第23話 束の間の休息です
領地へ戻ってから数日、リリアンナは邸から出ずに刺繍や読書をしてのんびりと過ごした。
勉強もさぼることなくしているが、王都にいる時に比べればかなり控えめである。
三年間の学園生活で学ぶ内容は、その殆どが王太子妃教育で学び終えているし、その王太子妃教育も終盤で、学園に入学してからは週に一回程度しかない。
日々アップデートしなければならない情報等はあるが、学園入学前より今の方が、時間的にも精神的にもはるかにゆとりがある。
寧ろ、のんびりし過ぎて手持ち無沙汰なくらいだ。
趣味の一つであるお菓子作りも、新作料理の開発中である厨房の邪魔になりそうで、場所を貸してくれと言える状況ではない。
もう一つの趣味である魔法研究及び開発も、当分の間禁止されたので、こちらもどうしようもない状態だ。
リリアンナ同様、魔力保有量が桁外れに多い両親は、侯爵家を継いだタイミングで領地運営に専念しようと魔法省を退職する予定だったが、王家から外部研究員に任命され、それ故に邸の隣には魔法省と同等の魔法研究施設が整えられている。
だが、リリアンナは最低でも二週間はそちらへは立ち入らないよう、そして邸からも出ずに身体を休めるよう両親から厳命されていたこともあって、刺繍と読書以外は特にすることがなく、完全に暇を持て余していた。
逆にアルフレッドは、積極的に領地の視察へと駆り出され、リリアンナと一緒に過ごせないと嘆いていたが、それは、妹離れを願うリリアンナの気持ちを両親が慮った結果である。
後継として、帰領の度に視察に連れ回されるのはいつものことだが、アンナの件で心労が溜まっているであろうリリアンナが少しでも穏やかに過ごせるよう気遣った両親によって、今回はいつも以上に振り回されていた。
アンナの件でストレスが溜まっているのはアルフレッドも同様だが、彼の場合はリリアンナへの行き過ぎた愛情故のことなので、いい加減限度を覚えてほしいと願う両親からは一切考慮されず、それどころか空の彼方へと放り投げられていたのである。
リリアンナよりアルフレッドの扱いが雑なのは、いつものことではあるが。
漸く魔法研究施設への立ち入りが許され、研究及び開発に時間を使えるようになっても、リリアンナはそれに割く時間を制限されていた。
一度集中すると寝食も忘れるほど熱中してしまうからだが、リリアンナとしては物足りないもいいところである。
休みも半分を過ぎると、ミレーヌとルイスが一緒に領地を訪れた。
二人が滞在していた一週間は、三人で領地の観光名所や町を散策し、リリアンナにとっては帰領中、最も有意義な時間を過ごせたのではないだろうか。
二人が帰ると、入れ違うように母エレノアの従妹であるレイニール公爵夫人が、幼い二人の娘を連れてやって来た。
姉の方は来月で七歳、妹の方は三歳になったばかりで、リリアンナのことが大好きな二人に競うように抱き付かれ、その可愛らしさに癒されたのは言うまでもない。
レイニール公爵家には今年十歳になる長男がいるが、宰相を務めていることからあまり王都を離れられないレイニール公爵と一緒に王都に残っているとのことで、今回は同行していなかった。
家族と離れることを寂しがった父親を気遣ってのことらしく、優しい子だなと心が暖かくなる。
こうして休みの後半は家族以外と交流しながら過ごし、あっという間に王都へ戻る日を迎えた。
王都で旅の疲れを取ることを考慮し、夏休み残り十日となったこの日、エレノアや使用人達に見送られ、リリアンナ達は馬車へと乗り込んだ。
王都へは、魔法省に顔を出さなければならない父のフランツも同行している。
ここぞとばかりにリリアンナに構うアルフレッドと二人きりではない上、ことあるごとに釘を刺してくれるのがありがたい。
リリアンナは別にアルフレッドのことを嫌っている訳ではなく、妹として兄のことを大切に思っているが、些か愛情が重過ぎるのだ。
幼い頃なら兎も角、そろそろ年相応に自重してほしいと切に願っている。
エドワードとは、休みの間、何度か手紙の遣り取りはした。
学園が再開するまでに忙しい彼と会えるかは分からないが、体調を崩すことなく元気でいてくれればいいがと心配になる。
結果的に一度は顔を合わせることができたが、その後、学園で会った彼のリリアンナへの振舞いは一変していた。
これ以降、卒業までそれが続くことになるとは、この時のリリアンナは想像もしていなかった。
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