第15話 威高こおりの配信《放送事故》

「みんなーこんにちわ! 今をときめくダンジョンアイドル! 威高いたかこおりだよー」


:こおりちゃーん

:今日も華麗なる配信劇が幕を上げる!

:今日も華麗なる配信劇が幕を上げる!

:今日も華麗なる配信劇が幕を上げる!


 お決まりの挨拶がコメント欄を埋めていく。

 それを眺めながら頷き、今日の本題を語っていく。


「さてさて今日は、赤無市アーカムシティにあるFランクダンジョンにやってきてます。俗にいう、駆け出し探索者向けダンジョンですね!」


赤無アーカムは本当にダンジョンの質が低いよね

:昔はぶいぶい言わしてたらしいんだけどな

:それ何年前よ?

:始まりのダンジョンだっけ?


「はい。今はもう随分と廃れてしまいましたが、赤無市といえばダンジョンのメッカでしたねー。こおりが生まれる前の話ですけど、大災害があったみたいですし。探索者学園の授業で習いましたー」


:こおりちゃんはAクラスだっけ?


「そうよー。学園で優秀な成績を収めてても、探索者はFから始まるので、今のうちにやれることってなんだろって思ったら、一緒にステップアップしようってことだったんだー。そんなわけで今週はFランクダンジョン強化月間! ついでにお役立ち情報を発信してくから、みんなアーカイブをチェキだ!」


:俺も、探索者になれるかなぁ?


「なれるかどうかは君次第だよ! 今日は序盤の陥りやすいミスをおさらいしていくから、そこを気をつければ大丈夫! 一緒に探索者になろ? 探索者になってダンジョンで、こおりと握手だ!」


:草

:こおりちゃんの可愛さに釣られてミーハーが押し寄せるぅ?

:その前にダンジョンセンターに弾かれる件

:ダンジョンの入場には15歳以上、ジョブ、またはスキルの発現者のみ

:ほへぇ、入ろうと思って入れる訳やないんやね


 そんな雑談を繰り広げてる最中、小さな影がカメラの前を通り過ぎた。


「スライム待てー」


:なんだ今の?

:なんだ今の?

:幼女?


「すいません、配信中に。ほら、みう。配信中は横切っちゃダメって言ったろ?」


 続いて大学生くらいの青年が申し訳なさそうに謝罪する。

 遠くから幼女の声。

 どうやら保護者なのかもしれないね。


「お姉たん、ごめんなさーい。あ、スライム見つけた! お兄たん、あたし先行ってるね。待てー!」


「では俺たちはこれで。ほら、みう。走ると転ぶぞ?」


「転ばないもーん」


:だれ?

:一般通過者かな?

:幼女、いいね

:ダンジョンに幼女がいる訳ないだろ、いい加減にしろ!


「えー、どうやら同じ時間帯にブッキングした探索者さんのようです。こおりに貸し切る財力はないですからね! 最初は目に余るかもだけど、みんな優しい気持ちで見守ってあげてくださいね!」


:把握

:把握

:把握

:あれ、でもさっきダンジョンの入場は年齢制限あるって


「それなんですけど、実は最近改正があって、15歳以下でもジョブやスキルが発現してたら出入り可能になったっぽいんですよね。今はその試験期間みたいですし、あの子はその権利があるのかもしれませんよ?」


:はえー、人は見た目じゃわかんないか

:幼女すごいねー

:こおりたん賢い

:こおりたんやめえ

:こおりたん、いいね

:さっきの幼女の口癖が移ってて草


「さて、予定はちょっと狂っちゃいましたが、ダンジョンをアタックする上での心構えを一つ! ダンジョンはどんなにランクが低くとも、絶対に油断しちゃダメってことです」


:はーい

:はーい

:こおり先生質問!


「はい、なんでしょうか?」


:ダンジョンで配信をしたいと思ってるんですけど、初期費用ってどれくらいかかるものなの?


「難しい質問ですねー。しかしこおりは答えましょう。ズバリそれはピンキリです!」


:ピンキリ?

:答えになっとらんぞ


「うん。だって実際には最終的にどのダンジョンを回るかを聞いてないしね。低ランクで命に危険のない配信だったら、カメラはそこまでお金をかけなくていいと思うんですよ」


:確かに

:カメラが高性能になるのは、モンスターから身を守るためやもんな

:結局はその配信者次第ってことね

:一番高いのはカメラって言われてるから


「最悪、ホームビデオのカメラでもいい訳です。その場合は編集も手間ですが、配信はできます。生放送となるとまた難しいですがね」


:配信は生放送を予定してます


「だったら高性能のパソコン、集音器、これはマイクですね。他には武器の新調にもお金はかかるので、本当にお金が余ってるぐらい余裕で強い人以外は基本お勧めしませんね。ダンジョンって相当に実力ない限り配信にはとことん向かないコンテンツですからね」


:それはそう

:命がかかってるからな

:あー、小銭稼ぎしかしないのに配信しても意味ないのか

:リスナーが求めてるのは手に汗握るバトルやし

:こおりたんの雑談は別

:可愛いと何やっても映えるよね」


「可愛さは維持をするのにお金がかかるのですよ。こおりは生まれつきの部分に結構助けられてるので、両親には感謝! 皆さんも両親には感謝して、次はモンスターとの接敵ですよー」


:はーい

:はーい

:はーい


 さっきの幼女の口癖はまだまだコメント欄に残ってるが、ここから先は氷の独壇場。バトルは一番な得意要素。ここで一気にリスナーの気持ちをこおりに向ける。

 そのあと次の配信の告知なんかをして、おしまいかな。


 そう考えてる時、奥の部屋から声が聞こえてきた。


「スラッシュ、スラッシュ、そしてスラッシュ! あははは! テンション上がってきたーー!!」


「テイム、テイム、テイム、テイム! モンスター合成マンドレイク! いけ、マンドレイク! ラットを蔦で縛ってしまえ!」


「「「ヂチィイイイイイ!!!」」」


 そこではバットを見たこともないスライムが天井に磔にされており、新しく生み出されたマンドレイクが石床に根を張ってラットを地面に縛りつけてる風景だった。


 身動きの取れなくなったモンスターを幼女が一匹ずつ【スラッシュ】で仕留めている。


「ナイスお兄たん、トドメのスラーッシュ」


 その映像を目の当たりにして、こおりは目の前が真っ白になる。

 何あれ。

 テイムは知ってる。でもモンスター合成? そんなのは知らない。

 そしてマンドレイクなんてCランクダンジョンの中層のモンスターではないか。

 なんで当たり前のように使役してるのだろうか?

 ここはFランク、駆け出し探索者のやってくる場所だぞ?


 あれ? 場所を間違えたかな?


 いやいや、それよりもあっちの小さい子。

 スキルが使えるのは知っていた。

 けどスラッシュは【長剣】の剣技であるはず。

 なのにあの子の扱ってる武器種は【突剣】だ。


 突剣のスキルは【剣技:スマッシュ】な筈。

 貫通力を高める一撃で、硬い鎧を射抜く、そういう技術が芽生えるのに。


 なんで突剣で【剣技:スラッシュ】を扱えるのか、こおりには理解が及ばなかった。

 

 なんならスマッシュでスライムを貫通した上で、横凪のスラッシュを発動させている。

 めちゃくちゃだ。

 めちゃくちゃなのになんであんなに楽しそうなのか。


:こおりたんが言った前提条件全部無視してて草

:サポーターが最強ならスキル一本で食ってけるんやなー

:今北産業? ここどこダンジョン?

:アーカムのF 一階層

:なんでマンドレイクいるの? 一瞬因習升インスマスのCと空目したぞ?

:因習升にいきなり凸する訳ないやん、こおりたんソロよ?

:今回はFランク強化月間だって言ってたで

:マンドレイクはあっちの兄ちゃんのテイムモンスターだよ

:なんだテイムか

:テイムって強いんすね

:序盤で何をテイムできるかだな

:テイムは強いよ、育て方次第だけど

:序盤? テイム? なんの話

:何って、テイマーってのはモンスターを拾って育てるジョブだぞ?

:あの兄ちゃん、無作為にテイムしては合体させてたぞ?

:合体? なんだそれ

:ちっちゃい子は突剣で【スラッシュ】してたしな

:ダンジョンて自由なんだなー


「あははははは。では今日の配信はここまででー」


:こおりたんが壊れた

:あんなの見せられたら誰だって自信無くす

:多分あの兄ちゃん、普通に上級探索者やぞ

:それは見てたらわかる

:配信者は強メンタルじゃないとやってけないからな

:こおりたん、期待の新人だったのに、壊れないでー

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