第10話 ワンパターンだけど疲れます

 翌日からも、アンナの奇行は連日続いた。


 登校すれば、馬車から降りた途端、五メートルから十メートル離れた場所で転んではリリアンナに突き飛ばされたと喚き、その後はAクラスの教室に突撃してくる。


 休み時間の度に乱入してきては自分のクラスはここだ、そこはリリアンナの席ではなく自分の席だと叫び、魔法実技等、教室以外の場所で行われる授業の為に移動しようとすれば一緒に付いてこようとする始末だ。


 その度に、Fクラスの次の時間の授業を受け持っている教師が連れ戻しに来ていたのだが、最近は次の授業が空いている他の教師が、休み時間になるとAクラスに来てアンナを待ち構えるようになっている。


 Fクラスの教室は、Aクラスとは別の校舎にあることからそれなりの距離があるにも拘らず、懲りずに毎回よくやるものだと呆れるしかない。


 それに付き合わされる教師達は、堪ったものではないだろう。


 再三注意しても聞き入れないどころか、その意味を理解すらしていない。


 悪いのはリリアンナだと言い張り、訳の分からない理屈で自分の行動を正当化しようとするだけだ。


 お陰で昼休みになると、王族専用の施設とされている建物に急ぎ逃げ込むのが当たり前になってしまった。


 それでも施設の入口まで追いかけてくるし、毎回その場で、中に入れないことに対する不平不満を叫び訴えてくるのだ。


 入口付近で魔力を感知すると、自動的に約二メートル四方の結界が入口の扉を覆うように展開される仕組みになっており、施設を利用する為の魔力登録を行なっている者だけが通り抜けることができる。


 それ以外の生きとし生けるものは、小さな虫ですら結界に阻まれ中に入ることは不可能だ。


 この世界は、魔力の保有量の違いこそあれ、全ての生き物に魔力があり、むしろ魔力がなければ生きられないし存在することもできない。


 だからこそ、魔力登録者ではないアンナの施設内への侵入を阻むことができるのだが、その仕組みを知らないらしく、それすらリリアンナの嫌がらせだと糾弾されるのだから頭が痛い。


 入学式の後、各教室でこの施設の説明と関係者以外は近寄らないよう注意喚起があったはずだが、まさか聞いていなかったのだろうか。


 彼女の場合、自分の頭の中で都合の良いように書き換えて解釈している可能性も否めないが。


 結局ここでも教師の誰かに連れ戻されるので、外に出た時に待ち構えられている心配をせずに済んでいるが、教室に戻れば既にそこにいて、連れ戻しにきた教師と揉めているなんてことは日常茶飯事だ。


 そして放課後はまた、廊下や馬車待機場所の辺りで、リリアンナに触れることなく転んではリリアンナに突き飛ばされたと喚き、更に週末は、リリアンナの姿を視認すると同時に噴水に飛び込み、リリアンナに突き飛ばされたと泣き叫ぶのが追加される。


 噴水に至っては、常にリリアンナは十メートル以上離れている上に目撃者がいるにも拘らずだ。


 やっていること自体は毎回代わり映えしないのだが、これが毎日なのだから精神的な疲労は相当なものだ。


 これには慣れる気がしないし、慣れたくもない。


 毎日最低でも二回は態と転んでいるのだから、アンナの身体は傷やあざが絶えないのではないかと思うが、それを心配したのは最初だけで、既に今はそんな気にもなれないほどだ。


 因みにアルフレッドは、手を出すとやりすぎるのが目に見えているので、アンナには絶対に手を出すなとの王命が下されている。


 それはそれでどうなのかと思わないでもないが、妹のリリアンナを溺愛するあまり暴走しかねないアルフレッドが、更なる面倒な事態を引き起こすよりはずっとマシだろう。


 そして生徒会に所属することになったエドワードとクリフは、今日の放課後からその活動に参加するので、帰りはリリアンナとミレーヌの二人だけになる。


 心配したルイスが一緒に帰ることを提案してくれたが、随分と遠回りさせてしまうので、流石にそれは辞退した。


 今のところアンナが絡んでくるのは学園内だけなのだから、馬車の待機場所まで一緒に行ってくれるだけで充分だし、それに学園の外では、オルフェウス侯爵家の騎士が、馬に騎乗して護衛する為に待機してくれているのだ。


 放課後になり、生徒会室へと向かうエドワード達を見送ると、リリアンナ達も帰ろうと教室を出た。


 この後、アンナはどこで転ぶのか、それともエドワードの生徒会入りを聞きつけてそちらに押し掛けるのか。


 どちらにせよ憂鬱だなと溜息を吐きそうになるもそれを押し隠し、自らを奮い立たせる為、リリアンナは敢えて毅然とした態度で顔を上げた。

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