第11話 アニカ大喜び
何か知らんが、なんやかんやでロボット生命体のレイちゃん五歳を預かることになってしまったオレは、聖女や神官に見送られて帰途についた。
召喚の儀でお疲れでしょう、とか、勇者さまをお願いします勇者さま、とか、アニカさまにもよろしく、とか言うなら自宅まで送ってくれてもいいんですよ?
とは思ったけど、面倒なので黙って転移魔法陣を使って帰ってきた。
魔力量の消耗が激しくて危険だから治癒士も揃えておきますよ、と言っていた召喚の儀の後、マッピングで召喚の間(ロボット生命体のレイちゃん五歳を召喚した部屋には名前があった)の修復もしたんだが、その辺はノーリアクションだったな。
あの治癒士たち、オレの体調を心配して揃えたというより召喚の儀を見学したかっただけなんじゃ疑惑まである。
まぁ……あいつらからしたら、残りの魔力量とか一目瞭然だから心配されなかったのかもなぁ。
魔法使いによって使えるスキルは異なるが、治癒士たちにとって治療対象の状態を確認できるスキルは必須だ。
だからオレの状態も確認されていたに違いない。
でもさぁ。治療のために控えていたなら、もちっとオレに気を使えよ。
オレだって、ちょっと構って欲しい時はある。
今日の仕事はレイの登場によって注目かっさらわれたからなぁ。
いや、いいんだよ? オレはコミュ障だから、ちやほやされんの苦手だし。
苦手だけれども……もちっと労わってくれてもよくね?
仕事した上、いきなりロボット生命体のレイちゃん五歳のお世話押し付けられるとか、あり得なくね?
いや、レイは大人しいし、キチンと言うこと聞くし、子守りAIもセットになってるから手間はかからないけれど……。
などと思いつつ、レイの手を引いて自宅前に辿り着いた。
案の定、お手伝いさんであるタミーさんは大喜びだ。
優しい茶色の目をキラキラと輝かせて出迎えてくれた。
タミーさんは、レイの姿を上下左右と自らの体を移動させながら眺めながら言う。
「まぁまぁまぁ。先ぶれは頂いていましたが、この方がロボット生命体のレイちゃん五歳さまなのですか? まぁまぁまぁ。とても可愛らしいですね。お疲れさまです、いらっしゃいませ。まぁまぁまぁ」
「ワタシ、レイちゃん。五さい」
レイは顔に比べて短い右手をタミーさんに向かってのばし、短めの指をめいっぱい広げて手の平を見せて挨拶した。
「まぁまぁまぁ。私はタミーと申します。こちらのお屋敷で働いておりますので、何かして欲しいことがあったら声をかけてください。それにしてもレイさまは、キチンとご挨拶が出来て偉いですね」
「ふへへ」
タミーさんに褒められて、レイは頬を染めながら多面体の顔に笑顔を浮かべた。
表情が豊かだな?
これがロボットとロボット生命体の違いか?
『私はレイさまの養育係のAI、セツです。子守りや守護の役割を果たしています』
続いて、赤いおリボンスピーカーからセツが挨拶をする。
タミーさんは驚いて少しのけ反った。
「まぁまぁまぁ。AIさまもご一緒なのですね!」
『私の名前はセツです』
「まぁまぁまぁ。これは失礼いたしました。セツさまですね。私はタミーと申します。こちらでお手伝いをしていますので、何かして欲しいことがありましたら声をかけてくださいませ」
大興奮だな、と思って溜息混じりにタミーさんを見ていると後ろで魔法陣の起動する気配がした。
続いてアニカの雄たけびに近い歓喜の声が響く。
「うわー! ホンモノだぁー!」
オレは振り返ってギョッとした。
アニカは
「ロボット生命体が目の前にいる~。凄いっ!」
アニカはレイの正面に駆け寄ると、頭の上から下まで舐めるように見た。
そして背後に回って、また頭の上から下まで舐めるように見ていた。
「あぁ、ホントにホントモノのロボット生命体だぁ~。異世界にようこそっ!」
アニカはレイの小ぶりでロボットにしては少し丸みのある手をギュッと握るとブンブン上下にゆらしている。
レイの頭の上で、ピンク色のツインテール部分もブンブン揺れている。
ついでにアニカの巨乳も深い緑色のフード付きのマントの上からでも分かるほど揺れている。
良い。
アニカはキラキラと輝く茶目の瞳で
確かにアニカは喜んでいるよ、クリスティンさま。
助言に従って我が家へと連れてきて正解だったかもしれない。
面倒なことになりそうな気はするが、アニカの可愛い姿を見られたので何とか頑張れるような気がする。
そう思ったことすら後悔する羽目になりそうな気もするが、夢中になってレイを観察しているアニカを観察するというのは思いのほか楽しい。
アニカはひとつの事に集中して夢中になると無防備になる。
普段から割と無防備なので、もう装備なしのフルオープンな感じで素顔がダダ洩れだ。
アニカがとても可愛い。とても良い。
「うふふ。アニカさま、そんなにマジマジと見ていたらレイさまが困ってしまわれますよ」
「あ、それは困った」
「レイちゃん、こまってないっ」
「それはよかった」
なんだか和気あいあいとしている。
癒される。とても癒される。
みんな相性が良さそうだし、女の子同士(?)で楽しくやってくれそうだ。
ココにはアレだな。
犬とか猫とかモフモフした動物を足したらいいかもな。
そしたら癒され度が更にアップしそうだ。
治癒士どもよりも、よほど癒し効果がある。
ホントにアイツら、なんであそこにいたんだろう?
何の役にも立たなかったよな。
魔力消耗したんだから、癒しの技くらい使ってくれても良かったと思うぞ?
まぁ自然に回復したけどな。
アニカとちびっ子の組み合わせは癒される。
そいつがロボット生命体であっても、ちびっ子はちびっ子だ。
「うふふ、本当にルドガーさまは落ち着いてらっしゃる」
タミーさん、それは誤解です。
今のオレ、だらしなく鼻の下とか伸びてませんでした?
伸びてなかったなら、表情筋が死んでるせいです。
「本当にそうだよ。普通、ロボット生命体なんて伝説の存在を目の前にしたら昂奮するでしょ? 召喚の儀のときにレイちゃんが現れてもいたって冷静に対処したって聞いたよ?」
いやいや、アニカ。
オレだって動揺したよ?
態度に出にくいだけで。
しかもオレ、そのカワイイのとセットで勇者らしいよ。
不安しかない。
「私だったら昂奮しちゃって無理~。レイちゃんカワイイし。んん~、抱きしめちゃお」
「きゃはは。くすぐったいよ、アニカ」
ちびっ子ロボット生命体をアニカがギュッと抱きしめている。
あぁ、いいなぁ。ロボット生命体。オレもアニカに抱きしめられたい。
「うふふ。レイさまもお疲れでしょうから、いつまでも外で騒がないで家の中に入りましょうか」
タミーさんに言われて、アニカはハッとしてレイから体を離した。
「そうですね、タミーさん。レイちゃん、お家の中に入ろうか」
アニカが手を差し出すと、レイも手を差し出した。
レイの白くて少し丸みのある手を、健康的な肌色のアニカの手がギュッと握る。
「さぁ、家の中に入ろ。レイちゃんは、どんなお部屋が好きかな?」
「ん~、ウサギのお家っ」
「ははっ、ウサギ好きなの?」
「うん、大好き」
などとレイはアニカと話しながら、引っ張られるようにしてタミーさんが待つ玄関中に入っていく。
オレは、この感じなんかアットホームでいいな、と呑気に考えながらその後に続いたのだった。
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