第15話 楽しい食事 1

 レイが寝ている間に、タミーさんが食事の支度を始めた。


 オレとアニカもタミーさんを手伝うという名目で台所に入って……つまみ食いだ。


 昼食をとりそびれているからね。


 それがなくてもタミーさんの作るものは美味しい。


『食事の支度くらいなら私でもできるぞ、家主』


 いつもの調子で家が話しかけてくる。


「ライさま、ご心配なく。料理は私がしますので」


 タミーさんが笑顔で答える。


 でも、こう、笑顔と愛想のよい声の奥にメラメラしたものを感じるというか、なんというか……。


 まぁ、タミーさんにはタミーさんのプライドというものがある。


 お手伝いさん歴も長い人間 VS 魔法の家。


 そんな図式が垣間見えた瞬間だ。


 もっともコミュ力高いタミーさんと家がケンカになることはないだろうけれど。


『でも私、色々とできますよ』


「結構です」


 しつこい家にピキッときていそうなタミーさん。


 やっぱり、家の声が聞こえないようにしたほうが平和かなぁ。


 と思いつつカナッペをひとつ口に放り込むオレ。 


 この家の台所は広い。


 タミーさんの要望を聞いたオレが家に命じたからだ。


 食器はもちろん、焼き型やオーブンなど色々と揃っている。


 買ってきたわけじゃなくて、家が魔法で出したものだ。


 レイの好きな食べ物が分からないから色々と並べて様子を見る作戦のようだ。


 土台の部分は薄いパン。


 クリームチーズを塗って、その上にフルーツや生ハム、魚介類なんかを乗っけている。

 

 甘いのも、しょっぱいのも作って好みを探るようだ。


「お子さんだから、紅茶よりもココアの方がいいかしら?」


 などと悩みつつ作業を進めるタミーさんの横で、オレとアニカは味見役だ。


「石が好き、とか言ってましたけど。石っぽい味のものって何ですかね?」


 真顔でアニカが言う。


「なんでしょうね? 土とか泥とか? それとも鉄とか……鉄分だとレバー……」


 タミーさんが真剣に考えている。


 いや、その辺のことはAIであるセツに聞いたほうが早いのでは?


 子どもだから甘いモノが良いのでは? と思いつつフルーツの乗ったカナッペを口に放り込む。


 これはイチゴクリーム味だな。


 レイはピンクと白のカラーリングだから、イチゴも好きそうだ。


 生のイチゴの時期はそろそろかな、と思いつつ、もうひとつ口に放り込む。


 こっちはクリームチーズの上にスモークサーモンが乗ったものだ。


 甘いとしょっぱいは繰り返すとエンドレスだよな、と思いつつ紅茶もひとくち飲む。


 ちなみにオレとアニカは台所で立ったまま食べているので立食形式だ。


 タミーさんは大らかなので、この程度では怒らない。


『私も何か作りましょうか?』


「結構ですっ!」


 家のしつこさにタミーさんのイライラ度が高まっているようだ。


 この家は出来ることが多くて本当に便利なんだけどウザいんだよね。


 サポートに回ってくれたら心強いんだが、出しゃばりなんだよ。


 だいぶ料理も出来てきて、食堂に並べる作業も終了間近だ。


 味見は一通り済ませたし、オレはロボット生命体の様子のでも見てこようかな――――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る