第30話

ずらりと並んでいる他のお客さんの邪魔にならないように、和真さんが会計を終えメロンパンを受け取るまでテントの外で待つことにした。

「ちょっと!」

さっきの女性が友達の制止を振り切り、怒り心頭の様子で真っ直ぐ僕のところに向かってきた。

身の危険を感じ、すぐに和真さんのところへ逃げ出したかったけど、手が震えて動けなかった。

そうしている間、女性はじりじりと近付いてきて、

「あっ!」

いきなりガッと腕を掴まれた。

引き剥がそうと藻掻いたけど、遊木さんは凄い力で腕を握ったまま離してくれない。

「この、泥棒猫‼」

「っ・・・・・痛っ・・・・・!」

痛みに、腕が痺れる。

「はな・・・・・して、ください」

呻くような声を上げた。すると女性はニヤリと笑うと、もう片方の手に握っていた紙コップを僕に向けた。

「止めてください。和真さんは大事な友だちで………」

「うるさい、うるさい」

女性が狂ったように髪を振り乱し喚き散らした。

顔に掛けられたら間違いなく火傷する。

とっさに手で顔を覆った。

その直後ーー

「頼むから、俺の大事な人から離れてくれ」

計り知れない哀しみを秘めた和真さんの声が辺りに響き渡った。


「寒くないか?」

「うん」

和真さんが膝掛けを掛けてくれた。

あれから気まずいまま会話もほとんどなく、目的地の海まで1時間も掛からず到着した。

交通整理をしていた警備員さんに和真さんが事情を説明し身障者スペースに駐車させてもらうことが出来た。


遊木さんは回りにいた通行人に取り押さえられ、駆け付けた警備員さんに引き渡された。

何もそこまでしなくてもと思ったけど、和真さんは最後まで一貫して知らない女性だと言い張った。





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