第13話 楽しいお部屋選び 1

 レイがあくびしている。


 ロボット生命体とはいえ五歳だから、疲れちゃったんだろうな。


 今の時刻は午後一時。


 昼ご飯を食べそびれている気もするが、まずは五歳児を昼寝させたほうが良いような気がする。


「おい家。レイちゃんの部屋を用意してくれ」


『分かった、家主。レイちゃんとセツの部屋だな?』


 そうかそうか、AIはロボット生命体とは別にカウントするんだな?


「ああ、そういうことだ」


『だ、そうだ。レイちゃんとセツは、どんな部屋が好みかな?』


『そうですね。レイさまは丈夫な部屋がお好きです』


 ん、そうか。


 ロボット生命体は体と同じで部屋にも頑丈さを求めるんだな。


『私の部屋はどこも丈夫ですよ』


『ならば安心ですね』


 ロボット生命体界の建築基準を満たしているかどうかはともかく。


 この家は魔法の家だからね。


 どうとでもなるさ。


『レイちゃんは、どんな部屋がいいかな?』


「ん……レイちゃんねぇ……」


 おや、ロボット生命体は丸みのある右手をアゴにのせて固まってしまったぞ。


『あー、五歳児には難しい質問だったかな? 私は魔法の家だから、どんなご要望にもお応えできるぞ』


 はいっ、自慢入りました。


 この屋敷、ライニングマジックベルト・ザ・シャトー【通称ライちゃん】は変形可能な魔法の家だ。


 自由自在に変わることができる。


 でも、屋敷が建っている土地には限りがあるし、意思があるから気分で勝手に変わったりできる。


 建物の概念をぶっ壊す勢いで可変な家って、人間にとっては厄介なだけだからな?


『さぁさ、五歳児らしいワガママな要求をしてご覧? 私はそれに応えることができるよ』


『レイさまは、自分で部屋選びをしたことがないので戸惑っておいでなのです』


 まぁ、そうだよな。


 五歳児なんて言われたトコで寝るくらいだよな。


 気分で隙間に挟まったりするかもしれないけれど、好みの部屋って言われると困るだろう。


『レイさまは道端で寝たりしてきたので、部屋と家の違いも理解できているかどうか……』


 道端で寝る?


 ストリートチルドレンなの? ロボット生命体。


 どんな過酷な生活してきたの、レイは。


『子供は思い切り暴れなさい、というのが教育方針でしたので。異世界こちらとは少々常識が異なるかもしれません』


 ……少々ですかね?


「レイちゃん、みちっぱた、すき」


 そうか、そうか。


 本人が好きなら仕方ないね。


「レイちゃんねぇ~。つちでねぇ~、くさとかぁ~、きとかぁ~、はえててぇ~。石がぁ、ゴロゴロしてる、みちっぱた、すきぃ~」


 ……まぁ、本人が好きなら仕方ないか。


「実際の部屋を見て決めてもらったらどう?」


 ジッとロボット生命体を観察していたアニカが言う。


「そうですよね。実際に可愛いお部屋を見てもらったほうが、レイさまも選びやすいですよね」


 タミーさんも賛同した。


 ふたりとも意識を失ったように沈黙していたが、無事に正気を取り戻したようだ。


『そうですか? ならば、サンプルをお出ししましょう』


 家が言うが早いか、オレたちの足元を残して、室内全体がグルグルと姿を変えながら回り始めた。

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