第7話〈二卵生〉
※お祓い済みです。
我々は心霊確認班。
この世には様々な事情が交錯し、パラレルワールドのような事象が巻き起こる。 ただ一つ言えるのは、我々の世界はたった一つだけということ。
ある双子の兄がホラー動画を投稿するか悩んでいたのだが。
◎惚れたのに
今日も悪ふざけで作ったホラー動画がある。
聞くところによるとクオリティが高ければ採用してくれる上に賞金まである心霊事務所があるらしい。
自分でアカウントを作って発信するのも いいが、俺はものぐさでやる気がない。 それと俺の家庭は複雑だ。
俺は
双子の兄。
名前は
だが弟は高校生まで悪ガキで大学入学が決まった俺に
兄弟仲良くってのは難しいと双子のアイドルが出る度に胸を痛めていた。
✳︎
俺はふと懐かしくなって昔通っていた中学を訪れた。
お世話になった教師がまだいたので挨拶もしに。
すると一人の男子中学生が棒を持って不良生徒と対抗していた。 側には女子中学生がいるというシチュエーション付きで。
「彼女は悪くない。だ、だから関わるな! 」
鬼気迫る雰囲気と見るからに最近のオタク風の見かけでこりゃあの子は負けると思った。
ここで助けに行くのが先輩の役目と思ったがここは彼に任せる。
きっとそんなことをしたら彼のプライドが傷つく。
それから五分も経たないうちに勝負はついた。
しかし何人かで群れてるクソ野郎達とたった一人で女子を守った人どちらが素晴らしいかは目に焼き付けた。
俺は実の弟すら見放して学生生活を送っているから。
せっかく母校に来たのにタイミングが悪かった。
俺はさっさと帰ることにした。 思う所がありながら。
◎弟のこと
双子といっても俺達は最初くらいは小競り合いもあってそこそこの関係だった。 剛はやんちゃですぐに手が出る。
喧嘩になった時も二つぐらい年齢差があればゴリ押しで勝てるのに同い年だから俺が負ける。
たまに勝つこともあったが。
剛はこの世を憎んでいる。
気が付いたら物価が高騰し、インフルエンサーが
誰も弱きを助けないから剛も冷酷になろうとした。
そんな弟を俺は見捨てた。
クソ野郎なのは俺も同じだ。
いくつ世界線があっただろう。
剛と手を取り合う双子として生活するイフストーリー。
そんなのは机上の空論。
現実を見るしかない。
俺には俺の人生がある。
そんなことを思いながら道を歩いていたら、あの男子中学生と女子中学生が話していた。
モデルのような女子中学生とオタク風の男子中学生が手に手を取り歩いている。
やはりあのままでよかった。
彼はあの子が本当に好きで負ける事覚悟で戦ったんだな。
それにくらべ俺は二十歳になって大学生活も家庭環境のせいにして充実させられず、ホラー動画を作る日々。
恋愛なんていつからしてなかったっけ。
そう思っていたら見覚えのある顔があの二人の前に現れた。
◎決着をつける
路地裏の壁にオタク風男子中学生を押し付けて剛は何かを話していた。
「俺の
必死に戦った彼を
お前はその後輩がいなければ成り立たないクズだろ?
普段
いや、本当は違う。
男子中学生は好意を持った女子中学生をちゃんと出来ることで助けた。
それなのに俺はずっと見殺してばかり。
もしあの時男子中学生が死んでいたら?
今回は俺が剛と向き合う版だ。
もうホラー動画を作りながら
それに剛にはちゃんと向き合う必要がある。
「
俺は弟の前に久しぶりに現れる。
「へえ。お前、そいつらと関係あんの? 」
「可愛い後輩だろ?なんで虐める? 」
すると
「お前だけ世渡り上手に見せかけるのが上手いから可愛がられたよなあ?お前は俺のように強くなる努力してきたか?すぐ側で苦しんでる俺を見捨てて生きる生活はさぞ楽しかっただろう」
楽しくなんかない。 俺も言いたい放題に話そうと思った。
「ずっと
もう、あんなクオリティの低い鬱屈とした動画は作らない。
そう決めて俺は弟を掴んで二人に「逃げろ!」と伝えた。
✳︎
がはっ。
流石に武道をはしごしてやめただけあって強い。
同じ双子なのにここまで戦力差があるとは。
それでも俺は立ち上がる。
俺と変わらないな。
馬鹿なところは!
俺は
それでもやせ我慢する
そうして久しぶりの兄弟喧嘩をしていたら誰かが呼んだのか人集りが出来た。
俺は
「何すんだよ!」
「いいからここは去るぞ。俺達の問題を大きくしない!」
そうして逃げた。
10分も歩いていたら
「なんであんなキモヲタと女の子を庇うんだよ。あいつらは俺の後輩達に恥をかかせたんだよ」
「20歳になっても幼いなお前は。俺は見てたんだよ。お前の後輩があの二人を襲ったのを。 それでもあの男子中学生は血を吐きながら抵抗していた。いい大人の俺達がそんな彼らを守らなくてどうする! 」
「お前にもそんな熱いところがあるんだな」
「俺達もやり直せる。だからあの二人の幸せを壊さないでくれ。頼む! 」
俺はもう逃げないと決めた。
共に歩くのも何年振りだろう。 これから俺達はどうしたらいい。
そんな事を思いながら二人で過去に浸りながら歩いていった。
◎後日談
あれからも
簡単には変わらないか。
そう思ってコンビニに行くとあの二人がいた。
「あの時はありがとうございます」
二人にぺこりとお
「いや、俺は弟と向き合っただけだよ。あいつが何かしでかしたらまた止める。君達に
すると
恐怖する二人。
俺が二人を守る。
「俺達、どこで道を間違えたんだろうな」
今回の
「また俺を見捨てるのか? 」
俺は
「俺のバイト代、お前にも渡すよ。ただし雑に使ったら承知しない。お前にももう
「結局、俺達分かり合えないのか」
すると男子中学生が剛にジュースを手渡した。
「僕があなたに出来ることはこれぐらいしかないのですが、双子の先輩達の関係が変わるのであれば。彼女を守れるように僕も強くなります」
そういって二人は去っていった。
「強いな。彼らは」
「もうやらせホラー動画作るなよ。俺も、変わるからさ」
もう俺も立ち止まらない。
あのホラー動画は処分することにした。 それが俺の一歩だ。
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