冷血皇帝と最後の魔女の契約婚〜期間限定ですから義理で愛さなくても大丈夫ですよ?〜
宮永レン
1章 聖剣をぬい(ぐるみに変え)ただけなのに皇妃なんてご遠慮します
第1話 冷血皇帝とご対面
とても困ったことになった。
言葉の選択肢によっては、今日で人生が終わるかもしれない。
リンネアは背中にだらだらと冷や汗を垂らしながら、うつむいて真紅の絨毯の上に立ち尽くしていた。
ここはエインヘリア帝国の皇都スカディの中心に建つ宮殿の中でもさらに中央に位置する謁見室だ。裕に大人百人が立ち並べそうなほどの広さがあるが、今、招かれている客人はリンネア一人。なんとも心細い。
彼女は張り詰めた空気に押し潰されそうになりながら、両腕で抱きかかえていた赤褐色のふわふわしたぬいぐるみを胸にぎゅっとくっつける。
前方から扉が開く音がして、絹擦れと誰かの足音がリンネアの耳に届いた途端、胸の奥が強く締めつけられるように波打ち、心臓が激しく鼓動を打った。
「聖剣を抜いた乙女よ、顔を上げろ。名は何という?」
若い、けれど人を従わせることに慣れているような低く威厳に満ちた声だった。
この声の主が皇帝その人で間違いなさそうだと彼女は思った。
「……はい。リンネア・ライネと申します」
必要以上におどおどすれば変に勘繰られるだけなので、ゆっくりと視線を上げ、できるだけ声を張って答える。
真紅の絨毯の先、数段上の壇上には金で縁取られた大きな玉座が鎮座していた。そこに座っている青年が、現在エインヘリア帝国を統べるヘリオス十世ことラーシュ・レオン・アーク・ヴァロケイハス皇帝陛下。
凛々しい美丈夫だった。太陽の光を集めたような癖のない黄金の髪に、目鼻立ちは神様が正確無比に並べたかのように完璧に整っている。手足はすらりと長く、漆黒の礼服には金の刺繍が施されていた。肩には、竜が描かれた盾と交差する二本の剣が百合の花に縁取られている帝国の紋章があしらわれたマントをかけている。
リンネアが生まれ育った村にも、今日初めて訪れた皇都にも、これほど美しい顔立ちの男性はいなかった。遠くから眺めるだけなら目の保養になりそうなものだが、あいにく今の彼女にそんな心の余裕はない。
なにせ、相手は流れる血すら凍りついていると人々から恐れられている「冷血皇帝」の異名を持つ男だ。
「で――聖剣はどこだ?」
ラーシュの声は低く冷静だが、おそらく苛立ちを抑えているだけなのだろうとリンネアは思う。
いきなり核心をつく質問がきて、彼女は小さく肩を震わせた。
「こ、こ、ここに……」
リンネアは、腕に抱いていたぬいぐるみを顔の前まで掲げた。
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