第25話 変化したものしないもの
放課後、茶番を回避しようと王族専用の施設へとやって来たリリアンナは、談話室のソファーに身体を預けると、大きく息を吐き出した。
ただ、回避するつもりが、結局は入口手前でいつもの如くリリアンナから数メートル離れた場所で転んだアンナが、これまたいつもの如く訳の分からないことを叫びながらリリアンナを糾弾するという流れになってしまったのだが。
ある程度予測していたとはいえ、実際に回避失敗するのは地味に疲れる。
それに、放課後この施設に来たのは今回が初めてだというのに、何故アンナは迷いもせずこちらにやって来たのか、何故それが分かったのか、不思議というより不気味でしかない。
放課後は大抵、直ぐに馬車待機場所へと向かうので、その途中で遭遇するのはいつものことであり分からなくもないが、この施設はそれとは逆方向にある。
それ以外でも、どうやってリリアンナの居場所を掴んだのか謎な場面も多く、行く先々でアンナと遭遇するのだから気味が悪いし頭が痛い。
おまけに場所構わず騒ぐものだから、お陰で学園の図書室を迂闊に利用できない状況に追い込まれているのだ。
こちらは王宮の図書室の利用許可を得ているのでそれほど問題ではないが、学園の図書室で勉強したり読書したりして過ごすなど夢のまた夢である。
現在リリアンナと一緒にいるのはミレーヌだけであり、この場所は普段エドワード達が利用しているのとはまた別の談話室だ。
この施設は、同時期に二人以上の王族が在学することを想定しており、更に王族である歴代の学園長も利用していることから、食堂と談話室が三室ずつ設けられている。
どこにあるのかは学園長しか知らないが、学園長室とこの施設とを繋ぐ転移魔法陣が設置されており、ギルバートも時折こちらを利用しているらしい。
その魔法陣は学園長本人にしか起動できないよう処理が施されているとのことなので、別に場所を知らなくても問題はないし、知る必要もないことだ。
兎も角、三室ずつあるお陰というのはおかしなことかもしれないが、昼休みは今まで通り、この施設を利用することができている。
ただし、食堂も談話室もエドワード達とは別の部屋だ。
学園が再開して以降、エドワードとクリフとは昼食を共にしていない。
ミレーヌは常にリリアンナと一緒で、ルイスは両方を行き来している。
学食を利用して好奇の目に晒されるのも避けたいし、一室ずつではなかったのは素直にありがたい。
リリアンナとアンナへの態度が変化したのはAクラスの生徒達だけで、他のクラスの生徒達は、それを遠くから奇異の目で眺めている。
そんな状況で学食を利用するなど冗談ではない。
この施設が利用できて本当に良かったと心から思う。
それに、アンナがこの施設を利用できないという状況に変わりはない。
この施設を利用する為には国王の許可が必要であるし、その為の魔力登録には国王自らが立ち会うことになっている。
国王にその意思がなく、アンナ自身にもその資格がないことから、今後もアンナに利用許可が出ることはない。
それは充分過ぎるほどの安心材料だ。
今では、この場所にミレーヌと二人でいることが、学園で唯一安らげる時間となっている。
リリアンナを取り巻く状況が変化した中、気心の知れたミレーヌ以外の目がないこの状況だけが、リリアンナの心を落ち着かせてくれていた。
ただ、エドワードを筆頭にクラスメイト達の態度に変化はあったが、リリアンナがアンナに絡まれるという状況には一向に変化がない。
エドワード達と親しくなったのであればそちらにも変化があってほしいが、どうやらそれとこれとは話が別のようだ。
それにどうやら、最近ではルイスもおかしな絡まれ方をしているらしい。
そちらもリリアンナにとっては、頭の痛いことになりそうだ。
これ以上の面倒事は起きてほしくないが、悲しいことにそうもいかないらしく、リリアンナは気力が失せた顔で天を仰いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます