第26話 贈る剣とデート

「さて、帰って水浴びしようか、海水はちゃんと落とさないと肌荒れするんだと」


 俺がそう言うなり、


「ネオ様! それならお任せくださいな!」


 ニコレット様の指先が何か魔法文字を描いたと思ったら、水魔法のシャワーを浴びさせてくれた。

 俺とユージーンの二人とも。



「あ、ありがとうございます、ニコレット様!」

「僕まで、恐縮です」


「よくってよ」


 流石魔力が多すぎて病気になるだけはあるな。



 海遊びを終えて、一旦家に戻って俺達は着替えをしたのだが、俺の方は貴族風の仕立ての良い服を着た。

 ニコレット様が贈ってくれたいい服だ。


 ニコレット様がそれを見て、とても喜んでくれた。

 他愛もないことで喜んでくれるのだな。


 そしていくつかの書類が俺に届いてサインなどもした。



「俺、これから街に出て買い物に行こうと思うんだ。ユージーンも今日は休暇としてこれで遊んで来るといい」


「え、あ、そうなんだ。わかったよ」


 俺はユージーンに小遣いを手渡して自分は街に出ると宣言した。



「ネオ様が街に行かれるなら私が案内いたしますわ」

「ニコレット様、よろしいのですか?」

「ええ、今日の予定は空けてありますので」

「ありがとうございます」


 確かにここはニコレット様の領地の侯爵領なんだから、詳しいだろう。



「あなた達は先に衣装店の者と会うのでしょう?」


 ニコレット様がレベッカ様とエマ様にチラリと視線を送った。

 衣装店と事前の打ち合わせとかがあるのかな?

 


「あ、はい、残念ですが本日はこれで」

「ネオ様、また服の仕立ての時にお会いしましょう」


「はい、それでは」



 くしくもニコレット様とデートのような形で街に来ることになった俺は同乗する馬車の中で今からの目的を彼女に話す。



「騎士になるユージーンに剣とマントを贈るので、まずは剣を探す予定です」


 これは主になる俺の仕事だから!


「なるほど、わかりましたわ! ではまず良い武器屋を紹介致しますね」

「ありがとうございます」


 そんな訳で俺はニコレット様ととある武器屋に来た。

 門構えが立派で歴史を感じる石造りの建物だ。

 ファンタジーゲームや漫画で見た事があるかのようなお店でなんか嬉しい。


 少し緊張しながら武器屋に入る。

 店の中には沢山の武器や防具が並んでいて、奥が鍛冶場になっているようだ。


 店内をぐるりと見渡した後に、俺はカウンターに座る背は低いがっしり体型のお髭の立派な男性を見つけた。


 え? この方もしやドワーフじゃね?

 伝説の!!


 しばし固まってドワーフらしき男性を見ているとニコレット様が声をかけてくれて正気に戻った。

 


「こちらは店主のガザンですわ。ネオ様はドワーフを見るのは初めてですか?」

「あ、はい、失礼しました! つい感動して」


「本日は何を探しに?」


 慇懃無礼な態度でドワーフは俺に問いかけた。


「自分の騎士になってくれる人に贈る剣を買いたいのです」



 伝説のような存在と話す事が出来て、思わず背筋を伸ばす俺氏。

 するとドワーフは奥から同じデザインの剣が三本入った箱を持って来た。


「この剣を見てくれ、どうだ?」



 おお! 強そうな剣!

 でも素人なのでかっこいいことしか分からん!

 ニコレット様に助けを求めて振り替えると、代わりに側にいる護衛騎士が口を開き、



「良い剣ですよ、この持ち手のあたりに紋章の刻印を入れるといいでしょう」


 と、教えてくれた。

 本職の人の言うことなんで信頼できる!



「紋章……か」

「ネオ様、家紋です。子爵になられるのですから」


 ニコレット様がにこりと笑ってサポートをしてくれた。



「そうでした、家門の紋章は自分で決めて良いのですか?」

「はい、元からある子爵家を受け継ぐのでなければ新しく作ればよいのですわ」



 しまった!

 紋章デザインまでは考えて無かった……。 



「ではこの三振りの剣は取り置きしておいてください。紋章が決まったら改めて刻印していただくと言う形で」


 いくらなんでも子爵の騎士が一人ということはないのでひとまず三振りとも予約しよう。


「ふむ、それで承知した」



 そしてドワーフは人間ではない違う種族のせいか相手が貴族になる相手でも低姿勢にはならないらしい。

 高潔な感じが逆に好ましい。

 武器屋の頑固親父はこうでなくてはな!



「さっくりと剣は決まりましたね、次はマントの方ですが」

「そちらは後日、衣装店の者が当家に来ますから、そこで一緒に注文すればよろしいですわ」



 それもそうかもな。と、考え直して近場のカフェでニコレット様とお茶をした。


 二人で美味しいお茶を飲み、カヌレを食べて食べて歓談し、それから解散した。

 ついでに帰り際に立派な仕立ての上着とベストは脱いで、平民っぽく装った。


 俺は一人でオレンジ色の夕焼け空の下を歩き、貸家のご近所さんの前を通り掛かった時、お庭にテーブルを出して母娘が一緒に夕食を食べているのを見かけた。



「にがい! これにがい! キライ!」

「わがまま言わずに野菜も食べな!」



 どうやら夕食にほうれん草の炒め物をだされて苦いと騒ぐ子供がいて、若いお母さんが困ってる様子。



「下茹でを省いたら苦くなるかも、下茹でをしてからベーコンと一緒に炒めたらとても美味しくなるよ!」



 おせっかいながら、俺はつい口に出してしまった。



「えー、下茹でとかいるの?」


 なんだかギャルっぽさのある若いママである。

 親があまり料理しないタイプだとこうなるのだろう。

 俺なんか親が急に蒸発したから自分で料理してこの身で覚えていったが。



「はい、ひと手間かけてやると美味しくなりますよ」

「そうなんだー、仕方ないから今度は湯がいてから炒めるわ」

「はい、そのほうが多分、子供が野菜嫌いを克服できるかと」


「教えてくれてありがと、おにーさん!」

「いえいえ、通りすがりにおせっかい失礼しました」



 子供は苦い苦いと言いつつも、今回は諦めてそれを食べろと諭されていた。


 これもしつけであり、教育……。



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