第14話

 手術当日の朝。

 手術室へ向かう前に、彩と北斗は言葉を交わした。


「頑張ってね、彩ちゃん」

「うん」

「でも、本当にご両親に言わなくて良かったの? 今日が手術だってこと」


 北斗が心配そうに言う。これまでの彩の「家族」を知らない北斗には、何も言わず手術を受ける彩が薄情に見えているのかもしれない。


「いいの。どうせ私の事は心配してくれないし。それに、私が『高橋』姓になってる説明をするのも大変だし」

「まあ、そっか」


 それから二人はハグをした。

 いってらっしゃい、いってきますのハグ。

 頑張れ、頑張るねのハグ。

 気持ちを伝えあうためのハグ。


「一緒に乗り越えよう、彩ちゃん」

「うん。行ってくるね、北斗くん」


 彩はこれほどまで心強い支えは他にないと思った。一人じゃない。だから頑張れる。北斗が居るから頑張れる。

 手術室に入った彩は、深く長い眠りへと落ちていった。

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