第75話 眩しく感じる瞬間
カレーは甘口と中辛と辛口に分けておいたし、汚れ防止の布も配布する。
「こちらはカレーという料理です、味は甘め、中辛、辛口と別れていて、子供は全て甘口となりますが、大人は味を選べます。この薄焼きパンと共にお召し上がりください」
砦の厨房で働く人が代理で説明してくれている。
そして集まった村人は自分の好みで選んでいく。
「辛いのは苦手なので……じゃあ甘口?」
「はい、甘口」
「えーと、俺は……ま、真ん中くらい?」
「はい、中辛」
「じゃあ俺は辛いの」
「はい、辛口」
「甘いの」
「普通」
「真ん中」
「辛いの」
皆、少し戸惑いつつも、思い思いの味のカレーを注文し、自分たちのテーブル席に持って行く。
「これ、なんだか辛いけどくせになる味だな」
「美味すぎる、スプーンが止まらん」
「あなた、ちょっとそっちのひと口貰ってもいい?」
「いいよ」
「辛いけど辛すぎるってことはないな、美味しい」
「違う味をおかわり可能だって聞いた」
ワイワイと賑やかな宴だった。
皆がカレーを食べて楽しい気分になって来たところで、酒やジュースを配り、俺はまた皆に簡単な挨拶をしてから、歌を披露。
日本で歌っていた歌だから、皆は聞き覚えがないだろうが、珍しくも美しい旋律に皆も聴き入ってるようだった。
「領主様ってお歌がお上手なのねぇ」
「しかも美形でウットリしちゃうわ」
「一曲で終わりなのかしら? もっと聞いていたかったわ」
「舞台の歌手じゃないんだから、そう何曲も謳わないだろ」
などどいう感想が聞こえて来たが、追加の歌のかわりに、ここで皆にサプライズプレゼント。
「デザートのプリンです」
砦の女性が予め指示してたデザートの配布を開始してくれた!!
「何このやわこいの、めちゃくちゃ美味しい!!」
「これ、すごくおいちい!」
「こんな美味しいもの生まれて始めて食べたわ!」
カレーも好評だったが、プリンが絶賛されている。流石に甘味は強いな。
これで次にアイスクリームでも出したらどうなるんだろう。
夏のイベントでもやるならその時にでもと、思ってるが。
デザートの段階になって、俺は獣人二人とユージーンのいるテーブルに移動した。
「プルプルのこれ、おかわりある?」
アルテちゃんが上目遣いでおねだり。
「デザートのプリンはあまり数がないから俺のをあげるよ、フルーツならあそこにあるけど」
「ありがと」
「かわいいなぁ、ここは猫の獣人がいるんですね」
「ああ、うさぎの子も綺麗だろ?」
「はい! うさぎさんもとても綺麗です!」
エイダが騎士達に褒められて照れているが、アルテちゃんはプリンに夢中だ。
「子爵様、私はここに来ることに決めました!」
騎士がプリンを食べ終えてそんな事を宣言した。
え? もしやプリンで就職を決めた?
まあ、なんでもいいけど!
「ではこの契約書にサインを」
俺はいそいそと魔法陣の描かれた布から契約書と筆記具を出した。
「はい!!」
「私も!」
「俺も!!」
次々に騎士達から契約が取れて行く。
「いやー、カレーもプリンも本当に美味しかったなぁ」
ユージーンも満腹になったようだ。
お水を飲んでひと息ついている。
「ユージーンも皆を連れて来てくれてありがとうな、おかげで契約が成立したよ」
「いやいや、食べ物が美味しいってことは偉大なことだよね」
「まだまだ美味い料理のレシピはあるんだよ」
「そんなに!?」
食にこだわる美食の国からの異世界転生者をなめてはいけない。
「ますます楽しみになりました!」
「早く見習い期間を終えてここに来たいです!」
「ありがとう皆、魔物討伐の武勇伝でもあれば聞かせてくれ」
「では私から────」
しばらく騎士達の魔物討伐の話を酒の肴にして飲んだ。
楽師達の奏でる曲と、美味しい食事と酒で、皆満たされているようだったが、ニコレット様達は度々こちらを、俺の方を気にしておられるようだったので、貴族令嬢達の席に戻った。
もしかプリンのレシピが欲しいのかもしれない、などと思っていたら、
「あちらの竹灯籠の小道を散歩したいのですが……」
彼女が指差したのは、竹灯籠の明かりで幻想的なライトアップになってる映えスポットだ。
「あ、はい、エスコートしますね」
そう言った矢先に、
「ほら、しっかり口元を拭いて」
「んー……」
カレーで口元を汚した子供の世話を焼く、砦の兵士の妻であろう母親の姿を見た。
俺は親に捨てられたから、ああいう光景を眩しく感じる。
いつか俺も暖かい家庭……家族を持てるかな?
最近はアルテちゃんが娘のように懐いてくれてるから、寂しさは軽減されているけど……。
「ネオ様?」
「あ、足を止めて申し訳ありません、行きましょう」
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