家とも、来月長男長女が結婚するな」
そうなのよね。競い合いすぎて、ヒュブナーの第一子たる私ローザリンデとカーマンの第一子たるディートリヒは一日違いで同じ聖堂で挙式を行う。私のほうが一日先だけど、それはくじ引きで決められただけ。先を引き当てたお父様は飛び上がって喜んだらしいわ。
ついでに言えば彼と私は生まれた日も一日違い。悔しいことに、ディートリヒが先なのよ。
でもこの流れって、結婚式の中止命令かしら。
「予定は変更だっ」とレイルズが叫ぶ。「結婚はローザリンデ・ヒュブナーとディートリヒ・カーマンで行え。これは国王命令だからな、背けば謀反で一族郎党国外追放だ!!」
な、な……
結婚!?
私がカーマン家のディートリヒと!
十八年間、ろくに口をきいたことがないあの男と!
そんなの、冗談じゃないわ。
それなら庶民になったほうがよっぽどマシよ。
……だけど一族が全員国外追放となると、命令に従うしかないかもしれない。
そっとディートリヒを盗み見る。
彼は不愉快極まりないと叫びだしそうな顔をして、私を睨みつけていた。
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