第65話 出かけるよ。
「子爵様、これは出入りの業者に渡す為の札です。本日肉の卸し業者と農民から集めた農作物の運び手が来ますので、札を配布して記録につけておきます」
仕事のできる文官がてきぱきと必要な作業を進めてくれている。
「ありがとう」
お礼を言って俺はトレイの上にまとめて置かれた招待状を手にとって確認していく。
絶対に行かないといけないものと、そうでないものとを分ける。
「子爵様の本日のご予定は?」
文官は紙にメモの用意をして、俺のスケジュールを訊いてきた。
「灯籠祭り用の追加の竹とろうそくの注文を頼む。そして転移ゲートの管理ができる神官を探すのとドワーフに会いにオラール侯爵領に行く為に王弟殿下の城近くの神殿まで」
「オラール侯爵領に行かれるのですね」
「そうなる、武器の依頼品があるし、あとはニコレット様にも会うかな」
会えたら治療もしておこうと思うけど、彼女はまだ王都のタウンハウスだろうか?
後で侯爵領に行く用事ができたと連絡をしよう。
紹介状にざっと目を通して、仕分けした。
* * *
その後、俺は砦の上に登って周囲を見渡してみた……。
涼やかな秋風が吹きぬけて行く……気持ちがいい。
しかし……どのへんにどのように灯籠を設置するか悩むな。
見張りの兵士もけっこう離れた位置にいることだし、ここで耳飾りの通信魔導具を使うとしよう。
『あ、ニコレット様、先日はお祝いに駆けつけて頂き、ありがとうございました。そしてドワーフに会う予定ができたので本日中にはオラール領に行く予定です』
思わず畳み掛けるように予定を話してしまった。
『まあ! 随分急ですのね!』
『偶然いい金属が手に入ったもので、気がせいてしまい』
『私もそろそろタウンハウスから侯爵領に戻るところですから、よければ当家にお泊まりください』
『ありがとうございます。では、戻られたらその時に例の治療も受けられますか?』
『そ、そうですわね! せっかく我が侯爵領に来られるのですし、治療を受けますわ。それと新しい侍女も紹介します』
『あ! あの黒髪の令嬢ですか』
『ええ』
『ソル卿と黒髪令嬢は今、どんな感じですか?』
『なかなか良い感じですわよ』
ほーー。そいつはよかったな!
俺は会えるのを楽しみにしていますと言ってから、通話を終えた。
それから少し遠出と外泊する事をアルテちゃん達に伝える。
「行っちゃうの?」
「なるべく早く帰って来るから、いい子にして待っててくれ。エイダ、頼んだよ」
アルテちゃんはお留守だと聞いてしょんぼりしたが、貴族の屋敷に泊まるだろうから置いて行く方が無難だろう。
「はい、侯爵領なら転移ゲートを使うにしても遠出ですね。護衛はどうなさるのですか?」
「護衛騎士二人と魔法使いのコニーを連れて行こうかと思ってる、あとは砦の護りに置いて行く」
「かしこまりました」
「それとエイダ、竹が届いたら、こんな感じでこの長さに切っておいてくれる職人の手配を頼んでくれるかな、中にろうそくを入れるんだ」
俺は紙に描いた灯篭の図をエイダに見せて説明した。
「はい、大工仕事が得意な人に声をかければいいのですね」
「ああ、頼むよ」
それから魔法使いのコニーに声をかけて侯爵領に同行可能か訊いた。
「体調も問題ないので行けます」
「よかった」
しょんぼりしてるアルテちゃんの為に簡単にできるシュガーラスクを作っておやつとして厨房に預けていった。
いくつかは自分達用にも持って行く。
そして俺と護衛騎士とコニーは出かける準備を終えて馬車に乗り、辺境伯領の城下町へ向かった。
◆◆◆ 騎士見習い訓練所内 ◆◆◆
訓練所のコロシアムでは見習い騎士達の木剣が打ち合う音が響く。
先日見習いを卒業した本物の騎士も練習に付き合ってくれる。
しばらく同じ見習い同士で打ち合って汗を拭うユージーンの元に二人の騎士が歩み寄る。
「君が今度新しくソーテーリア子爵になった方の領地に行くと言っていたユージーンか?」
「そうですけど」
二人連れの騎士のうち一人が声をかけてきた。
彼等は先日訓練課程を終え、もはや正式な騎士になっている。
後は所属を決めるだけの段階。
「実は、私達二人もソーテーリア子爵から家門の騎士にならないかと打診の手紙を貰ってるから、一度見に行きたいんだ。連れて行ってくれるかな?
スクロールで移動するんだろう?」
「もちろん、かまいません、一緒に行きましょう」
「ありがとう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます