第二部最終回・第22話〈オオグモ〉

※お祓い済みです。

ようやく「この世」って場所に着いた。


俺がいた場所を「あの世」や「この世ならざる場所」と定義するという話なら。


鏡の世界でも日影の世界でもない、俺にとっては別世界のこの場。



色々スイーツもお茶も、少しだけ飲酒も試みた。

肉体を授かっているわけじゃないからリスクもリターンもないがこの世界でカモフラージュするのには食事はいい手段だ。


他の生き物じゃ、太るとか痩せるとか色々複雑らしいがただ写ってるだけではないのは最高だな。

ある程度の人間の姿にはなれる。


まあ、俺はドッペルゲンガーみたいなものだしな。





 俺は今後を湖に浮かんだまま考えていた。


 勿論人間の姿ではなくて、景色に溶け込みながら。


 お気に入りの身体の記憶じゃ、どうやらこの世界は俺以外にもこの世ならざる者がいるらしい。

 それに、さっきから何処かの視点で俺のことを探ってる奴がいる。


 人間でも他の動物、植物でもない。


 一体誰が?






◎網の上




 やっと春が来た。


 畳んでいた網を広げ、獲物を待つ。




 
だなんて悠長ゆうちょうな事をしてもコソコソやってると簡単に獲物が掛からない。

 別の国で、人間や大型生物を喰っていたが退屈だ。





 
風の噂で聞いたある国に行けば、たんまりと餌にありつける。


 それに外敵の存在も知らなかったからちょうどいい。

 糸を使って肉体を収縮させて空を飛び、仲間の蜘蛛くもから得た情報でやっと辿り着いた。

 そして、今に至る。







 理不尽に絡め取られた人間。


 他の動物じゃすぐに逃げられる。


 ここでは人間の天下のようだ。





 
別に恨んでるわけでも恐れてるわけでもない。

 俺はただの蜘蛛ではない。


 だから時代に合わせて動かざるを得ないのさ。

 元々俺達、この国では『怪異かいい』と呼ばれる存在はインターネットの普及で隠れ続ける必要があった。






 
この世界ではたまたま人間が強者だから、従って隠蔽いんぺいしてもらっていた。


 その見返りに人間や供物って奴を受け取った。

 だが俺の場合、永住えいじゅうするにはパートナーがいなくて困っていた。





 
寿命はないが永遠ではない。


 せめて俺の遺志を継いでくれる何かがいればいいのだが、俺を隠蔽いんぺいし見返りをくれた人間が消えてその保障ほしょうもなくなった。




 
 その場にいては色々と利用される。
 だからこっちも隠蔽いんぺいしていたのさ。





『ただのデカイ蜘蛛くも

としてその場ではなるべく渡された獲物や供物以外は食さないように。





 それでも別に人間…食物連鎖の頂点に恨みはない。


 せめて俺を受け入れてくれる世界でパートナーは贅沢すぎるから求めるのは保留にして、仲間くらいは欲しい。





 
むしろあがめてもらいたい。

 そうしてこの洞窟へ永住を決めた。





 しかしどの国でも撮る人間が現れやがる。


 色んな能力を隠し持っていて安心したが、あの国で俺を隠蔽してた人間は優秀だったらしい。


 そりゃ短命だ。





「すごーい。見てこれ」





「蜘蛛の糸?触らない方がいいよ気持ち悪い」

 どうしようか。


 だが透明化なんて持続はしない。






 
周囲にこの人間達の臭いはない。


 なら、奴から習った網術でこの人間達を捉えて喰おう。






「え?何?ぎゃーーーーー…」





 簡単に捉えられた。


 可哀想だから麻酔毒を早く注入しよう。

 そうしてこの国で生きた獲物を捉え、喰ってみた。





「へえ。こんなオオグモまで出現し始めたんだね」





 嘘だろ?


 バレた?


 しまった。





 
だけど、気配がしない。


 映像に撮られている感覚はある。







「誰だ?」

クラゲと言われる生物のような姿が徐々に現れた。






「大丈夫。ここは観光地としてマネタイズされていないし、逆に自殺の名所として知られている場所だ。だからこそ物好きな人間がやってくるが、今の人間達以外に誰もいない」





 ならお前は誰だ?
 

この国に他の怪異がいるとは…いや、待てよ?


 こいつは人間でも怪異でもない?






「何故俺の事が分かった?何者だ?」





 そいつは自己紹介を始める。





「新種族。そう人間には呼ばれている。
 僕達は人間が創り出した話を元にインターネットの世界から少しずつ形成され、生命体となった存在。一部の人間には知られていて、それなりに関係は出来ているがだからこそ色々と大変でね。と、そんな事情はどうでもいいか。僕はBT06ビーティーゼロロク。人間、新種族の管理、そして君達怪異かいいの観察者さ」





 成る程。


 人工的に作られた世界から人間の手を
 離れて生まれた勢力か。




 
人間が教えてくれた娯楽にいる宇宙人のような奴らだが、まさかこの星から地道に生まれるために手を尽くしている奴らもいるのか。


 問題はそこじゃないが聞いてみる。





「お前が撮った俺の映像。どうするつもりだ? 」

 観察者と名乗る者は歩きながら呟く。





「ある現象がきっかけで生まれた怪異かいいがいてね。更に別の国から偶然君のような怪異かいいも現れた。だから個人的に気になるさ。生命体とも僕達とも違う君達を、ある番組に送りつけて操作してもらおうとね」






 そうか。


 今度はこいつらが外敵か。


 人間相手でも手こずるのに。


 だが、他にも俺のような存在がこの国にもいるのか。





 
いくら俺でも、他の世界の情報までは普通に暮らすぐらいなら必要がないからなあ。

すると観察者という奴は消えていた。

 くそっ。


 ついに俺の存在がバレちまうのか。





◎本物は流せない





 すっかり避けられぬ懐疑の門番としての務めが板についた俺達。




 
艶衰えんすいは相変わらずフィギュアを集めて、憑依している霊を上手く被写体にしてプロデュースしている。





 
AI制作まで出来るし、こいつ本当に高校生プロファイターか?




 
相変わらず付き合いはいいのに俺には



個人情報保護法こじんじょうほうほごほうを守ってくれ」と打ち明けてくれない。





 
趣味が増えているのは兎も角、こいつは裏で何してるんだ?




 
人殺し以外はやっているとだけカラオケに誘った時に言ってはいたが…。

 これも仕事だ。





 
格闘家としての試合をいくらしても、艶衰えんすいは他団体でもジムでも聞かない。






 
俺は秘密にしているが何処かから漏れる筈だ。


 いくら映像制作バイト仲間で、艶衰えんすいのお陰で格闘家人生も高校生活も継続出来るようにはなった。






 俺よりは人付き合いもいいし、事情があって孤独を愛さざるを得ない同い年。





 
俺とも連携ぐらい取ってほしいよ。
 教習所では語り合ったじゃないか!

 だなんて言えねえ。





 
 地下格闘技ってまだ続いてるのだろうか?
艶衰も戦績をちょろまかして俺に教えてはくれたがファイターであることは拳のタコが教えている。






 下手な幽霊よりも存在が怖いよ。

 そう思いながら投稿者達の映像を確認する。






「ったく。素人はすぐ規制を踏み越えるな」





「血は本物ってことか?じゃあさりげなく添えられてる幽霊はフェイクか」





「やはり簡単に霊…いや、採用できそうな映像なんて送られてこないか」






「相変わらず他番組の方へ、投稿映像が流れているな。採用圏内さいようけんないの映像もあるがこれじゃあ、編集作業をしているだけで日が暮れる。高校生活と練習や追い込みが間に合わない」






 俺達はこんな会話を流れるホラー映像を入念にチェックしながら会話をしている。
 おかげでそれなりの人間関係が出来ているのだが。





 すると艶衰えんすいがある映像を見て俺を呼ぶ。





「これ、視点がおかしい。…蜘蛛?なんだ? 」

 偶にクオリティの高い映像が送られてくる。


 ガチのやつだ。


 放送できない。




 
だが艶衰えんすいの様子がいつもと違った。






「監視カメラのような視点…だが特撮にしては生々しい」






「この蜘蛛はどう考えたって特撮だろう?凄えな。オリジナルのクリーチャーを作成なんて。
送る場所100パー間違えてる」






 しかし調べれば調べるほど、人間の女性を捉えて捕食する姿はフィクションには思えない。


 自然界ドキュメンタリーで動物の捕食シーンを観ているような感覚だ。





「嘘だろ?新種族や心霊以外で、しかも日本でこんな化け物が? 」




 すると電灯が消え、謎の模様が浮かび上がる。


 この気配に関してだけは特定できる。




艶衰えんすい!こいつは新種族の気配だ! 」






「次から次へと…小口さんも野谷さんも取材中。運の良い人外連中め」






 模様は少しずつボディランゲージをしながら話しかけてきた。





「どうも避けられぬ懐疑スタッフ。僕はBT06ビーティーゼロロク。その映像の、投稿者だ」






 俺達は構え、警戒する。





「僕は新種族で、君達の観察者だ。差し詰め新種族版生命体確認班しんしゅぞくばんせいめいたいかくにんはん…と伝えておけば分かるだろう」






 暴力を使う気はないか。


 だが何をしてくるか分からない。


 この場所を荒らすわけにはいかないしな。





「君達に取材をお願いしたい。僕は他の新種族のやり方は否定しないし肯定もしない。そして粗暴なやり方を模倣もほうもしない。
だから一投稿者として君達へ接触を試みた」





 胡散臭い。

 だが新種族が依頼する側に回るのは初だ。
 艶衰えんすいも交渉しようとしている。






「いい映像技術だ。スタッフにしたいぐらいにな。だが上司がお前にもいるんだろう? 」





 BT06ビーティーゼロロク…新種族の観察者はその問いにはしばらく黙り、こう答えた。





「特に僕に対して縛りはない。報告さえしていれば僕の研究に口出しはない。かといって、君達人間と合体する事もない。あくまで新種族が知的生命体と共存を目指す研究の一環いっかんだ」






 信用する必要はない。


 だが、これも仕事だ。


 それと投稿映像で死者が出た。

 俺達は新種族が送った住所へ向かう。

 野谷さんへ伝言を残し、二人と一体で映像の場所へ向かった。






◎身バレ




 せっかくの移住先で急なトラブルか。
 あれから誰もやってこない。


 偶々たまたま現れた獲物を喰っているだけで楽に暮らせる。






 
そう思っていたのに。


 人間だけだと思っていた。


 おごりだ。


 思い上がり。


 思う通りにはいかない。

 何故どいつもこいつも!







 すると観察者が二人の人間を連れてきた。





「また貴様か!人間を引き連れてどうするつもりだ!そんなに俺の生活を脅かしてまで研究したいか! 」






 二人の人間は武器を手にし、構えている。


 若くて武闘派…しかも例のよって身につけている場所から映像を撮っている気配もする。






「妖怪?そうとしか思えない」

 切れ目の少年が驚きの声を上げる。


 雰囲気はさめのような脅威って奴か。人は見た目によらないな。






「生きる為に人間を喰ったのか? 」





 もう一人の短髪で中性的な少年がすぐにでも殴りかかろうと質問をしてきた。


 答えてやるか。







「俺はこの国で永住を決めた。
俺の存在は今まで秘密にされていたが、元の国でその秩序ちつじょが崩れた。だからここに住み、急に現れた人間を喰らって証拠を消した。俺はお前達に敵意を向けるつもりはない!全てはそこにいる新種族という、観察者が記録した事」






 鮫の少年が納得していた。


 人の死に対して感情を殺せるのか。


 何者だ?ただの人間とは思えないが…それはもう一人の中性的な少年にも言えるが。


 観察者は無言をつらぬく。




 
いくらその二人でも俺には勝てやしない。




「なら表沙汰にはしない。その代わり、ここに人間が来ても襲わないと約束してくれるか? 」





 ふん。




 
ここでも隠蔽交渉いんぺいこうしょうか。


 観察者がいなければよかったものの!






「どう約束するつもりだ?お前達の人口は多すぎる。無力で得体の知れないお前達の言うことを聞いたとしても、そこの観察者次第でどうにでもなる。お前達は人間だが利用されている側だ! 」






 俺は少年達の同族を喰ったが、守ろうとしている。



 
どうやら思う通りの人生を送っているわけではなさそうだ。他人事だが。

 観察者はどうするつもりだ?






  
人間の動きよりもそっちが気になる。
 このまま泥沼になるのを待っているとは思えない。


 何を企んでいる?

 すると何処かから声が響いた。






「へえ。面白い事が起こってんじゃん」

観察者は避けたが、二人の少年に猛風もうふうが当たる。






「ぐっ!今度はなん…だ!うわぁっ! 」





 すると、倒れた中性的な少年にそっくりな何が現れた。


 俺には分かる。


 人の姿をした別の存在…まさか、俺と同じ存在?






「名前は分からないがクモ!逃げるぞ。」





「初対面なんだけどなぁ。」





「いいから。」






 人の姿をした同業者が二人の少年と観察者に演説をする。






「初めまして浦泉奈冨安うらいずなとみやす。避けられぬ懐疑の事は元のデータの持ち主とか色々と仕入れた」






 浦泉奈冨安うらいずなとみやす…それが中性的な少年の名前か。




 
何故そんな情報を?


 となると、交渉を持ちかけた人間が浦泉奈冨安うらいずなとみやすという事になるのか。





「お前…何者だ! 」






 二人の浦泉奈冨安うらいずなとみやす対峙たいじする。






 
俺を助けた浦泉奈冨安うらいずなとみやすは「シャラップ!」


 とだけ大声で叫ぶ。







「事情は知らないが、新種族を手を組んだお前達に内容を話すのは後だ」

そういって俺達は別の空間へと移動した。




 観察者は眺めているだけで何もしてこなかったのが幸いだ。






✳︎






「お前は何者だ!」

 移住先と同じ世界だが、違和感がある。

 食欲が湧かないが、空腹感がある。


 ここは?






「なんとか空間を虚像で再現できた。
 新種族は分からないが、人間ならここに入っては来られまい」






 さっきの浦泉奈冨安うらいずなとみやすと姿が似ている彼は 俺と同じ姿に変わった。


 凄い能力だ。






「ほほう。そういうことか。お互い上手くいかないねえ」






「記憶を読めるのは本当か。何故俺を助けた? 」






 それなら人間の姿がいいかと浦泉奈冨安うらいずなとみやすの姿に変わる。





「俺もさ、人殺しだからさ」




 そうか。




 
ヒーロー…という奴なのだろうか?
 この存在は!





◎観察者





「俺と同じ姿…だって?おい!お前何か知ってるだろう? 」






 浦泉奈うらいずなBT06ビーティーゼロロクへ詰め寄る。






「ああ。だが、ここへやってくるとは思わなかった。それは嘘じゃない」





「でも存在は知っていて隠していたのか。まさか、新種族の仲間か? 」






 艶衰えんすいBT06ビーティーゼロロクへ確認をする。






「それは違う。心霊、妖怪、伝承、神々…
君達が追うべき被写体だ」






 日常というのは簡単に崩れる。

 ここから、二人は新種族との協力する事となる。

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