第42話

「急に言われても困るか。それじゃあ、取り敢えず散歩にでも出掛けようか?俺、車椅子を押したい」

いいですって断ろうとしたけれど、嬉しそうに笑う彼を悲しませたくなくて、お願いしますって頼んだ。そしたら、

「やった!」小さくガッツポーズされてしまった。

段差がある玄関は彼に手伝ってもらい後ろ向きで下りてそのまま廊下に出ると、ひんやりとした空気にぶるっと身体を震わせた。

「天気はいいけどちょっと寒いかも知れないな」すぐに気付いてくれた彼が着ていた上着を脱いで膝に掛けてくれた。

近くにある公園に連れて行ってもらった。

雲一つない青空の下、犬の散歩をするひと、フリスビー遊びを楽しむ若者、鬼ごっこをする子どもたちで賑わっていた。

砂利が敷き詰められた曲がりくねった散歩道を和真さんに車椅子を押してもらいゆっくりと進んでいたら、彼が急に立ち止まった。

視線の先にあったのは、赤ちゃんを背中におんぶしたお母さんが笑顔で見守る中、ぶらんこでお父さんと一緒に遊ぶ小さい子どもの姿だった。

微笑ましい家族団欒の様子を彼は無言のままじっと見詰めていた。

「和真さん」袖を掴みツンツンと軽く引っ張った。

「あ、ごめん。ぼっとして……」

「ううん」首を横に振った。

家族とどこかに出掛けた記憶も、こういう風に遊んでもらった記憶も一切ないから、僕も本音を言うと羨ましかった。

「四季が両性だって副島から初めて聞いたとき、すごく嬉しかったんだ。その変な意味じゃなくて………きみとなら笑いの絶えない温かな家庭を築けるんじゃないかなって。俺も3人兄弟だったから子どもも出来れば3人はほしいなって、そしたら今の車じゃ駄目だ。車椅子ごと乗れる福祉車両を準備しないと、キッチンも四季が使いやすいようにリフォームしないと。あれこれ想像するのが楽しくて。ディーラーや施工業者からカタログや見積書を貰ってきたからあとで一緒に見よう。あと…………そうだ」

そこで言葉を一旦止めるとポケットから何かを取り出した。



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