夢は

月這山中

序文

文章にしたいことなんて初めからありはしなかった。

今でも思い出すのは、小学校での最初の作文授業。原稿用紙が配られて、机の前で泣きじゃくったこと。

私に書けることが何もなかったからだ。


現実にあったのか、夢で遭遇した出来事なのか、あまりに遠い記憶でわからないが。

今でも夢と現実の境を見分けるのは得意ではない。悩まされるのは現実で知った顔が出てくる時だ。

何かを頼まれたり、約束されたりする。

夢らしい突拍子のない「カエルを井戸から取り出してくれ」というようなものならそれとわかるが、「明日玄関で待っていてくれ」と曖昧すぎるものもあって、夢から覚めても頭の隅で呪縛され続けることが時々あった。


机の前で泣きじゃくったあの日を思い出しながら。

夢と現実が入り混じったこの世界を、写し取る模索を続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る