電子レンジと異世界と私 ～愛用の電子レンジが、異世界で私を助けてくれました。不思議パワーとポイントで、笑顔いっぱいにしちゃいます！～

知ってる天井。

「はあ、はあ、はあ……」

　見知らぬ天井……ではない。こちらではおなじみの、お店の二階の私の部屋、知ってる天井だ。

　そうだ。私……食あたりから始まって、弱った身体にこれでもかって言うくらいに病気を誘発して……死んだんだ。なむなむ、ちーん。

「あー、夢で前世のことをずっと見てたんだなあ私。気付くの遅すぎ」

　スプーンとかフォーク、和風とか前世の記憶から来てたんだ。そりゃあアイラとして生きてきた私にわかるはずがない。

　で、転生モノに定番なアレ。神様とお話をしてたらしい。

　なのに。

　なのに、だよ？

　チートスキルや転生特典をもらえそうだったのに爆睡。

　爆睡ですよ。

　あー！　ラノベで読んだ勇者転生とか世界最強だけどスローライフとか悪役令嬢にハーレムエンドとか、望めば叶えられたかもしれないのにぃ！　

　もうさ、王様みたいにかしずかれちゃってさ？　左うちわで「良きに計らえ。嘘ですナマイキ言ってごめんなさいテヘペロ♪」だとか「苦しゅうない。近うよれ、マイダーリンども。くふ」だとかさ？　夢のような展開がぁ！

　そう、夢の……夢の、よう、な？

　いや、でも昔あれだけ焦がれていた推しシチュも、こうなってみると……どうなんだろ。私はこの環境にとても満足してる。捨てがたいどころじゃない。

　例えばさ、アイラとして生きてきた11年と引き換えに、ものすごい能力をあげるって言われたらどうする？

　ダスティとエミルの愛情に包まれて生きてきた。楽しいお店の手伝いに美味しいご飯。トーマ、リルにラルフ達、他のみんなと学校に通ってワイワイとはしゃいで楽しい毎日。

　甘えたくなったら胸に飛び込んで、お父さんとお母さんの大好きなにおいを胸いっぱいに吸い込んで。

　それなのに今の生活を選ばずに、違った人生を目指すの？

　日本にだって家族はいる。数え切れないほどたくさんの友達がいる（当社比）。私を愛してくれる彼がいるげっほんゴホげふんすみませんメガ盛りました、二次元で生きるステキなダーリン達（赤の他人）がいる。

　私がアイラみたいに接する事ができていたらもっと違った関係になっていたのかもしれないと思うけれど、あっちのあ父さんお母さんはこんな私の事を大事にしてくれた。

　だけど……。

　そう考えると、これこそが私が夢にまで見た人生だったんじゃないの？　あっちでも幸せだった。幸せに暮らさせてもらった。でもこうなってみると血の繋がった家族にどれだけ焦がれていたのかがわかる。

　一時期、結婚したくってしょうがない時期があったもんなあ。まあワンオペで毎日デスマの残業ラッシュ、週一の休みは二次元の彼ピと愛を育むかラノベ三昧か寝るかの私にはハードルが高すぎて諦めたけども。

　だから今のまま、このまま生きていけばいい。生きていきたい。スローライフ美少女路線（玉の輿エンド）で行くのだ！　チートさんチートさん、出番はございませんことよ？

　何で私が転生させてもらえたのかが全く見当つかないけども、神様ありがとうございます。お供えは渋めにお塩とお酒でいいですか？　豚串付けますよ、いかがですか？

●

　………………で。

　閑話休題ですよ。本題に戻ります。

　岡島未来（おかじまみらい）の『えへへ、転生しちゃってた私！　てへぺろ♪』事案はひとまず置いとこう。

　で、だよ？

　視界の端に、気になるものが二つ見えている。

　一つ目。私の相棒、黒くて四角いダンディな電子レンジ。ねえねえレンジ君、どうして私の学習机の上に平然と乗っかってんのよ！

　もう一つは【メニュー】の字。視界の右端で、ででん！　と存在感をアピールしている。何なんですか君は。

　あ、Uber頼めます？　チーズが糸引くようなピザにバジルの効いたチキンナゲット食べたいなあ久しぶりに。炭酸も飲みたい。あとYouTubeの転生乙女ハーレムものの続きも見たいでっす！