桜が散るまで

ぷりず

第1話 ピンク髪の女性

「明日は入学式かぁ」


俺の名前は石田涼。この春新しく入学する高校一年生だ。突然だがみんなは、春という季節に対してどのようなイメージを持っているだろうか。俺は、特に出会いの季節だと思っている。なぜなら、4月になるとどの学年でも入学式や始業式などがあり、必ず新しい人たちと関わるようになる。俺はそんな春が好きだった。


「お兄ちゃ〜ん」


突然俺に話しかけてきたのは石田咲。俺の妹だ。


「...どうした?」

「いや〜、お兄ちゃん明日入学式なんだよね?」

「うん、そうだよ。それで?」

「この私たちが住んでる場所辺りは桜が咲くのが遅いって言われてたじゃん?それで、明日も全く咲かないっぽい」

「そうか〜。まぁ、それはしょうがないよな」

「お兄ちゃんは嫌じゃないの?折角の入学式なのに桜が咲いてないなんて、なんか気分上がらないじゃん?」

「そこまで俺は気にしないけどな。別にいつかみれたらいいんだから」

「ふーん。写真の見栄えとか気にしないの?」

「咲は知ってるだろうが、俺は写真を撮られるのが好きじゃないんだ。だからどうだっていい」

「その気持ちはいつまで経っても理解できないなぁ」


そう呟くと、咲は離れていった。



この家は、俺と咲の2人暮らしだ。元々両親は離婚していて俺たちは父親と暮らすことになったんだが、父さんは海外出張などで家を離れる事が時々ある。今もその最中で、必然的に妹と2人暮らしになっているということだ。




「おーい咲〜。明日は7時くらいに起こして〜」

「もう、お兄ちゃんは少しは自分で起きようとしてよ」

「安全策があるのに、わざわざリスクある行動を取るわけないだろ?」

「はぁ、そんなんで一人暮らしとかできるの?」

「俺は誰かに養ってもらうから、その心配はいらない。」


俺がそう言うと、咲は呆れ顔で自室へと向かってしまった。無視された...もぅマヂ無理。







「起きて!朝だよ!!」


「......ん...なんだよ」

「なんだよじゃなくて!時計みてよ!」


うるさい妹に無理矢理起こされた俺は、寝起きで重たい瞼を擦りながら時計に視線を移す。その時計に表示されていた時間は...


8時40分


「...俺今日学校休む...」

「いいわけないでしょ!早く準備して!」

「もうやだ...」


初日から遅刻なんて周りからのイメージ最悪だ。ここで学校を休むことが出来れば、まだイメージは悪くなかったはずなのに...


「あれ、そういえばお前は学校無いのか?」

「私の学校は始業式がまだ先だからね♪」

「うぜえなあ」

「愚痴言ってる暇あるなら早く準備してよ!」

「...あぁ」


そんなこんなで俺は、時計の短針が9という数字を指す直前に家を出た。


「あぁ、やっぱ学校行きたくねぇなぁ。ていうか、今ここで学校に休みの連絡をして、適当に外で時間を潰して帰ればいいんじゃないか?」


天才的な作戦を思いついた俺は、すぐさま学校に連絡を入れた。入学式に休むというだけあって、先生には非常に同情され、心が痛くなった。


「時間潰すって言っても、何すっかな〜」


特に行きたいような場所も無く、これから何をするか非常に迷っていた。


「そうだ、折角だし桜の咲いてる場所に行くか!」


昨日妹に桜は興味ないとか言った俺だが、実際見れると言うなら見たい。この何もすることが無い時間。暇に過ごすくらいなら、桜を見に行った方が充実するだろう。そう思った俺は、早速桜が咲いてる場所に向かった。

といっても、かなり離れていて、県も違うため、かなり時間がかかる。


「約2時間か...」


正直面倒くさくなったが、1度決めたことだし、意を決して自転車を漕ぎ出した。






「...着いた〜」


約2時間半自転車を漕ぎ続け、何とか目的地に辿り着くことが出来た。


「予想時間よりも30分遅いなんて、どんだけ体力が無いんだ、おれ...」


自分の体力の無さに驚きすら感じていたその時、


「すみません...」

「...ん?」


突然、後ろから話しかけられた。ゆっくり振り向くと、そこには、


「あの...飲み物とかって、持ってないですか...?」


長髪で非常に可愛らしい、小柄な女性が立っていた。見た感じ、自分と同い年くらいだろうか。髪色は、ピンク色で、近くに咲いている桜の色とそっくりだった。どうやら、飲み物を求めているようだ。


「飲み物?一応スポーツドリンクは持っていますが、僕がもう口をつけてまして...」

「全然大丈夫です!その飲み物を、少しでいいので、飲ませてくれませんか...」


なにやらとてもしんどそうだった。もしかしたら、喉が渇いたので飲み物を飲みたいが、飲み物を買うお金が無い。そんなとこだろうか。


「じゃあ、これ...どうぞ」


俺は彼女にスポーツドリンクを渡した。


「本当に、ありがとうございます!」


俺に感謝の言葉を述べると、勢い良く飲み出した。

...あれ?さっき少しでいいのでって言ってたよな...

彼女がスポーツドリンクを飲む手は止まらず、全て飲み干してしまった。その直後、彼女はハッとした顔で、


「す、すいません!どうしても飲む手が止まらなくて、本当に...」

「全然、いいんですよ。なにやら体調悪そうでしたし。それより、何があったんですか?」


「この暑さですし、喉が渇いたんですが、お金を持ってきてなくて...」

「なるほど、確かに春だとは思えない暑さですよね」


今は4月だが、気温は30℃近くあり、夏だとしか思えない暑さだった。


「本当に申し訳ないです...全部飲み干してしまって...どうやってお詫びすればいいか...」

「いいんですよ。そんなミス誰にだってありますし、実は僕がここに来たのも、あなたと同じような理由で、これも何かの縁だったってことで。気にしなくていいんですよ」

「その...本当にありがとうございます!貴方は命の恩人です!」

「そんな大袈裟な...僕はただ飲み物を渡しただけですので、そんなに気にしないでいいんですよ。」


我ながらかっこいいことを言えたと思う。


「本当に、感謝してもしきれないです!ありがとうございます。...あ、これ!良ければ持っていて欲しいです!」

「ん...?」


突然彼女から貰った物は、お守りのような物だった。一体何のお守りなのだろうか...


「これは、お守りですか?」

「えっと...そうです!それをできるだけ持ち歩いてくれたら嬉しいです!」

「...分かった、よく分からないがありがとう」


何故突然お守りのような物を貰ったのか分からないが、まぁ、言う通りにしておいたらいい事ありそうだし、財布などに付けておく事にしよう。








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