第12話 質問には正直に答えること、だよ
「ねえ、せっかくだからゲームしない?」
さらに園内を進んでいると、ハルがそう言いだした。
「ゲーム?」
「うん。一人が条件を出して、それが達成されたらもう一人に一つ質問が出来る。質問には必ず正直に答えること。ただし、その条件はここにいる生き物たちに関することで、極端に簡単なのは禁止とする。どう?」
「まあ、いいけど……」
「よし! じゃあまずは私からね」
順路に沿って歩いていくと、目の前の檻にはフクロウが一羽、木に止まっていた。眠たいのか、ウトウトして瞬きを繰り返している。
ハルは声を潜めた。
「それじゃあ条件は、『このフクロウがあと三十秒以内に眠ること』。いくよ? いち、に……」
ハルが数字を数えているうちにも、フクロウは眠ってしまいそうだった。
「……にじゅうよん、ねえ、寝ちゃったみたい」
フクロウの瞼は完全に閉じていた。
「条件を達成したということで、私からレイ君に質問です」
質問って、ハルは何を聞きたいんだろう。
「昨日は何してたの?」
「え?」
「質問には必ず正直に答えること、だよ?」
昨日は、仕事もなかったから一日家にいた。
「ずっと家にいたよ」
「家では何するの?」
「大した事してないけど、本を読んだりとか。知り合いが勝手に本を家に置いていくから、何となく読んでるだけで……これ、聞いてて楽しいか?」
「うん。とっても」
ハルは満足そうだった。俺の本名とか、もっと個人情報に関わることを聞いてくるんだろうと身構えていたから拍子抜けだった。でもまあ、波瑠がそれでいいならいいか。
「次はレイ君の番だよ。どんな条件にする?」
俺は手にしていた園内マップを広げた。園内の中央には円形の檻があり、ハシビロコウが展示されている。ここの目玉らしい。
「じゃあ、このハシビロコウが羽を広げることが条件」
俺の言葉にハルは目を見開いた。
「レイ君、分かってる!? ハシビロコウって動かない鳥って言われてるんだよ? ……ははあ、さてはレイ君、私の更なる魅力を知るのが怖いんだね?」
「ほら、行くぞ」
「ちょっと! 乗ってくれないと私が変な子みたいじゃん!」
ハルは怒ったように頬を膨らませた。
きっと俺達は何も知らない関係の方がいい。でももし、君に質問するチャンスを得られたなら、その時は一歩踏み出してもいいのかもしれない。
オウムのいる檻を曲がると、視線の先に目的の場所が見えた。
「え……え? だって、動かない鳥って言われてるんだよ? なんでそんな、羽ばっさばっさして動き回ってるの!?」
ハルはハシビロコウを見つめて、興奮したように言った。
「すごいよハル君! きっと激レアだよ!」
正直、俺も驚いた。背中を押されたような気がした。
「なあ、どうして手紙に『また会いたい』なんて書いたんだ」
俺の言葉にハルは振り向く。
「理由をつけるなら、レイ君のことが好きだからだよ」
ハルは世間話のように言った。
この「好き」に深い意味なんてない。そう分かっているのに、ハルのことを真っ直ぐ見られなくて顔を逸らした。
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