第35話 問題行動は他にもあります
人払いをし、遮音結界まで使用して行われた話し合いは、秘匿すべき部分に関しては終わった。
それ以上は特に問題がないことから遮音結界を解除し、そのままお茶の時間を楽しんでいる。
話し合いの場には、リリアンナとルイスだけでなく、オルフェウス侯爵一家にミレーヌもいたが、話はリリアンナとルイスに任せ、彼らは余計な口出しはしていない。
ただ、フランツはニコラスの事前の所業に頭を抱え、アルフレッドはリリアンナと顔を見合わせながら話をするニコラスを羨ましそうに凝視し、エレノアとミレーヌは、話を聞いて主に負の感情で表情がころころと変わるニコラスを楽しげに眺めるというカオスな状況を作り出していた。
遮音結界を解除した直後は、その微妙な空気が残ったままだったが、既にそれも消え、今は普通に談笑しながらお茶を楽しんでいる。
だがその時間も程なくして終わり、リリアンナとニコラスは魔法研究施設へと移動した。
移動疲れもあるだろうから明日にしてはどうかとニコラスに提案したのだが、一刻も早く終わらせ工事に戻らなければならないと力説され、リリアンナの方が折れた形である。
だが、魔法の改良自体はそれほど時間を掛けることなく終わったので、今はニコラスがそれを試しているところだ。
実際に工事でその魔法を行使するのは、魔法省から認定を受けた工事関係者だが、基本的にニコラスより魔法力では優れた者ばかり。
ニコラスが問題なく行使できれば彼らも使い熟せるはずなので、治水工事用の魔法の開発や改良は、ニコラスが行使できるかどうかを基準にして進めている。
リリアンナは特定の人物が行使することを念頭に置いてさえいれば、そのレベルに合わせた魔法を開発することができるのだ。
そうでない場合は際限なくレベルが上がり、周囲、特に魔法省の研究員達を発狂させてしまうのだが。
今回は少し手直ししただけということもあり、ニコラスも直ぐに使い熟せるようになった。
後は、このデータを魔法省に提出するだけだ。
ただ今回も事後承諾の形なので、その瞬間は緊張感が高まることになるのは避けられないだろう。
主に魔法省側が、であるが。
依頼が片付いた後は、側で見守っていたルイスとミレーヌに強制的に邸に連れ戻され、そのまま食堂に連行された。
放っておけば、食事の時間も忘れて、他の魔法の開発に乗り出しかねないからだ。
二人が不満げだったのは言うまでもない。
食事が終われば、お茶の時間には出なかった内容に話が及んだが、ここでもニコラスは盛大に呻き、頭を抱えることになった。
それは、更なる姉の不敬な行動を聞かされたからである。
「まさか、学園長が王弟殿下だってことまで知らないなんて……」
アンナがギルバートに対して行った数々の言動を知り、手で顔を覆ったまま天を仰ぐ。
ギルバートが学園長であることも、更には王族であることまで気付いていないことを知り、どこまで常識がないのかと、今度はがっくりと項垂れた。
「何で、よりにもよって王族で一番敵に回してはいけない方に……」
ニコラスもギルバートと面識があり、何度か言葉を交わしている。
そのたった数回だけで、それを嫌と言うほど感じ取ったのだ。
あのバカ姉はどこまで仕出かせば気が済むんだと、ニコラスは発狂寸前になっていた。
「それにしても、何で魔法省預かりが王家に迎え入れられたって話になるんですか!?」
「それは、きっと誰にも分からないと思うわ……」
「そうですよね、分かる訳ないですよね!」
ついには叫び出し、アンナへの呪詛を撒き散らし始める。
それをリリアンナ達は苦笑いしながら見守るしかなかった。
「今まで話が通じないからってあんまり相手にしてこなかったんですけど、ここまで酷いとは思いませんでした……」
漸く落ち着きを取り戻したニコラスが、そうポツリと呟く。
この数年は治水工事が行われている地域を飛び回っていることもあり、アンナとも殆ど会っていなかったようだが、想像以上に酷い姉の実情に愕然としていた。
「まあでも、特性の件もあるし、実際に動くのは学園を卒業できるかどうかはっきりと決まってからですね」
アンナが学園を卒業するのは無理だと言わんばかりの顔で、ニコラスが誰に言うでもなく静かにそう言葉にする。
その動くという言葉にどのような意味があるのかを察した上で、リリアンナ達は何も反応を示すことなく、ただ黙ってそれを受け止めていた。
その後ニコラスはルイスとミレーヌに合わせ、オルフェウス侯爵邸に二泊した後、共に王都へと向かって行った。
王都へ着けば、直ぐにアンナの件でエドワード達と話をすることになるだろう。
リリアンナが王都へ戻るのは、約二週間後。
その頃には、アンナの特性の能力に関しても多少は何か掴めている可能性が高い。
だが、そこでニコラスと直ぐに再会することになるとは今は思ってもいない。
そして、アンナの特性の能力により、事態が思わぬ方向へと進むことも、まだ知る由もなかった。
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