第21話 青春ごっこ、しようよ

「やあ、茜君。この前ぶりだね」

 待ち合わせ場所の公園にやってきた波瑠はそう言って笑った。

「そうだな。今日はどこ行くんだ?」

「たまには茜君が決めてよ」

「え……」

「茜君が決めるデートプラン、興味あるなぁ」

 そう言って波瑠は期待に満ちた瞳を向けてくる。

 そんな風に振られるとかえって頭が回転しない。デートという単語だけが頭を空回りしている。

「こういう時は思いついたものをパッと言わないと、余計にハードル上がっちゃうよ?」


 思いついたものを、パッと……


「じゃあ、家……?」

「わお、大胆」

「今の発言は忘れてくれ……!」

 自分の言葉にいたたまれなくなって顔を手で隠そうとすると、その手を波瑠が掴んだ。

「じゃあ今日も私が連れまわしちゃおっかな。いいよね?」

 そう言って彼女は俺の顔を覗き込む。そしてニッと笑うと、背を向けて歩き出した




「私ね、茜君とやりたいことがあるんだ。でもそれにはまず買わないといけないものがあって。平日の昼間とはいえ他にお客さんはいるだろうし、茜君はちょっとここで待っててくれる?」

「いや、俺も行くよ」

「本当に大丈夫?」

 波瑠が心配そうに首を傾げる。

「ああ。もう克服したんだ」

 本当は全然そんなことなかったけど、今日は少しでも波瑠と一緒にいたい。

「そっか、分かった。怖くなったら私の手、握ってもいいよ?」

「そんなことするか」


 軽口を叩きながら歩いていく。周囲の景色は住宅街から繁華街へと変わっていった。平日の昼間だからそこまで人は多くないけど、反射的に体がすくみそうになる。


「こっちだよ」

 そう言って急に波瑠は俺の手を握った。その温かさで緊張が解ける。

「ここ、入るね」

 波瑠がそう言って入ったのは、某有名ディスカウントストアだった。店内には社名を繰り返す音楽が流れ、特徴的で派手なPOPが棚を飾る。どんな店かはテレビで見て知っていたけど、実際に入ったのはこれが初めてだった。


「んー……多分三階かな」

 エスカレーター付近の案内表示とにらめっこして、波瑠が呟く。三階へ移動すると、そのフロアには子供向けのおもちゃやら何かのアニメのグッズやら、とりわけカオスな空間が広がっていた。


「波瑠、ここで何を買うんだ?」

「ふふん、よくぞ聞いてくれました」

 波瑠は上機嫌に振り向く。

「私達って、学校に行ってないでしょ。だから青春ごっこ、しようよ」

「青春ごっこ?」

 波瑠は棚の間をすり抜けていく。そして、ある商品を手に取った。


「青春と言えばまずはこれじゃない?」

 そう言って見せてきたのは、ブレザーの制服だった。


「私、ブレザーって憧れだったんだよね。中学は一応、セーラー服だったし。高校は可愛いブレザーのところにするぞーって決めてたんだけど、まあ、色々あってね」

 そう言って悲しそうに顔を逸らした。自分の過去に触れるとき、波瑠はそんな顔をする。だから詮索しないと決めた。

 波瑠はパッと俺の方に顔を上げた。


「だからね、今日は憧れの制服を着て、なんちゃって放課後デートをしたいなぁって。いいかな……?」

「好きにすればいいんじゃないか」

「やったぁ、ありがとう! それで、こっちなんだけど……」


 波瑠はラックから取り出した商品を遠慮がちに見せた。


「茜君はブレザーと学ラン、どっちがいい?」

「って俺も着るのかよ?」

「だって一人だけじゃ寂しいじゃん! 茜君も一緒に着ようよ! ……それとも、本当に嫌?」

 波瑠は不安そうに俺の顔を覗き込む。いつもは強引なのに、そうやって引いてくるのはズルいと思う。

「しょうがないな」

「えへへ、ありがとう」

 そう言って満面の笑顔を見せた。

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