第12話

「無視したら?」


「へ?」


「たもくんが言っていたでしょう。ヤバイ奴だって。もしそうだとしたら、体目当てかも知れないし。ほっとくのが一番。また傷付くのは四季だよ。そうでしょう?」


心の奥底にしまったはずの忌まわしい記憶が脳裏をすっと過った。

その瞬間、寒くもないのに足がかたかたと震え出した。


「世の中、みんながみんな優しい人ばかりじゃない。悪い大人だっている。それは四季だって嫌なくらい分かってるでしょう。諦めてそのうち帰るよ。さぁ、仕事!仕事!長谷川先輩も、ほら仕事に戻ってください。ただでさえ納期が遅れているんですから」


きよちゃんに言われその日出荷する分の伝票をチェックするために急いで事務室に戻った。


仕事がようやく終わったが夕方6時過ぎ。

さすがに2時間近くも待っていないだろうと思ったけど、考えが甘かった。

長い足を組み白い車に寄り掛かり片手でスマホを操作する姿はとても絵になっていた。

優雅で華やかな彼はとにかくよく目立つ。

だからみんな振り返ってチラチラと見ていた。当の本人は見られていることに気付いていないみたいだった。


「四季」

目が合うなり声を掛けられた。

そして破顔すると、

「お帰り」

と、目を輝かせ僕を見つめ返してきた。

やっぱり彼は王子様だ。

そうじゃなかったら、こんなにも心臓がドキドキしないもの。

微笑み返すと、嬉しそうな笑みで大きく頷き、僕の方へと駆け寄ってくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る