第53話 王都
子爵領となる土地に住む領民と挨拶がてら鍋パーティーを終えた俺は、砦のベッドの上で人材リストを眺めつつ、一晩過ごす事になった。
そして翌朝。
せっかくなので俺はまた厨房に立ち、料理をした。
出汁を取るのに使った手羽元があるから照り焼きチキンと豆のスープとパンをお出しした。
「お、美味い。これは焼き鳥のソースと同じものか?」
「はい」
「小さな焼き鳥より身が大きい分、よく味わえるな」
ハハハ。
何本も串に刺すのは地味に大変なんですよね。
「このおにくおいちい、おかわり」
「ごめんねアルテちゃん、出汁用に使ったものを再利用しただけだから、おかわりはないんだ」
「むー」
「今度多めに作ってあげるから、今朝は二本で我慢してくれな」
「はぁい」
聞き分けが、悪くなくて良かった。
「そら、子猫よ、仕方ないから私のを一本やろう」
王弟殿下だけ実は三本の手羽元をお出ししていたら、一本取ってアルテちゃんのお皿に乗せてくださった。
「アルテちゃん、こんな時、なんて言うのかな?」
「ありがとう……」
アルテちゃんはもじもじしながら御礼を言った。
「よくできました」
「ははは、子猫はかわいいな」
王弟殿下もかわいい子猫にはメロメロだ。
そして王都殿下が食事の場で知らせてくれた本日のスケジュール。
「本日、この後の予定は王都の騎士の訓練の視察だ、スクロールを使って移動する」
「王都へ!?」
また、急な話だな!
「どこかに所属する前の騎士をスカウトできる場なのだが、ネオはまだ正式に叙爵式をやってないから、騎士の目星をつけるところからだな。ユージーンはそこで入隊して見習い期間に入るといい」
「分かりました」
確かにずっと遊んでるわけにはいかないな。
王弟殿下の言われるとおり、食後は王都に向かった。
スクロールなので、ほぼ一瞬だ。
転移した場所は、王都内の中央神殿だった。
ステンドグラスや壁画が見事だ。
俺達は神官や巫女に挨拶されたりしてりしてから、豪華な中央神殿から外に出た。
王都の町並みは華やかで立派だった。
賑やかにいろんな馬車も行き交い、活気がある。
ところどころ黄色く色づいた街路樹も綺麗だ。
道行くレディも装いが美しい。
整備された石畳も情緒がある。
馬車に乗って騎士達のいる訓練の場へ向かう途中、隣に座るユージーンを横目でチラリと見る俺。
しばらくユージーンと離れるのは、覚悟していたはずなのに少し不安だ。
彼とは異世界憑依転生してずっと一緒にいたからな。
「ユージーン、必要なものがあればすぐに手紙とか連絡をくれよ」
「ありがとう……ネオ」
いつもと同じ、ユージーンの優しい笑顔だ。
このほっとする笑顔が、しばらく見られなくなる。
◆ ◆
到着した騎士の訓練場は広いコロシアムのような場所だった。広い! そして令嬢達もわりと見学に来ていた。
「あなたのお気に入りの騎士様はどなた?」
「ライディン家の方ですわ」
「まあ、あの方ね、精悍な顔立ちの!」
「ええ、素敵ですよね」
キャッキャッと華やいだ様子の令嬢達がお気に入りの騎士達の話で盛り上がっている。
楽しそうで何より。
こういうのは前世でも見たな。
学校で人気のバスケ部やらサッカー部のイケメン男子を見に来てる女子が、あのような雰囲気だった。
ひとまず俺達は受け付けに向かった。
そして今、ユージーンの見習い騎士の受け付けをする後ろ姿を見守っている。
王弟殿下も、俺の隣で見てくれてるんだが突然の爆弾発言。
「王都に来たついでに国王にも謁見するぞ」
「こ、国王陛下との謁見をついでだなんて」
ふ、不敬では?
「あはは、身内な物で、ついな」
そりゃ王弟殿下にとっては身内でしょうけど!
にわかに緊張して来た。
「この機会に家名を賜ることになるだろう」
そうか、貴族になるから名字が貰えるんだ。
「お待たせしました、受け付けは無事に済みました」
ユージーンが受け付けを済ませて声をかけてきた。
「頑張れよ」
俺はユージーンを抱きしめた。
「ネオこそ、僕がいなくてもしっかりね」
「ああ」
「アルテも抱っこー」
そうそう、足元にアルテちゃんもいる。
「はいはい、アルテちゃんも抱っこな」
俺はアルテちゃんを抱き上げた。
ユージーンが、いない間はアルテちゃんが俺の慰めになってくれそうだ。
つくづく猫は偉大である。
そしてユージーンと別れてコロシアムの観客席に移動した。
アルテちゃんを膝抱っこしながら、コロシアムの観客席から騎士の訓練を見守る王弟殿下とアルテちゃんと俺と護衛騎士達。
さて、めぼしい騎士はいるかな?
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