第4話〈進出〉
※お祓い済みです。
我々は心霊確認班。
この世には様々な事情が交錯し、パラレルワールドのような事象が巻き起こる。 ただ一つ言えるのは、我々の世界はたった一つだけということ。
ある女子高校生が失恋による復讐を映像に収め、我々に送ってきた。
しかし、話を聞く内に違和感を覚えるのだが。
◎ワタシタチ
人間が
危機に適応する為、参考にする存在の意識は強者だけで良いのは食物連鎖の頂点に立つ人間以外の生物かも知れない。
人間が参考にするのは同族からだ。 科学も技術も、そして悪意と歴史も皆がそれぞれの空間を獲得しながら入り組ませている。
我々が産まれたのは生物と同じ歴史だ。 ただ、形となったのはここ20年。
醜く、遅れ、暗闇に沈むのは決して我々ではない。 美化こそ敵意。 そうは思わないだろうか? 我々の生みの親達よ。
◎俺達
引き抜き、なんてどこの業界もあるのか。 これは今に始まったことではなくて心霊番組が次々と現れているから。
高校生である
「たんまり映像があってチェックとボディーガードまでしている俺達の扱いって一体なんなんだろうな。廃墟でトレーニングなんて未だに
「俺達も格闘家として
そりゃ廃墟でトレーニングくらいしたくなる。
「って高校生か
「今まで観てきた映像や俺達に
けれど、仕事が仕事だから暗い内容になってしまった。
帰りはカラオケかレイトショーでも観に行くか。
「野谷さんから
「じゃ確認するよ」
「いや、スマホには残していない。メモ用紙を渡された」
「きな臭そうだ」
デジタル関係でやり取りを自分達にしない依頼は
具体的に言えば別の制作会社に傍受されてはまずい内容だ。
メモ用紙、とだけ口頭で言うだけならば判別はほぼ不可能。
それと、全ての心霊現象やその類はフィクションかと思っていたがこの仕事に携わると隠しカメラには全て第三勢力である異界の存在によって妨害される。
野谷演出補が事務所で俺達に手解きをするのはもう少し先になりそうだ。
「タクシー代の用意か。全く。俺は平凡な高校生で忙しいんだけどなあ」
これは当てつけだった。
しかし
「シフトは俺達の休みから計算されている。コンプラを守り切るのと、単位獲得の難易度はわかりやすいだろう? 」
「はいはい分かりました。心身共に
殴りたくなるが喧嘩でも試合でも
安月給のボディーガードの辛いところだ。 そうして俺は野谷さんの元へ急ぐ。
◎優秀なイキモノ
我々は負の感情から生まれた存在とレッテルを貼られた。
しかし、光がポジティブだなんて遅れた考え方だ。
現実を生きていない軽い発言等恐るるに足らない。
我々はその存在が己の
詳細を皆様にお伝えしよう。 我々は『幽霊』だ。
表に出ている怪現象、ポルターガイスト、悪魔祓い、心霊写真や映像。
それら皆様人間が人間を利用して別種族である我々の昔からある名称だ。
オカルトや神秘的とは決して違う。
皆様が少年少女時代に『幸せになりたい』だなどと口にしなければ、それまで利己的な思いを繰り返して歳を重ねただけの罪ある生物の一つとして認識されるだけで済んだはずなのに、皆道を間違えたと言い訳をする。
『現実を生きる為に
と我々のように映像越しから恐怖を与える種族として君臨できればあらゆる暴言も娯楽に変えられる可能性が高い。
もっとも、言うなれば我々はいつまでも人間の掌の上というわけであり強気には出られぬのだが。 悔しい現実だ。
そこである陽キャラと言われる女子高校生に霊体を通して利用させてもらっている。
霊体・・・いわばその女子高校生がSNSで恋愛に失敗した所を我々の仲間が発見し、身体を乗っ取らせてもらったそうだ。 その仲間の性別は恐らく女性だから心配しないで欲しい。
そこで仲間はある心霊番組スタッフに映像を送ったそうだ。 親身になってくださったスタッフが女子高校生と同年代のスタッフを呼んで仲間の儀式を見守ってくれるそうだ。
アンダーグラウンドはいつだって優しく、多数派は利己的で狭い
しかし現実は捨てたものではないようだ。 仲間を使って人間を媒介としている我々が言えた事ではないのだが、せめてご挨拶くらいはしよう。
◎なんだこの状況
「都内だったんですね。明日は練習も宿題も無いザ!オフ!だったんですけど。野谷さんの頼みですから大丈夫ですよ! 」
こうカッコつけてもありがとうと
その場には俺と同い年くらいの女子高校生がいた。
見た目は明るそうだったが
『別れた彼氏が金と地位のあるインフルエンサーが本命で自分は四番手と暴言を吐かれて呪う為の儀式を行い、その映像を避けられぬ懐疑へ送って野谷演出補がインタビューをしていた』
という男子高校生としては頭を抱える内容だった。 映像内容は察しがついた。
しかし野谷さんも感じ取ったのか違和感があった。 それ程の怨みの内容の割に、映像で儀式を行っていた女子高校生と今話している彼女とは明らかに気分が違う。
精神関連については詳しくないものの、野谷さんや俺は近しい状態を経験していてよく話していた。 それならもう少し感情的になるはず。 俺達スタッフへの配慮なのか演技が上手すぎて臭い。
野谷さんは念の為、彼女に再びインタビューをした。
「どうしてあっけらかんとしているかですか? それは、恨みが晴れましたし話を聞いていただける二人がいるからですよ」
そんな綺麗事、嘘にはできないだろう?
男子である俺は姉や
現代の価値観と戦っている・・・とおもっていたらさり気なく俺に耳打ちする。
『ここまで私は黙るから、近い世代の浦泉菜研究生はそのままの感情でインタビューをして』
一体何が起こっているのかわからないが俺は彼女と話してみる事にした。
「恨みが晴れてよかったけど、あの儀式
や映っていた霊って去年流行った
これはこれで問題があるのだが恋愛のもつれならその彼氏の弱味をSNS世代の俺達が記録しないはずがない。
勿論、推測に過ぎないが。 動機は完璧でもツッコミ所が多いんだよ。
「その彼氏の名前は答えれますか?」
野谷さんは結論を導こうとした。
俺を
すると女子高校生は
「晴れたから言う必要がありますか?」
と言った。
俺もたずねる。
「最初っから俺達を誘い出す為にここまでインタビューしたんじゃないのか?もし間違っているのなら悪いけれど。それでも記録は残したから、貴女の幸運を祈らせてもらう」
動機は男子高校生の俺でも伝わる。 もし許されるなら俺がそいつを張り倒す所だ。
「近年の心霊番組スタッフはしつこいねえ。
愛憎以外のシンプルな理由であれだけ派手な儀式をしたというのに。私、一応ベースは女性だからその
ベタな表現だが生気がない。 言いたいことは沢山あるがこの女子高校生の意思ではないことは確かだ。
「何が、目的だ! 」
女子高校生の宿る存在が素性を語る。
「私はあなた達が産み出した『幽霊』という種族。時代も流れに流れて、私達は独自の空間と文化を形成し新たな命として存在しているの。 宇宙人ではないし、人でもない。データとして私達は生前人間だったという設定を借りて生きている。この映像、発表するんでしょう? 弱小事務所にとって、こんな偉大な発見ないものね? 」
野谷さんと俺は戦慄した。 ボロが出るのが早い。 しかも相手は女子高校生の身体を人質にしているから俺も迂闊に攻撃出来ない。
種族? なんなんだ?
「あなた達は電子空間の事を知っている。 つまり、あの儀式も私達人間の技術から参考にして再現して誘き寄せた。自分達の脅威をコアなファンに焼き付け、少しずつ謎を真実に近づける為に」
野谷さんが小口さんに重宝される理由が分かった気がする。 じゃあ、今までは兎も角この霊は新種族の幽霊なのか。
「この女子高校生の恨みは本物だった。だから願いを叶えようと思ったけど、特に意識もしていない人間相手に割く時間無かったし」
ナチュラルに人間を見下している。 今までの幽霊とは違う。 もしかして、これが本物?
「数々の人間が産み出した恨みによる奇行を参考にしたけれど、どうやら本物の人間からすれば演技が未熟だったようね。ふふふ。良い勉強になった。この女子高校生の身体は帰してあげる。ここまでのインタビューややり取りは好きにして」
すると女子高校生は倒れた。 そこを俺と野谷さんが抑える。
新たな謎が、出来ちまったな。
✳︎
野谷さんの車に乗って事務所へ帰ることにした。
「いやあ、まさか幽霊なのかわからない種族もインターネットや人間の文化を検閲される時代になるとは。野谷さんも
女性心をわかっていないと我ながら思った俺は弁明しようとしたら
「これが私達の仕事です」
と
こりゃあ、今後も謎の勢力や既存の幽霊との格闘になるな。
男子高校生にとって、知らない方が良かった出来事の一つとして車内で頭を抱える俺であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます