第14話 コース選択の時期です

 結局ザボンヌ子爵夫妻とスミス伯爵夫人からの話では、アンナの不可解な行動は謎のまま、何一つ解明できなかった。


 思い込みが激しいことも、王太子であるエドワードに好意を抱いていることも既に分かりきっていたことだ。


 自分に都合が悪いことは聞き流すというのも、事実を自分の思う通りに塗り替えているとしか思えない現状を考えれば想定の範囲内でしかない。


 故意に事実を捻じ曲げるというより、無意識のうちに妄想で塗り替えるといった方がしっくりくるというのは正直気味が悪いが、それもまた依然としてリリアンナ達を苦しめているものだ。


 ザボンヌ子爵夫妻は、アンナを休学させるべきか悩んでいたが、それでは根本的な解決にはならない。


 アンナが大人しく従うとは思えないし、それもリリアンナの所為にされてしまうのは目に見えている。


 それに、この学園を卒業しなければ貴族として認められないことを考慮すれば、安易に休学や退学を選択する訳にはいかない。


 この先はどうなるか分からないが、現状はこのままでいるしかないだろう。


 そうこうするうちに、選択科目のコースを選ぶ時期になっていた。


 入学して一ヶ月は一般科目のみだが、二ヶ月目からは選択科目の授業が始まる。


 コースは全部で六つ、政治経済コース・領地運営コース・騎士コース・魔法士コース・文官コース・淑女コースだ。


 文官コースと淑女コース以外は定員が決まっており、希望者が定員を超えた場合は、成績順で決まることになっている。


 騎士コースは剣、魔法士コースは魔法の実力で決まるが、政治経済コースと領地運営コースは座学の成績順だ。


 ただし領地運営コースは、家を継ぐことが決まっている者、またはその可能性がある者、後継者の代わりに領地を任される可能性が高い者という条件を満たしている必要があるが。


 この国は、男子優先ではあるが女子にも継承権があり、女性が家を継ぐのも珍しいことではない。


 王宮での文官採用も、男女問わず実力重視であることから、女性の文官も数多くいる。


 今回のコース選択も、定員のあるコースは男女の区別なく試験が行われることになっており、完全な実力主義だ。


 正直なところ、文官コースと淑女コースはそれに漏れた生徒達の集まりでもある。


 政治経済コースを志望する生徒達の多くは文官を目指しているが、政治経済コースが将来的に国の中枢を担うことを目的とすれば、文官コースは文官として採用されることを目指すコースだ。


 同じ文官を目指していても、その中身と重要性の違いは大きい。


 生徒はそれぞれ第二志望まで記入した用紙を学園側に提出し、それを基に試験が行われる。


 その提出期限が三日後に迫っていた。


 リリアンナ達は、全員政治経済コースを第一志望としており、既に提出を済ませている。


 クリフとミレーヌは騎士団への入団がほぼ確定しているが、この学園の騎士コースは、入団するのに必要な実力をつけることを目的としており、既にその実力を有しているどころか、現役の若手騎士団員を凌駕する実力がある二人には必須ではない。


 学園の騎士コースに身を置くより、日課の鍛錬の方が有意義な結果を得られるほどだ。


 それに、騎士団の上層部ともなれば、政治に明るくなければ務まらない部分もある。


 それぞれエドワードとリリアンナの護衛である二人が同じ政治経済コースを選択するのは、その観点からも理に適っていた。


 余談ではあるが、エドワードとリリアンナ、ルイスの三人は、魔法士コースだけは選ばないでほしいと学園側から懇願されていた。


 理由は言うまでもなく、魔法演習場の安全確保の為である。


 三人が同時に魔法を行使する展開は、一般科目の範囲内だけでも限界だと泣きつかれたのだ。


 最近では、学園長のギルバートまで放課後魔法演習場でストレス発散とばかりに魔法を行使していたらしく、兄である国王から叱責され使用を禁じられたらしい。


 ギルバートもエドワードに匹敵する魔法の実力があるのだからそれも無理はない。


 その代わりに、学園より更に強力な防御結界が張られている魔法省の演習場の利用許可が出されたという、何とも言えない結果になったらしいが。


 その後、コース選択の試験を終えたリリアンナ達は、全員志望通りに政治経済コースに決まった。


 それに対し、淑女コースになったアンナが妙な言い掛かりをつけてきたのは言うまでもない。

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