第37話 ブールのキッシュ

 コウモリは仕留めていても誰も食べたくないと思うので羽以外は全部焼いた。

 前世の記憶からして伝染病の原因になりうる動物のイメージが強いし。


 でも羽だけはなんかの魔法素材になるらしいからマーヤさんにあげた。有効活用してください。


 そしてコウモリ騒ぎの後、夜明けはまだ先なので朝まで寝ることにした。


 ◆ ◆ ◆


 俺は鳥の声や、ギャーギャーキーキーと言う謎の獣の鳴き声で目が覚めてシェルターの外に出た。


 シェルターの側には見張りの騎士のケネスさんが立っていた。



「なんの獣の声だろう」


 俺がそうなんとなく呟くと、


「あの声だと猿系のような気がしますが」



 ケネスさんが俺の呟きを拾ってくれた。



「猿系かぁ。ひとまず見張りご苦労様です、朝食の準備をしますので少しでも仮眠をされてください」

「はい、ありがとうございます」



 ケネスさんが仮眠する間、入れ替わりでサウロさんが警備にあたった。


 魔法収納は中で時が止まるらしいので、中身はナマモノでも腐らない。

 俺はパンや卵などの食材やキッチン用品を取り出した。


 今回はキャンプ用品とかで万能調理器と言われるダッチオーブンを使う。

 耐熱の蓋付きなんで上にも下にも炭を置ける。



「おはようございます、今朝の朝食は何ですか?」


 巫女のレリアさんが声をかけてくれた。



「ブールのファルシーキッシュ風です」

「よくわからないけど美味しそうですね」


「パイ生地の代わりに大きな丸型パンを使うのですが、中身をくり抜いてそこに具を入れます」

「まあ、具はどのような?」

「ほうれん草、玉ねぎ、ベーコン、チーズ、卵、塩コショウ、ナツメグ、バターなどです」


「楽しみですわ」


 しばらくダッチオーブンなどを使って調理する俺。



「よーし、いい具合にパンがカリッと焼けた!」

「美味しそうな香りですね」


 耳にイケボが響き、俺が振り返るとイケメンが立っていた。


「ソルさん、おはようございます。朝食ができましたよ」

「皆さん、おはよーございます、いい匂い……」


 ユージーンもシェルターから出て来た。


「「おはようございます」」

 


 皆で朝の挨拶をした。挨拶できてえらい!



「おはよう、ユージーン。朝食ができたからケネスさんを起こしてくれるかな? レリアさんはマーヤさんを起こしてください」

「分かった」

「わかりましたわ」



 そして全員揃って朝食の時間。

 焼けたパンの美味しそうな匂いが朝から食欲をそそる。



「これは美味しくて面白い料理ですね、パンの中身がくり抜かれて中に具が入ってて」


 マーヤさんが褒めてくれた。


「そうでしょう」 


 そうドヤりつつ、写真を撮る俺。

 先日の掲示板投稿のステーキ画像もいいメシテロになったようだ。



「見た目も可愛いです!」


 レリアさんも美味しそうにブールを食べつつ褒めてくれた。


「ところで昨夜のコウモリ襲来の報告も掲示板ですべきですかね? 負傷者が出たと書いたら心配させてしまうでしょうか?」


 俺はふと昨夜のことを思い出し、騎士達のリーダー格のソルさんに意見を伺った。


「我々護衛が多少のかすり傷を負ったけど巫女の治癒魔法でもう完治したと書けばよろしいのでは」


 ソルさんの言葉を受け、騎士達三人は顔を見合わせ、頷きあう。


 あっさり了解を得て、正直に昨夜の事件と呑気な朝食の画像を一緒にアップすることにした。

 このメシテロ画像は中和剤だよ、中和剤!



 朝食を済ませて軽くストレッチをした後、また出発した。森歩き再開だ。



 今度の敵は巨大植物の触手系モンスターだった。

 頭部のような部位がハエトリグサのような巨大な口になってて、更に頭部を支える軸的部分が、ガジュマルの木の根のように触手が沢山ついてる! 


 そして何故か女性のマーヤさんやレリアさんにだけ向けて迫りくる10本くらいの触手!


 だが、


『炎よ、槍となりて敵を穿て! フレイムランス!』



 触手モンスターはマーヤさんの火炎魔法で何もできずに炎の槍を受けて燃え尽きた!

 お前は何しに出て来たんだよ……! と、言いたくなるくらいあっけなかった。


 いや、別にがっかりとかしてねーですから!

 安全第一! 安全第一ですから!



「しかしあの植物の魔物はなんで女性だけ狙ったんだろう」


 俺がそう呟くと隣にいたユージーンがそれを拾ってくれて、


「わからない、美味しそうに見えたのかな?」

「植物にも肉が柔らかそうとかが分かるのかな」

「肉って……」


 俺の肉発言に思わず突っ込むマーヤさん。


「ああ、失礼しました、マーヤさん。あの植物系魔物の生態が不思議でつい」

「まあ、いいですけどね」



 そんな訳で無事触手の魔物を倒し、7日間ほど森を探索する俺達だったが、ついに第一村人と思わしき獣人の幼女を発見した。


 しかし、窮地である。

 猫耳のついたその子はゴブリンに担がれ、攫われていたのだ。







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