第4話 私達ボッチ同盟だね

 買い物が終わって、俺達は近くに会った公園のベンチに腰掛けた。まだ夕方と言うには早く、子供の姿はない。


「いいものが買えてよかったよ。レイ君、付き合ってくれてありがとね。家族以外とお買い物なんて、憧れてたから楽しかったなぁ」

「女子ってそういうのよくやるんじゃないのか? 友達多そうだし」


 確かにちょっとおかしな奴だとは思うけど、人生楽しそうで、明るくて、行動力の塊みたいだから、きっと陽キャで女子グループの中心にいるんだろうと思った。それなら何で今日は学校をさぼっているのか疑問だけど。

 俺の言葉にハルは空を見上げた。


「残念ながら私に友達はいませーん。あと、これ以上は事情を詮索しないっていうルールに則り、追求禁止としまーす」

「えっと、なんかごめん……」


 ハルは俺の顔を指さした。


「謝るのも禁止! なんか私が可哀想みたいじゃん」

 そう言ってそっぽ向いた。

「安心しろ。俺も友達いないから別に可哀想とかは思ってない」

 俺の言葉にハルは吹き出した。


「ふふっ、私達ボッチ同盟だね」

「嫌な同盟だな」

「友達とカフェでお茶したり、彼氏と遊園地に行ったり、そういうのって憧れるけど私には無理な話だなって思っちゃう。諦めるなんて、周りからしたらまだ頑張りが足りないんだろうけど」

「頑張ってるかどうかは自分が決めることだろ」

「えっ?」

 驚いた顔で俺を見つめる。


「周りからどう思われるかなんて関係ない。自分が頑張ってると思うならそれでいいだろ。それでもとやかく口を出してくる奴のことなんて放っておけ」

 すると突然、ハルは声をあげて笑い始めた。


「あはは、放っておけって……レイ君、面白すぎ。でも、そうだよね。私は頑張ってる! だからそれでよし! なんだ、そんな簡単なことだったんだ」

 そしてハルは俯いて呟いた。


「やっぱり君を選んで正解だった」


 その言葉の意味が分からなくて、反応に困った。すると突然、ハルは立ち上がった。

「あ! 猫だ!」

 そう言って、公園の茂みの方に走って行く。


「おい、また道路に飛びだしたりするなよ!」

 俺の言葉にハルは足を止めて振り向いた。

「もしそうなったら、またレイ君が助けてくれるんでしょ?」

 そう言って笑う。あんなのはもうごめんだ。


 ハルは足音をひそめて茂みの側に近づいた。なんとなく放っておくのが心配で俺も後ろに続いた。茂みの陰を二人で覗き込むと、小さな三毛猫が丸くなっていた。


「可愛いねぇ」

 ハルが小声で言う。本当に嬉しそうな顔に思わず胸がウッとつっかえる。こんな感覚は知らない。

「……そうだな」

 その時、俺の電話が鳴った。その音で猫が逃げて行ってしまう。


「悪い」

 俺はすぐに電話を切った。

「猫のことは仕方ないよ。電話、出ないの?」

「ああ、もういいんだ」

 また電話が鳴り始めた。

「また鳴ってるよ?」

「ちょっと行ってくる」

 仕方なくその場を離れた。


 俺の電話番号を知ってるのは一人しかいない。電話に出ると、聞きなれた低い男の声がする。

『もうお前の家の前についてるぞ。居留守か?』

「仕事には行かない」

 それだけ言って電話を切った。


「よかった、ちゃんと戻って来てくれて」

 ハルはベンチに戻ってきた俺を見て言った。

「勝手に帰ったらさすがに後味が悪いからな」

 そう言って隣に座る。

「そっか、そうだよね。今日はすっごく楽しかったよ。もっと一緒にいたいけど、満足してあげる」

 変な言い方に思わず笑ってしまった。

「ははっ、何だよそれ」


 ハルは俺に手の平を差し出した。


「はい」

「なに、金か?」

 ほんの冗談のつもりだった。

「うん、そう」

 ハルは真面目な顔でそう言った。

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