第20話 レイちゃんの身体能力 1
「それでは、レイちゃんの身体能力測定を行います」
「はいっ!」
アニカの言葉に、レイが短い右腕を真っすぐ上に伸ばして元気に返事をした。
修行は、なぜかアニカ主導でレイの身体能力測定から始まることとなった。
『レイさまの身体能力は高いですから、ライは怪我などなされぬようにお気を付けくださいね』
『ありがとう、セツ。でも心配無用です。なぜなら私は、魔法の家だから』
二枚目風に宣言した家は、内部をグググンと大きくしていった。
真ん中に立つ太い柱を目印に家の中央部に集められたオレたちは、成り行きを見守っている。
これがいつも暮らしている家? と思うほど室内は大きく変化していった。
豪華な内装から体育館のような状態に変わっていく。
見事な調度品の数々はどこへ行った? と思わないでもなかったがそこは魔法の家、どっかにストックしてあるのだろう。
だだっ広い室内には邪魔になるような物は見当たらなくなった。
なんならガラスのはまった窓まで消えた。
でも室内は明るい。
さすがは魔法の家だ。
「これならレイちゃんが暴れても問題なさそうね」
満足そうなアニカに対し、
『いえ、それはどうでしょうか……』
と心配げなAIセツ。
「ワタシ、がんばるっ」
しゃべる赤いおリボンの心配をよそに、ロボット生命体レイちゃん五歳は今日も元気だ。
「最初は何から見せてくれるのかな?」
「ん、レイちゃんつよいトコみせる」
そう言いながら、レイの顔が踏ん張っているように見える力の入った表情になった。
これはアレだ。デカくなるやつだ。
アニカや家が見守る中、レイのピンクと白のツートンボディが発光しつつグングンとデカくなっていく。
幼児体型のままデカくなっていくロボット生命体は、どこまで大きくなるのか?
オレも興味を持って見守った。
二メートルを過ぎ、三メートルを過ぎ、グイグイと体を大きくしていく。
生き物のサイズとしてどうだろう? という高さになってから巨大化は止まった。
「ん。こんくらいで、おしまい」
『いまのレイさまですと、九メートル程度が限界です。城壁くらいの高さになるとまたげないくらいのサイズですね。もちろん、力業で壊して進むことは可能です』
微妙に分かりにくいセツの説明に、アニカがウンウンとうなずいている。
『ライ、大丈夫ですか? 大きくなったレイさまの高さに合わせるのは大変でしょう?』
『高さは大丈夫です。ただちょっと床が辛いですかね……』
気遣うセツの言葉に、家がちょっとだけしんどそうに答える。
ふふん。家の弱点が分かったぞ。
重さか。
確かに予想外の重さは腰にクルよな。
家の場合は、床にクル、か?
「レイちゃんはっ、ちいさくもっ、なれますっ」
デカいレイが、また顔に力を入れ始めた。
じわじわと光始めると、今度はさっきとは逆にグイグイ縮みだす。
いつもの適正サイズを通り越してもドンドン小さくなっていく。
思わずオレは叫んだ。
「レイッ、適当なところで小さくなるの止めて!」
「そんなっ、おっきなこえださなくてもっ、きこえるっ」
オレの声がうるさかったらしい。
そら豆くらいの大きさになったレイが床の上で叫んでいる。
ミニミニサイズではあるが、まだ裸眼で確認可能だ。
「うわぁ……可愛い……カッコいいの後に可愛いがきたぁ……」
アニカが目をハート型にして床の上を見つめている。
確かに可愛いよ、そら豆大のロボット生命体。
踏みつけちゃいそうだけど、ちょこまか動くから踏みつけられないし。
もっとも踏みつけたところで丈夫なボディで出来ているから壊れないだろうけど。
などと考えていたオレの体が突然バランスを崩す。
「うわっ」
「ちいさくても、レイちゃんつよい」
オレの足元に潜り込んだレイが、靴底から持ち上げようとしてきた。
「わっあっぁっ」
「おっと危ない」
オレがバランスを崩して転がりそうになったところでアニカの補助が入った。
わー、アニカのふわふわボディがオレを支えているー、じゃなくてっ。
「やめてっ! 危ないからっ!」
『そうですよ、レイさま。人間は我々と違って弱いのです。おいたはメッですよ?』
オレの叫びに、セツも同意してくれた。
協力的なAI、助かる。
「はーい」
レイの元気のよい返事と共に、オレのバランスは元に戻った。
ホッとしたような残念なような気持ちでアニカから離れるオレ……。
『このようにレイさまは体のサイズを変えることができますし、力もあります』
「そうなんだね。レイちゃんは強いな」
セツの説明にアニカはウンウンとうなずいている。
「うん。ワタシつよい!」
元のサイズに戻ったレイは嬉しそうに、細い右腕を曲げて力こぶを作って見せた。
細っこくて弱そうだけどね。
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