異世界護衛の最適解-IAproject-
大森吉平
第1話 解任
「騎士ロイス・スノースマイル。貴君を第三騎士団長の任から解きシュラ国騎士団から除名することが決定した」
アシュリー騎士長は淀みなくそう言い放った。
「……、……はい?」
実質の上司からほぼクビの宣告を受けたロイスはあまりのショックに閉口し、なんとか絞り出した言葉はなんとも情けないものであった。
魔物討伐の遠征から帰って早々アシュリー騎士長の部屋に突然呼び出され、何事かと急ぎ来てみればこれである。ロイスは頭の中で考える。一体騎士団を除名になるほどの何かミスをしただろうかと。しかし、どれだけ思い返してもロイスに心当たりはなかった。むしろ先日の魔物討伐の遠征ではどの騎士団よりも優秀な成績を収め王から直々に労いの言葉を頂いたほどである。
そんなイケイケ絶好調の自分がなぜ騎士団を除名などということになるのか。
「恐れながらアシュリー騎士長。自分には除名されるほどの責に心当たりがありません!何故私が除名なのですか!?」
めったに声を荒げることのないロイスであったが、今回ばかりは納得がいかぬと語気を強める。
「それは私が陛下にそう進言したからだ」
「……アシュリー騎士長が……?」
それはつまり、直属の上司からロイスが騎士団にふさわしくないと思われていたということに他ならない。ロイスは絶望した。最も敬愛するアシュリー騎士長から必要ないと思われていたということが何よりも悲しかった。
「……そんな、ではこれから私はどうしたら……?」
あまりのショックに膝から崩れ落ちるロイス。
「……?何を言っている?貴君にはこれからある重要な任務を受けてもらう。その為の除名処置だ」
「重要な任務、ですか?どういうことなのでしょうか?私は不要だから切り捨てられるのではないのですか?」
するとアシュリー騎士長は不思議そうに首を傾げた。
「何故優秀な貴君を切り捨てなければならんのだ?言ったはずだ。今回貴君にはある重要な任を受けてもらうと。当然他言無用。理解したまえ」
ここでようやくロイスにも少し事情が呑み込めてきた。どうやらある重要な計画が上層部で持ち上がっているのだ。他言無用でしかも、騎士団長一人を除名処分にするほど慎重にならなければならない計画なのだろう。それをアシュリー騎士長はロイスに任せたいと言っているということだ。恐らくロイスに拒否権はない。
とはいったもののとりあえずクビを免れたロイスは心の中でほっとしていた。
「……畏まりました。ほかならぬアシュリー騎士長からの命。この命にかけてもその任務必ず成功させて見せます」
アシュリー騎士長は満足げに頷いた。
「よく言った。ロイス・スノースマイル。私が目をかけて育てた甲斐があったというもの。私は誇らしい」
ロイスはその言葉がとても嬉しかった。実はロイスは元孤児である。幼い頃飢えて死ぬところをアシュリー騎士長に拾われた経緯がある。直属の上司である以上にロイスは命の恩人としてもアシュリー騎士長を慕っていた。
「それでアシュリー騎士長、私の次の任務とは一体何なのでしょうか?」
「貴君の次の任務は、ある人物の護衛任務だ」
正直ロイスは護衛任務と聞いて少し肩透かしを食らった気分になった。騎士団を除名して恐らく国家の中枢にかかわるような重要な任務である。もっと厳しい竜討伐や敵国のスパイかとロイスは思っていたが違うようである。
「護衛ですか?一体誰の?」
重要な任務と称しているからにはかなり重要な人物なのだろうとロイスは推測した。
「名前は
ロイスは全然ピンとこなかった。名前もあまり聞かないものだし、日本という国も聞いたことが無かった。
「日本?聞いたことがありませんね。どこの地方にあるのですか?」
「聞いたことが無くても無理はない。日本はこの世界にある国ではない。こことは異なる世界、異世界にある国なのだから」
ロイスは耳を疑った。もしくはアシュリー騎士長がおかしくなってしまったのか思った。なんせ異世界など言うことをいきなり口走り始めたからである。
「い、異世界……ですか?」
「そうだな、いきなりこんな話を聞いたら混乱するとは思うが聞いてくれ。あまり知られていないことだが、ここではない世界は確かに存在する。貴君は勇者召喚の儀のことを知っているな?」
それはロイスでも聞いたことがあった。昔、この世界には8の国と8の魔王が存在し、その魔王を倒す勇者を召喚する儀式があった。それが勇者召喚の儀である。そして何を隠そうその召喚された勇者と旅をして魔王討伐を成し遂げた仲間の一人がアシュリー騎士長である。
「はい、しかしそれは勇者が魔王を全て倒した際に禁忌とされたと聞いています」
「さすがだ。よく勉強しているな。その通り、勇者召喚の儀は魔王がすべて討伐されてから各国の代表が集まり国間の争いを無くすため禁止する取り決めがされた。異世界から召喚された勇者はかなり強力な能力を持っているからな。しかし、とある筋からの情報で勇者召喚の儀を準備している国があるとの情報が入ってきたのだ」
「な、そんな情報が……?」
それが本当なら一大事である。実際国同士のいざこざはすでに各地で起こってはいるが、禁忌を破って勇者を召喚した国はない。もしどこかの国が約定を破って勇者を召喚すれば一気に戦局が変わることになるだろう。恐らく過去最大の大規模な戦争に発展する。
「もし、約定が破られれば大規模な戦争が起こり多くの者が死ぬだろう。これだけは絶対に阻止せねばならぬ。せっかく魔王が討伐され、平和になるはずだった世界だというのに。皮肉なものだ」
アシュリー騎士長は残念そうに目を伏せた。
「ここまで話せば分かると思うが、実は勇者召喚の儀は異世界から呼び出した者を勇者とする儀式のことでな。そして今回勇者として召喚される可能性が最も高いとされたのが
ここまで説明されてもロイスには突拍子もない話に思えてならなかった。しかし、アシュリー騎士長の目は冗談など微塵も感じさせないくらいまっすぐな眼差しをロイスに向けていた。
「言うまでないが今言ったことは決して誰にも知られてはならない機密事項である。それを貴君に話すための除名でもある。分かるな?」
「む、無論です。例え異世界だろうとどこだろうとアシュリー騎士長の命であれば行く覚悟はできています。して、出発の日はいつなのでしょうか?」
ロイスの揺るぎない覚悟を聞いたアシュリー騎士長は満足げに頷くと立ち上がり優しくロイスの肩を叩いた。
「この後すぐ、だ」
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