顔がキモいという理由でギルドをクビになりました

栗坊

顔がキモいという理由でギルドをクビになった 前編

 マーティンは仲間のギルド員たちと請け負った依頼を完遂し、ギルドに戻ってきた。


 彼が所属しているのは『テールウィンド』という名の冒険者ギルドだ。主に町の住人からモンスター討伐、素材集めなどの依頼を請け負っている。


 この日も依頼を受けて町の北にある森に出現した強力な魔物・グレートトロルを討伐してきた所だった。


 彼は依頼の完了を報告するため、空いている窓口の受付嬢の元へ向かう。受付嬢は最初呑気にあくびをしていたが、マーティンの姿を確認した途端に身体をビクリと震わせ表情を強ばらせた。


「マリベルさん、確認お願いします」 


 マーティンはギルドの受付職員・マリベルに魔物を討伐した証拠であるグレートトロルの牙を見せ、依頼の完遂を報告した。


 マリベルはトレイの上に乗せられた牙に「鑑定」の魔法をかけ、それを確認する。


「はい、確かにグレートトロルの牙ですね。ご苦労様でした。こちらが報酬になります」


 マリベルは報酬の金貨が入った袋をトレイの上に置き、サッとマーティンに差し出した。


 彼女は他のギルド員には手渡しで報酬を渡す。トレイの上に乗せて報酬を渡すのはマーティンだけだ。その理由は分かり切っているので彼は何も言わなかった。


 彼はそれを受け取ると念の為中身を確認した。仲間と分ける報酬の額が間違っているといけないからである。


「金額に間違いはないな」


「相変わらず仕事が早いなマーティン。グレートトロル討伐なんて数日かかってもおかしくないのに…」


 たまたま近くにいたギルド組合員の男が感心したような表情をしながら彼に話しかけてきた。


 グレートトロルは大型の凶暴な魔物であり、討伐難度の高いモンスターだ。かなりの実力がないと討伐するのは難しい相手である。


 そのグレートトロルをマーティンたちは今朝がた依頼を請け負って、夕方には戻って来たのだ。


「そりゃこのマーティンが頑張ってくれたからな」


 マーティンの後ろからひょこりと槍を背負った金髪の男が顔を出した。


 彼の名前はシャルル。マーティンとは気が合い、よく一緒にパーティを組んでいるギルドメンバーだ。


「いや、俺だけの力じゃないさ。皆の力があったから早く終わったんだ」


「謙遜しやがって、もっと誇ればいいのに。グレートトロルの首を剣で断ち切って仕留めたのお前じゃないか。マリベルちゃんもそう思わない?」


 シャルルはマーティンの背中を叩きながらマリベルにウザ絡みした。


 受付嬢マリベルは困ったような顔になりながら愛想笑いをしていた。彼女の表情からは「さっさと向こうへ行ってくれ!」というのが見てとれた。


「そ、そうですね。確かにマーティンさんは優秀な方だとは思います」


「おい、マリベルさん困ってるじゃないか」


 マーティンはマリベルの意向を読み取り、友人を嗜めると報酬の入った袋を持ってギルドの休憩所に足を向けた。他のパーティメンバーたちと報酬を分けるためだ。他のメンバーは一足先にそこで休憩していた。


 休憩所は受付から見て右側にある。ギルドメンバーたちが文字通り休息をとったり、談話したり、依頼の待ち合わせをしたり、様々な用途に使われている。


 マーティンは同じ依頼をこなしたメンバーであるクリンとシルファの姿を見つけると彼らが座っているテーブルに腰掛けた。シャルルも彼の隣に続けて座る。


 クリンは巨大な盾を背負った大男でシルファは小柄な魔法使いの女の子だ。


 マーティン、シャルル、クリン、シルファ。この4人がグレートトロル討伐の依頼を請け負ったパーティメンバーだった。


 もっとも、この4人は固定のパーティメンバーという訳ではない。『テールウィンド』ではその日その日で予定が空いている連中に声をかけ、パーティを組むのが一般的だった。


「今回の報酬だ。受け取ってくれ」


 マーティンは貰った報酬を正確に4分割して渡した。     


「キッチリ4当分でいいのか? 今回の依頼はマーティン殿が1番働いていただろうに。多くとっても俺は文句は言わんぞ?」


「わ、わたしは今回あまりお役に立てませんでした。こんなに受け取れないです・・・」


「何を言ってるんだ。みんながいたから討伐できたんじゃないか。役に立ってないなんてありえない。クリンは盾役としてグレートトロルの注意を引きつけてくれていたし、シルファの魔法はちゃんと効いてたよ」


「…欲のない男でござるな。了解した。有り難く受け取っておこう」


 3人はそれを自らの懐に収めた。それを見届けたマーティンは満足そうに笑った。


 しかしそのマーティンの笑い顔を見たシルファが少し震えていたのに彼は気づいた。



○○○



「マーティンさんはいますか?」


 その後、今日はもう解散しようかと話していた所でギルド長から声をかけられた。

 

 彼女の名はレオナ。背が高く、メガネをかけ、キリッとした細い目をしている。先月亡くなった先代ギルド長の娘で、このギルドを引き継ぎ新たなギルド長になっていた。


 マーティンは何事かと身体をギルド長の方に向ける。


「何か用ですか、ギルド長?」


「申し訳無いのですが、このギルドを辞めてもらえませんか?」


 レオナがその言葉を発した瞬間、周りの空気が凍ったのが分かった。休憩所でおしゃべりしていた他の組合員たちも、どうなるのかとこちらを怖いもの見たさで見守っている。


 マーティンはついにこの日が来たかと思った。先代ギルド長が亡くなってからいつかは来るものと思っていたが、思っていたよりも早かった。


「一応、理由を聞いても?」


 レオナはため息を吐いてめんどくさそうに理由を話した。


「言われなくても理解しているでしょう? あなたの顔が気持ち悪いからですよ」


 昔からこのような言葉は言われ慣れていた。だからそれを聞いても「やっぱりか」としか思わなかった。


 彼の心は酷い罵倒を受けても動じないほど、言葉の刃で切り裂かれる事に慣れ切っていた。


 彼は産まれた時から鼻が異常に大きかった。


 顔にある他のパーツの出来は悪くない。むしろ整っていると言って良い。


 ただ、鼻だけが昔話に出てくる魔女の如く…異常にデカく長いのである。そのアンバランスさが余計に彼の顔の気持ち悪さを助長させていた。


 なにぶん、顔のパーツの問題なので髪型を変えようが、肌の調子を整えようが、他の部分でオシャレしようがその気持ち悪さは変わらなかった。


 思い悩んだ彼はいっその事、鼻を切り落そうとした。しかし寸前のところで思いとどまった。


 この国では罪人に対する刑罰の1つに「鼻削ぎの刑」が存在する。つまり鼻を切り取ってしまうと今度は罪人と同じような目で見られてしまうのだ。


 鼻がデカイだけでそこまで嫌われるか。と思うかもしれない。


 彼が嫌悪されている理由。いや、正確に言うと「デカ鼻」の男性が女性から異常に憎まれている理由は他にもある。


 それは「鼻のデカイ男性と一緒にいる女性は不幸になる」という伝承があるからである。


 実際に数十年前、先代の王妹が鼻のデカイ公爵に嫁ぎ、悲惨な目にあった末に死に至ったのも、この伝承を信じる者が多い所以であった。


 故にこの世界の女性は皆、不吉の象徴としてデカ鼻の男を嫌悪していた。マーティンを産んだ実の母親ですら、息子であるはずの彼を忌み嫌い実家から追い出したのだ。


 目の前の女性に震えられるぐらいならマシな方、酷い時は目があっただけで泣き叫ばれて憲兵を呼ばれ、ゴキブリに出くわしたかの如く物を投げつけられる時もあった。


 彼が女性から異常に嫌悪されているのはそういう理由がある。


 実家から追い出された少年のマーティンを拾ってくれたのが、当時このギルドの長だったジェロームだった。


 彼はマーティンの身の上話を聞き、同情したのか非常によくしてくれた。まだ少年だったマーティンに生活するための知恵を授けてくれ、積極的に仕事を回してくれたり、ギルドに馴染みやすいように取り計らってくれた。


 まるで実の父親のようにマーティンに接してくれたのである。


 マーティンもそんなジェロームに答え、恩を返そうと必死に頑張った。


 結果、彼はこのギルドで1番…とまでは言えないが、上位の冒険者にまで成長した。


 受けた依頼は必ず成し遂げ、男性の町人からの評判は高く、ギルドの男性陣とは良好な関係を築けていた。


 女性陣も内心ではマーティンを気味悪がっているが、その実力を認めてくれている。自分はここにいてもいいのだ…と思っていた。


 しかしやはり無理だったらしい。


 マーティンを庇護してくれていた先代ギルド長が亡くなった今、彼の居場所はここには無いようだ。


 マーティンはギルドの天井を見ながら嘆息を吐いた。



◇◇◇



※当作品は「お試し連載」となります。1週間ほど連載して評判が良いようなら本格連載に入ります。


※投稿予定

10/5(土)~10/11(金)で計14話。本日のみ2話同時更新。

明日からは1日2話、7時と19時に更新します。


面白そう、続きが読みたいと思って下さった方は作品のフォローと☆での評価をお願いします。

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