第27話 神様に感謝。

「お帰りネオ。ニコレット様とのデートはどうだった?」

「デートって……いやまあいい感じのカフェで茶を飲んだりはしたけどな」



 剣のことは、ユージーンにはまだサプライズにしたくて話してはいない。

 本当は本人に剣を握ってもらい、感触を確かめて……とかやらせた方がよかったのかもしれないけど。


 最初の、俺からの特別な贈り物だから……。

 でも完全オーダーメイドは多分時間がかかるから、ひとまず刻印だけで済むやつを選んだ。


 いずれ、もっといろんなことが安定したら、オーダーメイドで一から作って貰うのもいいと思ってる。



「そういえは密入国の件はニコレット様に相談できた?」

「わ、忘れてた」


 ユージーンは苦笑いした。


「その為にニコレット様を誘い出したわけじゃなかったんだね」

「ハハハ……」



 ユージーンに言われて大事な話を思い出した。

 ニコレット様にも王弟殿下にも密入国のことを言ってなかった。

 手紙を書くか?


 いや、万が一、告白の文書が王弟より先に他の誰かが読むようなことになると大変だ。


 では、ニコレット様伝で耳飾りの魔道具で言うか。

 ニコレット様は俺の力が大事だから、きっと良くしてくれるだろうが……。


 でもどうせ衣装作るのにニコレット様の屋敷に行くんだよな?

 でもそれだと他の二人の令嬢をどうするか。

 ちょっとニコレット様と二人きりでお話したいので外してくださいとか言うか?

 怪しい…………厳しい。


 ……こんなことなら先日の買い物の時にでもひっそり打ち明ければよかった。

 偶然デートみたいなことになってたからそんな大事な事まで忘れてた。


 海には王弟殿下は来られなかったけど、辺境伯領へ帰ったのだろうか? それか王都か。


 色々聞きそびれたなぁ。

 連絡して聞いてみるかなぁ? 魔道具のイヤーカフで。


 屋敷に行った時に自然に二人だけになれるタイミングはありますか?

 とか。

 いや、面と向かって言うの辛いからいっそこの便利な魔道具で……。


 俺は意を決してイヤーカフでニコレット様に連絡を取ることにした。


 寝る前なら、一人だろうと夜にだ。

 夜10時くらいにいちかばちかで。



 ◆ ◆ ◆


 この世界はテレビもないので就寝時間が早め。

 ユージーンも別室で寝てるだろう時間になった。

 スーハーと深呼吸を何度かしてから、俺は魔道具のイヤーカフに指先で触れた。



『こんばんは、ニコレット様。夜分にすみません、今、大丈夫ですか? 日中お会いした時に言えなかった言いにくい話をしてもいいでしょうか? 後で王弟殿下にも伝えるつもりなのですが』



『なるほど、言いにくい大切なお話ですのね、今は大丈夫ですから、どうぞ』


『はい、ありがとうございます。幻滅されてしまうかもしれませんが、俺がこの国に来た経緯、秘密を……お話します』


『何があっても幻滅などしませんわ』



 心強い!!



『実は私は隣国の侯爵家の三男で貴族だったのですが、実家で破門されまして平民落ちしました。挙げ句に命まで狙われたので商人のふりをして亡命してきました』


 ニコレット様が思わず息を飲む気配を察知した。



『い、命まで? 実の家族に?』



『はい、もう少し詳しく説明しますと、魔力無しを理由に婚約者に婚約破棄され、自宅の敷地内の池で自殺しようとしたところをユージーンに助けられ、死に損ないました。父親には情けないと叱責されて家門から追放されたのですが追手がかかりまして、亡命しました』



『まあ、なんと言う……お気の毒なネオ様』



 気の毒だと思ってくれた。



『命がかかっていたとはいえ、商人のフリをして貴国に入り込んだことを、お詫びしたくて』

『……そういえば貴重なレシピを売ってくださったのであの時点では商人で良いですわ』


 !? あれは御礼にあげたような? ま、いいか、相手がそういうことにしてくれるのなら。


『……つまり、お許しいただけると?』

『もちろんですわ、命の恩人ですもの。私、いえ、私達が全力でお守り致しますから安心してください。王弟殿下にも私が上手く伝えておきますわ』


『それは助かります! 本当にありがとうございます!』



 俺は胸を撫でおろし、もう寝る時間だろうからと会話を終わらせて、あとは後日また屋敷でお会いしましょう。

 ってことになった。



「はー、よかった……。なんとかなるもんだな」




 俺は窓の外の月や星を見つめ、天のどこかにいるかもしれない神様に感謝した。


 さて、自分で家紋の紋章を考えるか。

 俺は机に向かってノートを開き、ペンを握った。


 ハートと白い翼を使おうかな。

 乙女過ぎてダサイか? でも分かりやすい気がする。

 俺が治療する時は相手の心臓に近い胸に触れるし、翼は大空を自由に飛ぶ鳥からの発想。


 俺はあのクソみたいな実家から出て、自由に生きるぞ! と言う事でな。

 とりあえず明日の朝、ユージーンに見せて嫌だと言われなかったらこれにしよう。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る