第19話〈教習〉

※お祓い済みです。

我々は、心霊確認班。
ある日我々『避けられぬ懐疑』スタッフが依頼の為に廃墟を訪れた際、トレーニングをしていた当時高校1年生で投稿者であった艶衰阿良又えんすいあらまたと一緒にいた浦泉奈冨安うらいずなとみやすがドキュメタリースタッフとしての可能性を見出され、研究生として採用された。


その2人が高校2年生になり、それまでの怪現象への対処や新種族の取材等も少しずつこなしていたのでボーナスを支給する事にした小口。


しかし、艶衰えんすいには『避けられぬ懐疑霊サイド』のスタッフである女性の霊が取り憑いているのである依頼を解決する目的として二人に『自動二輪』の免許を取ることを我々スタッフは勧めたのだった。





◎仮面ライダーかよ




 浦泉奈冨安うらいずなとみやすはいつものように脳内でまだカラオケに採用されていない楽曲をリピートしていた。


 



 
正確にはその楽曲をスマートフォンでBluetoothブルートゥースのイヤホンを使用し、聴いていた。






「いつになくマイペースだな。鼻歌が聞こえてるぞ」




 艶衰えんすいが珍しくツッコミを入れる。





「いいだろ?教習所の車の中で、この時期に免許取りに来る奴らなんて少ないんだし」






 3月まではどの教習所も混むので比較的空いている時間を希望した。





 
浦泉奈うらいずな艶衰えんすいは現役高校生であり心霊確認班のスタッフ研究生である。




 
そして現役のプロファイターでもある。
 様々な取材と学業、試合の練習とハードスケジュールを熟しているうちにスタッフのボスから通達があった。




『金は出す。自動二輪免許を習得して欲しい』

との事だった。





 
不景気の世界ではあるものの、二人が所属する『避けられぬ懐疑』はある程度歴史がある仕事場で、富裕層の演出家が資金援助をしてくれてもいる。





 
それだけ多様化する現代で心霊現象や超常現象が一般化している事実でもある。




 
そんな現象も未だに陰で動いているからやりやすいと言えばやりやすい。




 
しかし、都市部が拠点とはいえ地方への依頼もあるからかせめてバイクの免許は取得してほしいと上は思ってるのかも知れない。

 そうして二人は教習所に着いた。






 もう第一段階は終わって卒検まですぐだった。


 というのも艶衰えんすいが原付免許を既に持っていて、色々と浦泉奈うらいずなへ説明をしてくれた。





 
浦泉奈うらいずなもそのおかげで教習にのめり込んだ。
 時には指導員の愚痴に花を咲かして。





艶衰えんすいが俺に協力してくれるなんてな。本当にありがたい」





「どれだけ続けられるか分からないが、俺達は小口演出補こぐちえんしゅつほに買われたわけだ。ロケぐらいは成果出さないとな」







「さっすがコンプラファイター。頼りにしてるぜ」







 それなりに壁がある二人だが仕事の一環なら出来る限りの協力はする。






 
表である程度露出のある浦泉奈冨安うらいずなとみやす






 
コミュニケーションはとってくれるがはぐらかしのプロである艶衰阿良又えんすいあらまた





 
一見分かり合えないそうな二人だがこういった行き過ぎない関係の方が最善かもしれない。

 すると艶衰えんすいが新聞記事を持ち出して、小声で浦泉奈うらいずなに話しかけてきた。






「最近ある情報が出回ってきた。幸福感を抱いた死者…外傷も精神面も異常のない日本のみの現象」






 偶に避けられぬ懐疑でも耳にする怪現象。
 一概にそうとは言えないのだがバックに人間が関わっている気配のない怪死。





「俺もまだ実感は湧かない。今時、幸せを求める生き方を提唱するなんて新興宗教だ。だったら、アニメや漫画、ゲームなり動画なりスポーツで再生数を集めてひっそりと規模を減らして希望を送ればいい。これはギャグじゃない。
俺達、格闘家なら言ってる意味分かるよな?」







 浦泉奈うらいずなはこの怪異に人間がいると仮定した返事をした。





 
艶衰えんすいは改めて説明をする。





「俺も人間が関わってる線は捨ててない。
しかしおかしくないか?死者はどいつも啓発本や暴露ネタ、或いは自分を賢いと思ってる男性年配者や偶に発言や発信が濃い女性インフルエンサーだ。いつ死ぬかわからない俺達人間だが、死者に共通しているのは『人を自殺に追いやっているかもしれないと思わない人物』 だ。特定の身内と固まり、搾取する側で行動力もある奴らがこんな自決や傷の無い他殺とも言えない死に方なんてするとは思えない」







 俗に言う成功者に恨みでもあるのかと浦泉奈うらいずな艶衰えんすいに念の為聞いた。







「誰がどのように生きているかは関係はない。
俺は誰がどう生きるかという事に敢えて興味を持たないようにしている。ファイターなら分かるだろ?属性がある奴に勝てば美味しいって。
問題はそこじゃなくて、この事件の死者達は一度も日本でも特定される事なく過ごしていたという事実だ。これは俺と野谷さんが調べた。
そして、俺に取り憑いている霊へ聞き込みもした」







 なるほどね。
だが艶衰えんすいに取り憑いている霊はそういった力は持っていないらしいけれど。
まあいい。





 
非常に興味深い。

「だから投稿者とした俺達に接触する人間はいない。だが、もし心霊番組にこのことについて誰かが投稿すれば俺達も介入できるのか。
けど、怪異だとしたら今までみたいなやり方じゃ通用しないぞ?少なくとも今の俺達の人数じゃ」







 そこで話を進めようとすると
指導員から名前を呼ばれた。 






「後で会おう」





「ああ。まずは免許を取る。それからだ」

いつの世代もやる事は多いと実感する。









◎どうして私だけ?





 私は艶衰阿良又えんすいあらまたに取り憑いている霊。





 
死んでるから性別なんて関係ないけれど、特に恨みも無く未練も無い女性型の霊。
それが私だ。






 今、私が取り憑いている相手は教習所で自動二輪の免許を取るところだ。
で、私もこの教習所に来ているのだけれど艶衰えんすいが所属している心霊番組のトップから極秘にこの教習所の怪異を解決して欲しいと頼まれた。






 
艶衰えんすいともう一人のスタッフ、浦泉奈には内密で私のみが教習所を探索している。






 
成る程ね。





 
部下にこの場で免許を取得させていざとなった時の脚にする為に私を使ってここの怪異を解決させる。





 
だが、私は何の力も持たない只の霊。

 それにこんな人通りの多い教習所で怪異なんてある筈が無いと思い込んでいた。






 すると指導員と思われる人が腰を抜かした姿を目撃。





 
煙草を吸いに人の来ない場にいた所らしい。


 ただの霊なら説得しよう。







 そう思っていたら!

『フコウ…ソンナノ…絶望的! 』

 霊…なのか?いや、気配が違う。






 
まるで漫画に出るクリーチャーの姿をしたミイラの如き包帯に女子高生のようなスタイル。





 フコウ?


 そういえば艶衰えんすいが調べている事件に幸せかどうだとかあったなあ。






 
詳しい事は分からないが。

 私の声はあの喫煙者には知られない。





 
だから私はクリーチャーに話しかけてみた。





「すみませーん。もしかしたら仲間かも知れないのでお話伺いましょうか? 」






 するとクリーチャーは私の方を向いた。

 なんだ?この感覚は?





 
廃トンネルの奥に引きずり込まれそうな空白を感じる。






「邪魔立テスルナー!」




 え?短気すぎ!




 私は一目散に逃げる。


 やばい。


 なんの能力も持たないから怖い。


 幽霊が心霊現象に会うなんて!





 
固定概念は覆されるものだけどこれはよしてよ!





 逃げ続けるもクリーチャーは度々包帯を触手のように伸ばして攻撃してくる。






 私は隙間に隠れて撒こうとする。


 幽霊同士でそんな事通じるかは分からないがやってみないと分からない。






 そうして私はトイレへ隠れた。


 人間もいないしクリーチャーより速く行動できたので撒くことが出来た。






 そう、思っていた。




「フコウジャナーーーーーーーーーイ!」





「えええ?丁寧にトイレの上からぁ?なんで死んでまでこんな経験をしなくちゃいけないのぉ? 」







 透けるので扉を抜けてまた逃げた。





 ど う し よ う も な い!

 だが私は頼もしい人達と関わっている。

 恐らく時間だ!






 確証はないが私はあそこへクリーチャーを誘き寄せる。






「フコウ?不幸か幸せか分からないけど心当たりあるよ。その人間は」 






 そうクリーチャーに伝える。





「ドコォォォ!」





 本当に怖いな。





 
奴らの元へさっさと誘き寄せよう。


 確かあの人は奴に対抗できる。

 私は逃げる。





 
 逃げて、活路を見出す。


 あるドラマで流行ったらしいその言葉を実行する。






 あ、教習を終えたか!


 私はあの人、浦泉奈冨安うらいずなとみやすにぶつかる。反射で浦泉奈うらいずなはクリーチャーを裏拳で殴った。






 場所が場所なので浦泉奈冨安うらいずなとみやすは何事もなく手続きを済ませている。








「グゥ…ワタシニ攻撃ガ?」






 クリーチャーは二人の事を知らない。ってええ?





 
高度なやり取りをしたのに浦泉奈冨安うらいずなとみやすの一撃が効かない?





 
まあ彼も人間だからしょうがないけれど。


 ってこの状況は危ない!






「貴様ァァァ!」





 対霊の浦泉奈冨安うらいずなとみやすの攻撃も、教習所では無意味か。





 
私のことは見えているけれど気配しか浦泉奈には分からないか。


 第六感は高い方じゃないからか。





 
これは馬鹿にしているわけではないが。






「おっと。はえがいたか」





 艶衰えんすいがカーフキックという蹴りを浦泉奈冨安うらいずなとみやすの側にいたクリーチャーに見事あてた。






 え?





 
恐らく対人用の技術を?


 クリーチャーには効かないと思っていたが艶衰えんすいには見えているのか、急所を外さずにクリーチャーに通用した。







 コンプラ意識の高い艶衰えんすいの技が周りの教習生に驚かれたが







「相変わらず見事なパクリ芸だ。また極まったモノマネやろうぜ」





 と浦泉奈冨安うらいずなとみやすがフォローした。





 
周りは「なんだただの人間か」といって去っていった。






 
艶衰えんすいのファイターである素性を隠す通そうとするとそのプロ意識は脅威でもあり、私とこの教習所を救った。





 それから私は二人に問い詰められるかと思った。


 しかし、それは卒業検定が終わった後も特になかった。

 悲鳴もなくクリーチャーが潰えた瞬間を見てしまったという記憶を霊である私だけに残して。

 一体なんだったのだろうか。






◎免許習得





 練習も兼ねて二人はツーリングしていた。


 友達ではないが仕事の一環として協調しながら。





 幸い校則で登校以外はバイクを禁止されていないからかかっ飛ばしていた。





 教習所で艶衰えんすいに取り憑く霊がおびき寄せた謎のクリーチャー型幽霊。






 
それを艶衰えんすいは倒してしまった。


 霊から聞けば不幸がどうたらと。






 
あれはもしかして新聞にあった『人を幸せにして殺す存在』とでもいうのか?







 これで解決したとは思えない。


 ただ浦泉奈うらいずなは
「試合であまり勝てないから幽霊を殴れる強みが俺の個性だったのに!」







 
 と内心嘆いていた。


 しっかり練習しないと。






 
艶衰えんすいに置いてかれるのは癪でもあったから。

 だが運転技術なら浦泉奈は自信があった。


 経験は艶衰えんすいの方があるがこちらも負けていない。





 
いずれレースでもしよう。


 それからはバイクから自動車へグレードアップさせる。

 そして浦泉奈うらいずなは偶にコミュニケーションを仲間と取りながら一人部屋を建築する為に資金を稼ぐのだった。







次回



皆さんは幸せについてどう考えていますか?


前へ進む為の課題を考えている時?


誰かと過ごす瞬間、或いは沢山金銭を得た時。

いいえ。


傍にある非日常から逃げられた一分一秒のスリルかも知れません。





次回、避けられぬ懐疑〈死相シアワセ〉

アナタの後ろから声を掛け、こんにちは。

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