2011/12/23

 目が覚める

 窓の外は暗い

 また夜まで寝てしまったかと、悪態をつく

 電灯を入れようとするがスイッチを押しても付かない

 どうして場所がわかったのかというと光源がある、スイッチの上、生活にかかわるメーターがあり、そのいくつかのライトが青く光っている

 チカ、チカ、と二種類の蛍光灯が点滅する

(どちらも見覚えのあるものだったので違和感を感じないのだと思った。片方は実家の私の部屋、もう片方は今の下宿のものだ)

 ようやく明るくなり、眼鏡を手に取る

 コンロを見ると鍋で湯がぐらぐらと煮立っている

 つけっぱなしで寝てしまったんだろうか

 なにか食べないと、丁度いいからスパゲッティでいいか

 ここでふと違和感に気付く


 目が覚める

 やはり夢だった

 私の頭の隣、枕の上に眼鏡がある

 それを触った感覚が、現実の証明と思い起き上がる

 身支度をする

 メールの返事を書く

 TV録画の予約があるからパソコンはつけたまま

 玄関のドアを開けた


 目が覚める

 やはり夢だった

 視界がまるで斜めの鏡を見ているように、妙な方向へ動いて一向に身体を起こせない

 もう一度寝なおす


 目が覚める

 一瞬だけ、部屋に窓が無いのかと思った

 良く見れば腰の高さくらいまでの窓が二つ、壁と同じ色のカーテンで隠れているだけだった

 部屋の中は陽光で明るい

 外へ出よう

 ワンルームと玄関を仕切るドアに近付く

 だが力が入らず、ドアを開けない

 そのままもたれかかり、ドアノブの冷たい感触を感じながらずり下がっていく


 目が覚める

 ようやく見覚えのある壁を確認する

 だが、たった今、壁に突いたはずの手が視界に入らない

 ぞっとして寝なおす


 目が覚める

 今度こそ現実だろうか

 ドライヤーの熱い風を被れば分かるだろうと、手に取りスイッチを入れる

 入れて、もう一度切ってみる

 それでも風の唸りが続いてる。熱い風の感触は、無い

 止まらないドライヤーを置いて、やはり夢だと寝なおす



 丸めた布団の感触は

 誰かの頭を撫でているようだ



 目が覚める


 見えたのはいつもの天井と壁。ああ、そうだ、そこにお土産のお面が掛かっていたんだ。

 メモ書きに本に、夢の中よりも部屋が紙で散らかっていたことが判明した。

 夢の部屋は、同じ生活圏の空気を封じていても、情報量はそぎ落とされていたのだろう。

 時計を確認して、相当な遅刻であることも解った。


 電灯は一つ。

 コンロはなく電磁調理器。

 青く光るメーターもない。

 外の日差しが入るのは、ベランダに続くスリガラスの戸だけ。

 覗かれて困ることもないのでカーテンは常に全開。

 ワンルームの部屋と玄関は区切られていない。

 録画の予約があるからパソコンはつけたまま……


 眼鏡を掛けようとして違和感に気付いた。

 そもそも自分は視力が良く、眼鏡など作っていない。


 夢から覚め、確固として共存していたはずの必需品が、手触りの記憶ごと失われていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る