第16話 新しいおもちゃと女子会とパジャマパーティー
家に帰ってユージーンは疲れたのかさっさと寝てしまった。
その後俺は早速スマホもどきの説明書を読み、そして絶望した!
起動する為には魔石ボタンに魔力を乗せた指先で触れろと書いてあったのだ!
この俺には魔力がないんだって!
「あー! 詰んだ! ニコレット様! 魔力いるなら言っておいてくれ! ……いや、ニコレット様は当たり前に魔力あるから起動で苦労したことなんかなくて失念してたんだろう……」
でも、もしかして、令嬢達から吸収した魔力が少しでも俺の体に残っていたらいけるのでは!?
と、思い直してやってみたら起動した!
「よっしゃっ!! ありがてえ!」
ブウンと、パソコンの起動音のようなものが鳴った。
ワクワク。
おお、魔導サロンという名の掲示板なのか。
貴族が使うだけはあるな、品がある気がする。
流石に◯ちゃんねるとかではないか。
【入り口】
入り口ってのが書いてあるからここを押せばいいんだな。
魔導サロンに入ってみれば、掲示板にはいくつかのルームに分かれているようだった。
何々板みたいな感じだな。
早速情報共有広場というところを覗いてみる。
「魔力嵐の治療師もしくは薬の情報求む」
そんなタイトルが目に入った。
どきりと心臓が跳ねた。
情報求むなら、このお題で立てた人はまだ俺の存在を知らない訳だ。
でもよく見ると、見つけたらここに連れて来て欲しいと書いてある土地名に……俺が飛び出してきた本国のザカロス王国の名前がついてる。
まだ出てきたこのザカロス国には関わりたくないから、こっちから近寄るのはよそう。
俺はそのタイトルのスレッドをそっと閉じた。
悪いな! ザカロスの魔力重視の社交界はジョーベルトを追い詰めて殺したようなもんだし!
因果応報だよ!
俺は文字を書き込み、新規で食材を探すスレッドを建ててみた。
求めるのは米と醤油と味噌とカカオとバニラビーンズと、おまけに竹である。
それぞれの特徴などを書いておく。
そしてザカロスの名前を見てしまったせいでマギアストー厶の患者募集を書くのはひとまずやめておいた。
「えーと、以上の素材情報をお持ちの方はこちらのスレに書き込んでください」
と入力完了。
実際物が見つかった場合。
持ってる人がいたら俺が取りに行くかあの岬の灯台の中にはリアルの伝言板があったので、あそこを待ち合わせ場所にしてみようかな?
などと考えつつも秘密のバラ庭園とかいう意味深な名前のルームを発見。
なんだろうと思って閲覧してみると、お腐れ様のお嬢様のお部屋だった。
〈今日も当家の推しの騎士達が二人して朝から仲良くしていたのですわ! 寿命が延びますわ!〉
〈詳しく! ですわ!〉
〈全裸待機……ですわ!〉
〈ドレスは着てくださいまし、風邪をひいてしまいますわ!
「……これは……」
BL《ビーエル》板だ!!
あちらの板の言葉をお上品にしたような感じだな。
人類はどこも似かよった性癖の方がいるもんだ。
てことは、秘密の百合庭園もあるのか!?
と、思ったら無い。
まぁ、俺は別に……無くても泣かない。
ほかにも百合の家紋の人と獅子の家紋の人が怪しいとか意味深な事を書いてあるスレもある。
ゴシップが沢山ありそうだなあ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「女子会」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
一方、その頃、すっかり夜の帳に包まれたニコレットの別荘では泊まりこんだ令嬢達により、女子会が始まっていた。
ゲストルームに元々二つあったベッドに一つ追加でを三つのベッドを並べてくっつけている。
そこには飲み物はワインと、おつまみにカナッペやクッキーなどのおやつも持ち込みされていた。
「私、女子会のパジャマパーティーなるものは初めてですわ」
「私もですわ、エマ嬢。ネオ様が帰る間際に女子会楽しんでくださいと言われて、なんのことかお聞きしたら、夜に泊まりで集まるならパジャマパーティーというものができて、寝室に仲良しの友人と寝巻きでおしゃべりしたりお菓子を食べたりする文化が、どこぞの国にあるとおっしゃっていましたから」
「私も初体験で楽しいですわ、通常は寝室にお菓子など持ち込んだら怒られますものね! ところでエマ嬢、そのハンカチは? さっきから大事そうに胸に抱えて持っておられますが」
「レベッカ様、これはネオ様のハンカチを洗濯して乾かしたものですわ」
「せっかく洗濯したなら鞄にしまっておくといいのでは?」
少し嫉妬を滲ませた瞳をエマに向けるニコレットとレベッカ。
「実はこのハンカチ、家紋が刺繍してあるようなんです」
エマは素直にハンカチを広げて見せた。
「「家紋が!?」」
「やはりネオ様は貴族出身説が濃厚ですわね」
ニコレットの口元には明確に笑みが刻まれていた。
「ええ、ニコレット様。そして、お二人ともご覧ください、この家紋の刺繍、蔦と、中心に炎ですわ」
「蔦が囲んでいるなら、大きな森をお持ちの領地出身の可能性がありますわ」
レベッカは冷静に分析する。
「炎も家門の初代が炎魔法に長けているを表していることが多いですわね」
エマもレベッカの発言に乗って言葉を続けた。
「私、実は隣国から転移スクロールに使う魔力を帯びた紙をたまに仕入れているのですけど、紙にこの家紋が入っているのを見たことがありますの」
「隣国! 本当ですの? エマ嬢!」
「エマ嬢! 名前は、家門の名前はご存知ですの!?」
「確かビニエス侯爵家だったかと」
「侯爵家!!」
ニコレットの瞳は喜びで強く輝いた。
「家格高いじゃないですか!」
伯爵令嬢のレベッカもこれには驚く。
「私、ネオ様は男爵か子爵くらいではあると思ってましたけど、まさか侯爵家の方だとは」
ニコレットはそう言った後、上機嫌の顔で喉を潤す為に赤ワインをぐいっと飲んだ。
「あっ、でもそのハンカチがたまたま貰い物の可能性もございません?」
レベッカがハッとした顔で言うと、
「ま、まあ、その可能性も無きにしもあらずですが、わざわざ他家の家紋入りを使いますか?」
エマはやんわりとその可能性は低いと示唆する。
「それはそうですわねぇ」
レベッカも素直に同意する。
「そしてわざわざ身分を隠して隣国まで来た理由が、気になりますわ」
エマは心配そうにそう語り、ワイングラスを傾けた。
「私、ちよっとビニエス家について探ってみますわ」
「あの、ニコレット様の方で詳しく調査されるなら、その結果はわたくし達にも教えてくださいますか?」
エマは甘えるような仕草でニコレットを見つめた。
「ハンカチの家紋を見せてくれたのですから、そこはケチケチせずに教えますわよ」
「ニコレット様、流石ですわー! このレベッカにも教えてくださいませね!」
「よくってよ!」
などと女子会のパジャマパーティーの文化をわざわざ伝え、自ら出自のヒントをもばらまく結果になったとは気がついてないネオはその頃、掲示板の内容を閲覧するのに夢中だった。
本人としては元々令嬢達は友達同士なのだから、なるべく険悪にならずに仲良くしてほしくて提案しただけであった。
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