第52話 砦の中で鍋パーティー
生姜と豚肉が入ったきのこたっぷり味噌鍋を作るぞ! と、意気込んで俺は厨房にてあらかじめ用意された食材の中から鍋に使えるものを選び出す。
さて、まずは野菜から入念にチェックしよう。
傷んだものは王弟殿下や領民達にけっして出せない。
まずはきのこのブナしめじと白くて綺麗なえのき……よし、新鮮そう。
キャベツと長ねぎも瑞々しくシャキシャキしてそう!
そしてにんじんの鮮やかなオレンジ色……合格。
あとは出汁用の骨つきチキンとメイン食材の豚バラ肉、生姜、そしてこちらの手持ちのみそ。
これが今回の鍋の主な具材だ。
そして領民達が高貴な方に気をつかわなくていいように鍋は4つ用意する。
ひとつ目は王弟殿下と俺とユージーンとアルテちゃんと騎士達、一番数が多い領民達に三つ分で分ける。
さて、料理の下ごしらえだ。
まず骨付きチキンを煮込んで出汁をとる。
こちらはユージーンが手伝ってくれた。
ちなみに騎士達の料理は今は数人のメイドが作ってくれていて、そのうちちゃんとした料理人が来てくれる手はずになっているらしい。
そして俺はまな板と向き合い、えのきとしめじは根元を切る。
キャベツはおよそ5cm角に切り、長ネギは斜め切り、人参は薄めの輪切りに切る。
さらに切り分けた豚肉を油で炒め、細かく刻んだにんにくを投入。
肉がジュージューと焼ける音とにんにくの香ばしい香りが厨房に広がったところで骨つきチキンからとった出汁スープと野菜も投入する。
最後におろし生姜と味噌を加えると、一気に鍋の香りは高まり、さらなる食欲をそそる匂いが漂よう。
最後の仕上げとしてスプーンで味を確かめる。
「うん、美味い」
よもや領民達は領主となる人間が心を込めて料理してるとは思うまい。
「ネオ、出汁に使ったこのチキンはどうするの?」
「今度照り焼きに使うとして、一旦魔法の布に収納する」
「なるほど」
デザートには秋らしく無花果とリンゴを選んだ。
後はこの料理を広場に運んで貰う。
手のあいた使用人達と騎士達が手伝ってくれた。
◆ ◆ ◆
夕焼け空の下、忙しい中、領民となる人達が集まってくれた。
砦の中でサンセット鍋パーティーを開催するわけだが、その前に大事な演説というか、挨拶だ。
「皆、忙しい中、集まってくれてありがとう!
私が近い将来この地を任される子爵となる者だ、名はネオと言う。この地で皆がなるべく安全で豊かに暮らせるようにしたいと思っている」
すると「おおっ」と、いう感嘆の声が広がる。
わざわざ下々の者に豊かに暮らせるようにしたいと言う貴族は珍しいのかもしれない。
まず王弟殿下につぎわけて、味噌鍋でございますと言って出した。
「お、いい味だな」
「きのこの出汁がいい感じに出ていると思います」
誰かが新鮮なブナシメジを山に入って採って来てくれたんだろう。
「うむ、皆のもの、今日は無礼講だ。
これらは子爵領の領民となるそなたらの為に子爵が用意してくれた料理だ。
楽しんで仲良く食べるといい」
王弟殿下のイケボが広場に響く。
「夕飯時の忙しい時に集まってくれた皆もこの味噌鍋を味わってみてくれ、この味噌は大森林まで行って輸入してきた貴重なものだ」
次に俺がそう促すと、最初はおっかなびっくりの様子だった領民達も、やがて器とスプーンを手にとり、食事の音と談笑が広がりだす。
「これは……美味いな」
「謎の茶色い汁、ほんとに美味しい」
「ミソって言われていたぞ」
「肉も入ってる!」
「ところで新領主様って綺麗な方ね、まるでエルフみたい」
「お前エルフを見た事があるのか?」
「教会の絵で見たわ」
「絵かよ」
「とにかく銀髪で神秘的!」
何やら俺の外見の評価まで聞こえてきたが、褒められてるし、今日は無礼講だ。
広場には暖かな灯りが灯り、領民たちは心地よい笑い声を響かせてくれた。
素朴な人柄の人が多いように見えてほっとする。
小さなアルテちゃんも嬉しそうに器から具材をすくって口に運ぶ。
「おいちい」
はい、今回もおいちいをいただきました!
「これはミィソと豚肉がコクを出し、ここにキャベツの甘みが加わってて……美味しいね」
ほっこりしたいい笑顔のユージーンも食レポをくれた。
「ありがとう、ユージーン、いっぱい食べてくれ」
「うん」
それは夕べの時のささやかな宴だったが、一食浮いただけでもラッキーだと、彼等が思ってくれるといいなと思った。
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