恋人は吸血鬼!
崔 梨遙(再)
1話完結:1300字
「アカン!」
冷たく突き放したのは、探偵事務所兼超常現象解決所を営む黒沢影夫。突き放されたのはレオンという吸血鬼だった。レオンは色白、背は平均的、ちょっと華奢でジャージ姿だった。顔の彫りは深く、外国人らしさをなんとか保っていた。
レオンは、黒沢が持つ砂かけ婆の惚れ砂をわけてくれと頼み、冷たく断られたのだ。レオンは気の弱そうな顔をしている。雰囲気は、不健康なニートみたいだった。
「ダメですか?」
「アカン、みんなが惚れ砂を使うようになったら、この世の中がめちゃくちゃになるやろ? やっぱり、惚れ砂で人の心を支配するのは間違いやで」
「……自分は使ってるくせに」
「何? なんや? なんか言いたいことがあるんか?」
「自分は惚れ砂を使って事務員の恋人を作ってるじゃないですか」
「なんで僕が惚れ砂を使ったと思うねん? 普通に恋愛したんや」
「あんな美人があなたを選ぶわけないじゃないですか」
「お前、気の弱そうな顔で猫背のくせに嫌なことを言うんやな」
「でも、どうしても付き合いたい人がいるんです。お願いします」
「吸血鬼やったら、女性を自分のものにするくらい簡単やろ?」
「あ、俺、血が苦手なんです。血を見ると気を失うんです」
「吸血鬼ちゃうやんか!」
「いえ、正真正銘の吸血鬼ですよ。何故か僕は一族の中でも特別らしくて」
「血を吸わへん吸血鬼は、もう人間や」
「そうなんです、母が人間だったせいか、昼間に歩くことも出来ますし」
「普通に口説いたら?」
「僕、ニートなんですよ。学校も行ってないし、断られますよ」
「なんで学校に行かへんかったんや?」
「僕、戸籍が無いですから。住民票も無いし」
「どうやって暮らしてるねん?」
「親からもらった館に住んでいます。親が金持ちなので、一生働かなくても生きていけます」
「なんか、羨ましいな」
「で、惚れ砂は無理ですか?」
「アカン、渡されへん、悪いな」
「わかりました」
「思い切ってアタックしてみろや」
夜、レオンは公園で片想いの相手の由貴を待っていた。すると、悲鳴が聞こえた。駆けつけると、由貴がオッサンに押し倒されていた。痴漢か? レオンは後ろからオッサンを蹴り飛ばした。オッサンは懐からナイフを出して突いてきた。レオンは手の平で受け止めてしまった。幸い、刃は骨で止まり、大怪我にはならなかった。ただ、レオンは自分の血を見て貧血、気を失いそうになった。
「どうしたんですか?」
「俺、血を見ると目眩が」
「助けに来てくれたんじゃないんですか?」
「ああ、そうだった」
レオンは由貴を後ろから抱き締めた。
「何してるんですか?」
「飛ぶよ!」
レオンは由貴を抱えて舞い上がった。そう、吸血鬼は飛べるのだ。
「スゴイ、なんで飛べるの?」
「俺、血は吸わないけど吸血鬼なんだ」
「どこへ行くの?」
「君の家まで送るよ。喧嘩は得意じゃないから逃げちゃった、ごめん」
「いいのよ、喧嘩しなくても助けてくれたんだから」
「俺、君のことが好きなんだ、俺と付き合ってくれないか?」
「また、空の散歩に連れて行ってくれる?」
恋人は吸血鬼! 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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