第66話 ドワーフとオリハルコン

 俺達は辺境伯領の城下町の神殿から海近くの神殿に転移したので、そこで子爵領にて神官募集中の張り紙を貼らせてもらった。

 それから外に出ると潮風を感じた。



「来たなぁ、再びの海街! 魚市場にも行って魚介を仕入れよう!」

「あの、子爵様。先に鍛冶屋ではないのですか?」


 護衛騎士にすかさず突っ込まれた。



「そ、そうだよな! もちろん鍛冶屋も忘れてないぞ! 明日の朝の予定を今言った!」

「そうでしたか」


 いかん! 実は一瞬忘れた。

 100均の店に入ると本来の目的を忘れる人みたいになってしまった。

 恐るべし海街! 急に食欲を刺激してくる!


 俺は通りを走る馬車を呼び止めた。



「ヴィーラントの鍛冶屋まで行ってくれ」

「はい、ドワーフのいる鍛冶屋ですね」

「そう、そこだ」



 ドワーフは人里にいるのが珍しいのか、有名みたいだ。

 戦士以外の御者も知ってるくらいに。



 鍛冶屋まで行くと言っても、剣のブレードに使えるオリハルコンは一人分しかないのに、護衛騎士を二人とも店内に連れてくのはアレだな。


 ユージーンにだけあからさまなえこひいきになってしまうから、すまないが店の外で待機してもらうか。


 でもユージーンは命の恩人の乳兄弟なんだ。 許してくれ……。

 内心で謝罪しつつも、俺達を乗せた馬車は鍛冶屋に到着した。



「すまないが、騎士の君達は店の前で待機し、コニーだけついて着てくれ」

「かしこまりました」

「「御意」」


 店内は魔法使いのコニーがいるから大丈夫だろと、彼女だけ連れて入ったが、騎士がすんなり言う事を聞いてくれてよかった。



 店に入るとカウンターに以前と変わらない店主のドワーフを見つけ、思わず笑顔になる俺。


「お久しぶりです! 時間できたのでオーダーをしにきました!」


 すぐさまカウンターに向かう俺。


「おお、さては騎士の見習い期間な」

「はい、それと陛下からの支度金もあったので、追加で色々」


 俺はいそいそと魔法の布から例の物を取り出す。


「ん?」


 ちょうど他に客が居なくてよかった。 強盗とかに狙われると怖いし。


「それでこちらの金属で剣を一振り」


 俺は布につつまれたそれをドワーフの眼前に差し出し、布を剥がした瞬間、ドワーフは瞳を大きく見開いた。



「こ、これは!」

「大きな声では言えませんが……オリハルコンです」


 ゴクリとドワーフは生唾を飲んだ。


「……また、とんでもないもの仕入れてきやがったな、お前さん」

「あの、もしかして無理ですか?」

「バカ言え! 俺にあつかえない金属はない! こいつは腕が鳴るぜぇ」


 よかった、とんでもないとか言われたから扱えないと困るところだった。


「では、そのようにお願いします」

「承知した、刻印とかは弟子に任せるとしよう、手がたらん」


 すみません、お手数をおかけします。


「はい、よろしくお願いします」


 俺は他の騎士達の剣も追加で発注し終えてから店を出た。


 ◆ ◆ ◆


 そして鍛冶屋での用事をすませてからニコレット様のお屋敷へ馬車で移動。

 ややして到着したのは貴族らしく華麗で立派なお屋敷なので平民の冒険者のコニーが少しビビってる。



「ようこそ、ソーテーリア子爵様、オラール侯爵家へ。サロンにてニコレット様がお待ちです」


 執事がにこやかに出迎えくれた。


「ありがとう」


 サロンに向かうとニコレット様の側にソル卿と黒髪の令嬢が立っていた。


「あ、どうも」


 と、そのへんのご近所さんへの挨拶みたいなセリフを言ってしまった俺。


「男爵家のマリアンヘレス・カルラ・リノドランがソーテーリア子爵にご挨拶申し上げます」

「ネオ様、こちらが男爵家のマリアンですわ」

「なるほど、マリアンヘレス令嬢ですね。よろしく。そしてソル卿、お久しぶり」 


「はい、無事子爵になられましたね、お祝いを申し上げます」

「ありがとう! にしても、お二人も無事に会えてよかったですね」

「先日はヒントをありがとうございました、とても助かりましたわ」


 頬を染めてほほえみ合う二人は確かにいい雰囲気に見える。

 では、まずはお茶をどうぞとニコレット様に促され、ソファに座る俺達。


「では治療はお茶の後に」

「え、ええ! そうですわね!」



 途端に真っ赤になるニコレット様。

 さもありなん、後で胸を揉むと宣言されたようなものだからな。


「そう言えばレベッカ嬢とエマ嬢の方はどうされてますか?」

「私が治療を受けると聞いて、明日か明後日にはこちらに来るそうですから、彼女らもみてくださいますか?」

「もちろんです」



 彼女等はいつメンだからやはり話は通っていた。



「あ、そういえばお土産にラスクを作って来たのでよかったら」

「まあ、美味しそう、いただきますわね。……あら、こちらシュガーどころかシナモンまで使われてとても美味しいですわ!」


 ニコレット様はシナモン入りが一番好きみたいだな。普通のシュガーラスクと二種作って来たんだが。


「こんなにふんだんに砂糖を……美味しいですわ!」


 マリアンヘレス男爵令嬢に至っては砂糖をたくさんまぶしてあるだけで驚きつつも喜んでいる。


 こちらの世界では砂糖が贅沢品なので正直一瞬くらいはどうかなとは思ったが、貴族相手のお土産だしなと、ケチらずに使った。


 そんな訳でお土産のラスクと紅茶などを皆で優雅に美味しくいただき、俺からは灯籠祭りの説明などもした。



「まあ、竹の中に蝋燭を? 見た事がない飾りつけですわ」


 流石の侯爵令嬢も見たことはないらしい。


「なかなか幻想的な美しさがあるんですよ」

「子爵様のお祝いですし、灯篭も気になりますので絶対に見に行きますわ」

「ありがとうございます」



 それから男爵令嬢とソル卿の話なんかも聞き、冬の星祭りの予定の話も出て、サロンでしばらく歓談したのち治療をすると言う事で、俺は別室に案内され移動した。


 ◆◆◆


 なんと案内されたのはニコレット様の自室だ!

 女の子のお部屋訪問!! 貴族バージョン!! 豪華!!

 そしてなんかピンクを基調にしててかわいいし、いい香りがする!!


 これぐらいでテンションぶち上げる俺氏、単純である。


 それからちゃんと例の司祭衣装を着て施術したので俺の下半身事情はなんとかなった。

 レディのお胸は今日も柔らかで素敵でした。ワハハ。



 ◆ ◆ ◆


 翌日の朝市では海老等を中心に仕入れた。


 いつメンの令嬢達が揃うまで帰れないし、その間にカレーの下準備と、海老油を作ろうと思ってる。

 エビの殻を油に入れて成分を抽出した海老油は香ばしい香りがつくのがいい。

 そしてパスタやチャーハンなどを作ると、とても美味しいのだ。

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