第39話 起こされたエラー

「はい! というわけでですね! 今回は低ランクに過剰武器を持って入った場合、どんなモンスターが出てくるのかの検証をしていきたいと思いまーす! ゲストは特別にCランクの方に来て頂きました!」


「おう! 今はCだが次期Aランクの二余郡太だ」


「卒業と同時にスポンサーがついてる大物です。ま、今回踏み込むのはFランクだし。強敵が出てきたって余裕ですよね? ね!」


「おうよ、出てきたところで二段階。強く見積もってD、あるいは同等。納品依頼で燻ってる俺にはちょうどいいハンデだ」


「さっすが次期Aランクっす! それで入ってみましょう! それでは今日持ち込む武器はコイツだぁーーーッ!」


:ウハwww

:過剰武器がすぎる

:これって案件企画だっけ?

:なんで電磁誘導砲とか持ってきてんだ、アホか

:それってなんだっけ?

:敵をその場に縫い付けて一方的に殴るための装置

:お値段なんと200億円

:たっかwww

:それはそうよ、推奨モンスターA以上だもんよ

:これをFに持ってくる勇気

:ダンセンに足止めくらわね?


「その為の作戦も考えてある!」


 そう言って、画面に提示させるライセンス。

 偽のライセンスを持って、今回ダンジョンに挑むというものだ。


:どう考えても違法

:面白ければいいよ

:言って、Fなんて人いないでしょ

:そうそう

:駆け出しが数日だけ居座るのがFだしな


「とはいえ、多少のブッキングはあると考えて、防御系のタンクを過剰に入場させます! かっちり守り切って恩を売りまくるぜ!」


:おい、サポートに見せかけた戦力増加やめろ

:これにブッキングした人かわいそ〜

:こうやって若き芽が潰されていくんやなって

:つって、Fで躓く雑魚でしょ

:デビュー戦の可能性もあるんよな

:あー、それは御愁傷様ってことで


「そして今日向かうダンジョンは、赤無市アーカムシティの──」


 とあるダンジョンへ入り込んだ。

 人の出入りが極端に少なく、この企画にもってこいのその場所は、いつも屈強なガタイの受付が居座っている。


 普通ならば愛想の良い女性スタッフを据えるのだが、ここのダンジョンはこの人選でも問題ないくらいに人が来ないことで有名だった。

 たまに増えるが、利益がなさすぎてすぐに人が潰える。


 そんな情報も相まって、実験にはちょうどいいとしていた。


「おい、あんた。今日は貸切だ。他所当たんな」


「いや、僕新人で」


「新人がそんな過剰に武器を持ち込んだらダンジョンエラーを引き起こす。ライセンス試験で習うだろ? それとも自殺志願者か?」


「心配性で。だめですか?」


「普段なら止めないが、今は仮免探索者のアタック中だ。もしもがあったら俺の首が飛ぶ」


 提示されたライセンスは九頭竜家の紋章。

 クランの誰かが入場中という話なのだろう。

 しかし配信者の男はそれを鼻で笑い飛ばした。


「で? これがなんだって言うんです?」


「強行すれば九頭竜に目をつけられることになる。探索者やってれば絶対に後から不都合が生じる」


「僕、配信者なのでわかりませーん!」


 残念でした、と大仰に配信者の男が受付を嘲笑する。

 こんな大人数、武装、戦力。

 意図的にエラーを起こす気満々。

 受付はそんな人物の侵入を頑なに認めない。


 と、いうのもダンジョンには明確なルールがあるからだ。

 そして破ってはいけないタブーもある。


 そのタブーを犯せば罰が降る。

 ダンジョンセンター職員なら誰もが知っていることだった。


「あんたの目的を達成するにはここでなくとも大丈夫なはずだ。ここにこだわる理由はなんだ?」


 ダンジョン受付と配信者の視線が切り結ぶ。


「んなもん、引き返すのがめんどい以外ないでしょ。これから撮影して、編集してアーカイブに載せるんすよ? 借りてきた人員や装備だってタダじゃない。それともなんですか? 代わりにあんたが経費の諸々を払ってくれるんすか?」


「勘弁しろ。ダンジョンセンター職員はただでさえ薄給なんだ」


「なら、つべこべ言わずに入場させろや、おっさん!」


 こっちは客だぞ、と凄む配信者。

 受付の男、熊谷は仕方なく了承した。


「どうなっても知らんぞ?(陸がいるからそこまでの被害は起こらんと思うが、こいつらがどうなるかは目も当てられんな)」


 今配信中の仮免探索者。

 これとのブッキングを熊谷は恐れていた。

 ダンジョンでタブーを犯そうという連中が、その存在をなぜ貶めないと言い切れるのか?


 そばには深淵種すらやり込める『空海陸』がついている。

 だから最悪か、とも。


「その責任はきちんととるから平気だって。ちゃんと有識者も募ってっから(どうせ出てきたってDとかだろ? 無駄に脅しすぎなんだよ雑魚が! こちとら将来Aに至れる御仁を引き連れてるんだぞ? ダンジョンエラーがなんぼのもんだってんだよ!?)」」


 その配信者は大見得を切って、大勢を引き連れてダンジョンに入って行った。熊谷は念の為九頭竜瑠璃に連絡を入れたあと、クマおじさんの名義でとある配信にコメントを書き込んだ。




━━━仮免探索者みう《納品》【水曜/探索配信】━━━━━


 モンスターの討伐に意識を向けて十数分が経過した頃。

 ダンジョン全体を嫌な緊迫感が覆って、冷や汗をかく。


 なんだ、この違和感は?


「どうしたの、お兄たん?」


:お兄たん?( ・᷄ὢ・᷅ )

:何か見つけた?( • ̀ω•́ )✧


「ああ、いや。なんでもない。ちょっと疲れてるのかな? 軽い眩暈がした」


「寝不足だった?」


「毎日二時間きっちり寝てるぞ?」


:お兄たん(*´ω`*)

:きっちり睡眠とって!٩(›´ω`‹ )ﻭ

:それは寝てないのと一緒やで_(:3 」∠)_


「って、みんな言ってるよ?」


「俺は睡眠浅くても平気なんだよ。それよりもちょっとダンジョンの様子が変だ。今までにない気配を複数感じてる」


「変ってどう言うのー?」


「一応警戒しとけってことだな」


「はーい」


@クマおじさん:後から複数で入場したやつが原因かもな

:クマおじさんきた( *˙ω˙*)و グッ!

:どこかでブッキングがあるってこと?( ・᷄ὢ・᷅ )

:横殴り問題かー(*´ω`*)

:討伐クエスト中でブッキングは嫌だね( • ̀ω•́ )✧


「納品クエスト中っていえば譲ってもらえないかな?」


「相手も同じだった場合、喧嘩になるな」


:でも大人数? Fに?٩(›´ω`‹ )ﻭ

:パーティとかなら大人数って言わないよね( *˙ω˙*)و グッ!

:クマおじさん、どう言うこと?( ・᷄ὢ・᷅ )

@クマおじさん:どうも人為的にエラーを起こすつもりらしい

:は?( • ̀ω•́ )✧

:は?( ・᷄ὢ・᷅ )

:は?_(:3 」∠)_

:は?٩(›´ω`‹ )ﻭ

@威高こおり:は?_φ(・_・

@クマおじさん:他人に迷惑をかけても平気な奴が最近多くてな

:迷惑なやっちゃな( *˙ω˙*)و グッ!

:その顔文字で言われると賛同者にしか見えないよ?(*´ω`*)

:そこが顔文字の難しいところ( *˙ω˙*)و グッ!

:感情がそれに固定されちゃうもんね_(:3 」∠)_


「意図的にエラー?」


 俺はそれを聞いて、過去に魔石回収をしに行った時のことを思い出す。

 あの時はAランクでやったが、まさかそれをFでやり返されるだなんて当時は思いもしなかった。


 だが、因果応報という言葉がある通り、因果は巡ってくるのだ。何もみうが撮影中に回ってこなくとも、と思うが。


 しかし、出てきたのはせいぜいがスライムの変異種で。

 過去に俺が創造してみうに討伐させたことのあるやつばかりだった。


 今回は理衣さんがいない分戦力がダウンしているが、俺がサポートに入ることで難なく撃破!

 この程度ならエラーも歓迎だな。


 あの当時では俺のモンスター創造もあってドロップは落とさなかったが、その時の経験が生きているみうは動きに無駄がなかった。


「今日はお姉たんが居ないけど。あたしもレベルアップしてるもんね! これぐらいだったら1人ででも」


「兄ちゃんもいることを忘れるなよ?」


「あ、そうだったね! じゃあ2人でやっちゃうよ!」


 ラットライダー討伐後、目的のアイテムを入手した。

 ネズミの背中にスライムがくっついてるあのモンスター、ずっと本体はどっちなのかと思ってたら、どうもネズミの方が本体らしい。

 上のスライムは固定砲台の立ち位置だった。


:ネズミの尻尾、ドロップしたね!( ・᷄ὢ・᷅ )

:スライムが乗っててもドロップはネズミのものなんだ?(*´ω`*)

:それな( • ̀ω•́ )✧

:羽の生えたやつからはコウモリの耳が出てた( *˙ω˙*)و グッ!

:これはみうちゃん的には役得なのでは?_(:3 」∠)_


「当初の予定より納品アイテムは随分と早く集まったな」


「そうだね。お兄たんの感じた違和感とかは特に感じなかったし」


:結局クマおじさんの思い過ごしだったのかな?٩(›´ω`‹ )ﻭ

@クマおじさん:そうみたいだな、早とちりしちまったぜ

:そういえば、その人たちどこにもいなかったね٩(›´ω`‹ )ﻭ

:さっさと奥に進んだんじゃない?( *˙ω˙*)و グッ!

:ありそう( ・᷄ὢ・᷅ )

:みうちゃんたち、ずっと一層にいたもんね( • ̀ω•́ )✧


 実は、接触しそうな機会は何度もあった。

 その度にテイムしたスライムで壁を作って道を塞いでことなきを得ていたのだ。


 中には相当物騒な気配を纏わせていたやつもいて、絶対にみうと接触させたくなかったのもあった。


 それと持ち込まれた武装。

 俺の最強装備(今回は持ってきてない)よりは劣るが、Aでも十分にやっていけるほどの戦力値。


 本当にエラーを起こしにやってきたんだなというのがわかる。

 まぁ、エラーを引き起こすプロの俺からしてみたら、その程度の装備じゃ『深淵種』相手に何もできずに敗退するけどな、としか言いようがなかった。


 納品は無事終えて、配信を終了。

 その後みうと約束通り満腹食堂に向かった。

 予約時間よりだいぶ早いが、その間は街をぶらぶらするかな。




 ━━━━━起こされたエラー(後編)━━━━━


 二余郡太のナックルが変異種のスライムの装甲をぶち破る。

 それを配信者自らが実況して盛り上げながら撮影していた。


:つんよ!

:Fにこんなモンスターいたっけ?

:図鑑には載ってなかったぞ

:新種発見ですね!


「さすが二余先生! 強敵モンスターでも怯むことなくたちむかっていくぅう!」


「は、こんな雑魚何百匹いても余裕!」


:お次は蛇型だ!

:縦に長いだるま落としタイプもいるぞ!

:スライムのびっくり箱かよ

:所詮、エラーと言ってもこの程度か

:てけり!(遊びにきたよ!)

:なんだ?

:おい、誰だ悪戯したの


 クリアに映されていた画面に突如ノイズが混ざり始める。


「ぎゃああああああ」


 上がる悲鳴。


「おい、やめろ、俺の鎧を溶かすんじゃ……」

「オデの体はドボドボダァ!」

「あっあっあっ、それはダメだよ200億もする装備、溶かさないで」

「うぎゃあああああ!」

「どぼじでごんなごどずるのーー!?」


 一瞬の間に、Fには過剰と思われたタンクが数名地に伏せていた。

 相手の存在を認識する暇もなく、但し認識したらしたでそれなりの恐慌状態に陥った。


「てけり・り(次は何して遊ぶー?)」


「おい、なんだよこれ! こんなの聞いてない! 二余先生!」


「チッタァ歯ごたえのある奴が出てきたか? 返り討ちにしてやんぜ! スキル──」


 スキルを発動させる間も無く、二余群太は突如膨らんだ粘菌に覆われ、取り込まれた。


 ズル、ズル、ズル。

 バギバキバキ! ぐちゃ、ぴちゃ、ジュル、ジュルル。


「てけり・り(よわーい)」


 何かが壊れる音。

 咀嚼し、食われる音がノイズ混ざりの画像の奥から絶えず聞こえてくる。


 人の形だったものがみるみるうちにただの小さな水たまりに戻っていき、その水たまりは大きく膨張して威嚇すると、次の獲物を求める様に飛び散った。


「あああああああああああああ!」


 理解の限界を超えた配信者の絶叫の後、カメラはブツリと映像を途絶えさせた。

 

 やらせにしては、配信はまだ閉じられていない。

 コメントは加速する。

 これは配信者に何かがあったのではと。

 

 しかしこれにダンジョンセンターは「ダンジョン内で探索者がどのような事故に遭おうとも、一切責任を取らないものとする」というルールを取り出し、さらには録音されていたやりとりのデータを出され、引き留めたのにも関わらず強行した配信者の責任として帰らなかったメンバーの責任を負わされることとなった。


 ダンジョン。

 そこは未だ全貌の掴めない地獄の入り口。


 決して低いランクであろうとも、油断すれば命を容易く奪ってくる魔境であることを人々は忘れてはならないのだ。

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